TZ 9008:Ha-Yang Kim "Threadsuns"(2000)

 エキゾティックな酩酊と無機質なミニマルが両立する、熱い弦カルだ。

 Ha-Yang Kimはチェリストであり作曲家。TZADIKでは"Ama"(2007)に続く2ndアルバムとなる。彼女はNathan Davis (percussion)とODD APPETITEってユニットでも活動した。
http://www.oddappetite.org/bios.shtml


 さて本盤は08~12年に書かれた3楽章形式の弦楽四重奏で、彼女自身は演奏に加わらず作曲のみ。
 特殊奏法を織り込みつつ、無機質で幻惑的な弦カルが広がる。いかにも現代音楽らしい、緊迫感と無味乾燥な旋律を響かせて。

 だが一楽章の中盤で、緩やかでしっとりした甘いメロディがじわっと立ち上がった瞬間ンは耳をそばだてた。この雄大で重厚な世界観が本曲の魅力。
 暗闇で軋む音が蠢き、きりきりと刻まれながらも、しっかりと確かにチェロが旋律を貫いてゆく。

 雪崩れうち畳みかけるバイオリンらのアルペジオと、カウンターで迎え撃つチェロ。一楽章終盤のダイナミックで詩的な展開も美しくて良かった。
 ロマン派の滴る旋律感ではない。20世紀を超えた硬質な鋭さをまとったメロディは、確かな存在感と説得力を持つ。

 第二楽章は静かな旋律が揺蕩うミニマルな展開。アジアン風味の湿気をまとったふくよかな響きが、じわじわと揺れ続ける。メロディの断片は展開しそうで、しない。瞑想的に漂うのみ。この無常な雰囲気と、不協和音が充満する不安定さは、無国籍だがアジア寄りで僕の耳にはすんなりと美しく馴染んだ。
 大きな展開をせず、16分弱の第二楽章を一つの楽想で押し通す。この潔さが心地よい。10分ごろにいったんムードは変わるものの、根本の雰囲気はそのまま。
 13分過ぎに聴けるエレクトロニカみたいなハーモニクスも、えらく綺麗だった。

 第三楽章も重厚な面持ちはそのまま。第二楽章のエキゾティックな雰囲気と、第一楽章の雄大な物語性を混ぜた。音を押し続けでなく、4分50秒あたりでスッと音を抜いてピチカートを強く響かせる展開も。
 ここまで本盤を聴き継ぐと、冒頭の無機質な印象はすっかり薄れて芳醇にむせ返る熱気が主な印象へ変わる。それくらいこの曲は、落差が激しい。
 終盤に向けて熱く重厚に、音楽はじっくりと加速していく。

 本作はルーマニア系ユダヤ人の詩人、パウル・ツェランの"Threadsuns"に捧げられた。原詩(英訳)はここで読める。
http://www.poetryfoundation.org/poem/250560

 

Personnel:
Jack Quartet
Kevin McFarland: Cello
Christopher Otto: Violin
John Pickford Richards: Viola
Ari Streisfeld: Violin

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