TZ 7130:Glenn Spearman "Blues For Falasha"(1999)

 組曲っぽい不思議なアルバム。どこまで彼の意思だろう。ただし演奏は美味しい。

 ガンで他界の一年前、97年6月8日にダブル・トリオ編成で吹き込まれた。TZADIKに残した彼のリーダー作は本盤のみ。あまり根拠は無いが録音スタッフから見て、TZADIK向の録音ではなく、彼の死後にTZADIK側が本盤の発売権利を買ったと推測する。
 
 グレン・スペアマンは本盤で初めて知ったが、フリー系のテナー奏者。Wikiによれば60年代後半にカリフォルニアのオークランドで活動を開始、72年にフランスへ移住してEmergencyというバンドにて活動とある。
 このバンドは"Homage To Peace"アルバムを発表。同名のプログレ・バンドが"Get Out of the Country"、"No Compromise"といった盤を残しててややこしい。

 83年にアメリカへ帰国しセシル・テイラーのバンドなどで演奏してたそう。
 スペアマンのリーダー作は"Utterance"(1990)ほか10枚ほど。ラフ・マリクのサイドメンなどでも録音が残ってる。

 ダブル・トリオとしては"Mystery Project"(1994)が録音として最初か。他に"Smokehouse"(1994),"The Fields"(1996)などのアルバムがある。
 本盤はこれに連なる形式。ドラムが二人でテナーが二人。ベースとピアノが二人の変則の変則コンボでリズムを強調した。グレンがテナー奏者なのに、敢えて双頭ホーンにした意図は不明だが、サウンドを聴く限りサン・ラーなどに通底する混沌なフリー・ジャズが好みのようだ。
 
 正直ぼくは、スペアマンの聴きこみが足らない。本盤の音楽に、さまざまな別の音楽を連想してしまう。もう少しスペアマンの音楽へ触れたあと、もう一度この盤に戻ってきたい。

 冒頭の語りが入った曲は、アフリカかアメリカ黒人のフィールド・レコーディングみたいな荒っぽさあり。怪しい音程で唸るように歌い上げる素朴な楽曲の前で、グレンが語る。ウッドベースのみが伴奏を入れ、70年代フリージャズの匂いもするな。

 そして(2)で吹き鳴らされる、霧笛のような野太いテナーの息吹。じわじわと盛り上がるさまは、アフリカ的な雄大さと大編成フリージャズの助走がうまい具合に混ざった。
 大きく翼を広げ、展開や炸裂せずにドローンめいた響きが漂う。

 (3)でも炸裂に至らない。静かなパーカッションのきらめきと、残響や倍音を利用した密やかでノービートな風景が広がる。サックスすらも目立たない。音楽として不穏なスリルは楽しめるが、スペアマンの音楽としては異様な雰囲気。とにかくサックスすら鳴らない。ひたすら硬質で混沌が漂う。
 ビブラフォンが緩やかに鳴る。構成はフリー・ジャズっぽいが。アウトテイクや練習ではなく、一つの楽曲として演奏の緊張感あり。

 ついに(4)へ。ここから30分弱、怒涛な二管フリージャズの疾走が始まる。たっぷり力を貯めて、放出した。
 フリーキーにサックスが軋み、リズムが暴れ倒す。ウッドベースがくっきり聴こえる割にドラム二人の分離は今一つで、ビート的な対話はもやっと埋め込まれた。

 アルバム全体でみると、トータル性を持っており単なるセッションを寄せ集めたわけではない。ただしサックス奏者のフリー・ジャズを期待すると、かなり待たされる。LPでいうとA面が序章でB面が本領発揮ってところ。(2)でブロウこそあるけれど。
 幻想的、かつ物語性を持ったアルバムとして聴くべきか。少なくとも、単なる力任せのサックス奏者ではなさそうだ。

 吹き続けるブロウはパワフルで、軋みも滑らかにソロへ取り入れる。どっちかと言えばノイジーなサックスだが、類型的な形式主義に陥らず、インプロに力はこもってる。
 右側がスペアマン、左からソプラノで切り込むのがクリス・ブラウンか。クリスのソロからベースのアルコやピアノ・ソロに変わったとき、フレーズ使いが何とも日本情緒あふれる音列が流れて奇妙な気分になった。

 前半部分のじわじわと盛り上げるスリル、後半フリーでの炸裂っぷり。前半のひきしぼりがあってこそ、後半の暴力性が際立つ。最初はプログレ的な構築狙いかと思ったが、聴いてるうちに、静と動の対比表現かなって気もしてきた。
 いずれにせよ演奏は前半も後半も緊張感を保っており、聴きごたえある濃厚な作品だ。

 オリジナルは在庫切れだったのか、TZADIKは近年の再発シリーズで本盤も取り上げた。入手性が容易になったのなら、喜ばしい。その価値あるアルバムだ。


Personnel:
Glenn Spearman: Tenor Saxophone, Voice
Chris Brown: Piano, Prepared Piano
Lisle Ellis: Bass
Larry Ochs: Tenor Saxophone, Soprano Saxophone
Donald Robinson: Drums, Percussion
William Winant: Drums, Percussion, Tympani

 スペアマンの音楽を聴こうとYoutubeを検索。Emergencyの音源でこれがあった。ピアノが加古隆でドラムが豊住芳三郎だった。パリでの共演かな。


 91年サンフランシスコでカルテット演奏。熱くブロウしてる。これもウッドベース二人の変則的な編成だ。


 88年にHinds Brothersとの共演映像。テナー二本にドラムとチェロと、やっぱ変な編成。


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