TZ 8111:Jamie Saft Trio "Trouble-The Jamie Saft Trio Plays Bob Dylan"(2006)

 あえてディランをジャズで解釈した。煙ったジャズが美味しい。

 ジョン・ゾーンのサイドメンですっかりおなじみ凄腕の鍵盤奏者なジェイミー・サフトがピアノ・トリオ編成でディランを解釈した盤。後年にはこのコンセプトが続かず、本盤一枚にとどまった。趣味性が炸裂ってことか。
 サイドメンはゾーンの音楽に欠かせないグレッグ・コーエンと、これまたNY界隈で常連のBen Perowsky。手堅いメンバーを選んだ。ゾーンの色も濃い顔ぶれだが、あくまで音楽はサフトの仕切りでゾーンは関与せず。

 そもそもディランをジャズ化することに、どこまで音楽的な狙いあるのかピンと来なかった。ブルーズ的な曲が並ぶだけでは。
 ところが本盤を聴くと、さすがの説得力。メロディを解体し即興に埋め込む。きれいなメロディをぶっきらぼうに歌うディランの影を、さらにバラバラなメロディ展開で黒さを増した。予想以上にディランはジャズにはまる。

 ユダヤ人価値観もTZADIKの柱だが、その割にTZADIKでディランを取り上げてる印象は無い。たとえばソングブックでディランをテーマってあっても不思議じゃないのに。

 たぶん英語圏の人は、ぼくが想像する以上にディランは詞と音楽が不可分な存在のはず。洋楽として歌詞もわからず無邪気に聴いてるぼくとは違う、思い入れがディランの歌にあるはず。だからジャズ色の強いTZADIKでは、あまり近づかないのか。
 それをあえて無伴奏でディランをジャズ化したところに、本盤の特異性や異化効果があるのでは。本盤には歌入りの曲もあるけれど。

 余談。上記に続けて「だからディランのジャズ盤は希少だ」と書こうとして、念のために検索。・・・あるじゃん。しかもドラムがハル・ブレイン。インスト・ロックでのカバーかな。面白そう。CDはえらくプレミアついてるが、MP3販売もあり。ありがたい。いずれ、聴いてみよう。
 

 さて、本盤。8曲収録され、ピアノとオルガンをサフトは弾き分ける。べたべたな有名曲は外してきてる。発表アルバムを見てみよう。【ディラン盤/発表年】の記載。

Track Listing:
1.What Was it You Wanted 【Oh Mercy/1989】
2.Ballad of a Thin Man  【Highway 61 Revisited/1965】
3.Dignity  【Bob Dylan's Greatest Hits Volume 3/1994】 
4.God Knows 【Under the Red Sky/1990】
5.Trouble  【Shot of Love/1981】
6.Dirge   【Planet Waves/1974】
7.Living the Blues  【Self Portrait/1970】
8.Disease of Conceit 【Oh Mercy/1989】

 80年以降の、比較的円熟したディランの時期が中心だ。本盤のジャケ写にいくつかディランの盤があしらわれてるが、それとも関係ない。何ともマニアックな選曲って感じがする。
 どの楽曲もただよう香りはブルーズ。テイストは似通ってるが原曲に明確なメロディある分だけ、楽曲ごとの個性は明確に漂う。

 (6)のロマンティックなムードにしびれた。幻想的なピアノ・トリオは素晴らしく美しい。原曲のカントリー色をすっかりジャズの洗練に塗りこめた。
 最終曲(8)のベタなゴスペル的解釈も、無条件でしみる。

 奔放に崩しても、楽曲とは違う世界まで向かわない。あくまで原曲のムードを生かしたアレンジが嬉しい。ディランへの愛が透けて見え、けっしてきっかけづくりで適当に選曲したわけではない。
 となると、この選曲の理由をたっぷりライナーやインタビューで語って欲しい気がする。普通のディラン・ファンが選ぶ曲にしては、ひねりまくってるから。

 (2)と(7)が歌入り。(2)でパットンはもっと激しく崩すかと思いきや。むしろオーソドックスに凄みこめつつ歌った。まっとうな解釈でびっくり。(7)のアンソニー(って、だれだ?)も、クルーナー気味にか細く揺れる声で、きれいに歌う。どちらもボーカルの解体はせず。アルバム自体のペース・チェンジになってそう。凡百のジャズ・ボーカル解釈じゃないのは、ありがたいが。

 場末感漂う盤だ。おしゃれなラウンジでなく、タバコの煙った汚い飲み屋の片隅が似合う。それは誇らしい意味で。洗練に魂を抜かれず、どんなきらびやかな場所ですらも、泥臭いパワーをまき散らす。ディランの迫力があってこそ。
 ジャズ解釈って正直あまり、僕はピンとこない。でも、これは良いわ。かっこいいもの。
 
Personnel:
Jamie Saft: Piano, Hammond Organ
Greg Cohen: Contrabass
Ben Perowsky: Drums

Special Guests
Antony: Vocals
Mike Patton: Vocals

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