TZ 7030:Milford Graves "Grand Unification"(1998)

 ドラムの美しさに溺れた。これは凄いアルバムだ。

 60年代からフリージャズで活躍したミルフォード・グレイブスが、TZADIKから初リーダー作はパーカッションのソロ。ドラムを基調に、アフリカンなヴォイスが飛び交うリズムの奔流だ。
 表1には各種の太鼓がずらり並ぶが、音だけ聴いてるとドラム・セットを叩いてるっぽい。いっぽうでトーキング・ドラム風の奇妙な残響もあり、いまひとつセットが読めない。
 裏ジャケットには図形楽譜めいた譜面あり。上から下に音程が書かれ、棒グラフみたいな船が書かれてる。線の上下には数字が書かれてるが、これは音程すなわちセント値らしい。それぞれ二つの太鼓なりの2音域を明確にチューニングということか。

 ライナーに書かれた解説には作曲とあるが、即興性と偶発性を多分に含んだものであり、再現性やパターン構築とは別ベクトルと思われる。精神世界や抽象的なタームが並び、後付け理論っぽい。

 荒ぶるリズムが溢れる本盤は、おそらくダビングなし。ズラリと様々な太鼓を並べて叩きのめしてる。スティックのタッチはどこまでも柔らかく、打音は軽やかかつ甘く弾む。
 手数多い場面がほとんどだが、力任せな暴力性は皆無だ。しなやかで滑らかなスティックさばきが美しく優雅に太鼓を鳴らす。
 いわゆるリズム・パターンは無く乱打に近い譜割が続くけれども、通底する強靭なグルーヴ、ときおり挿入される躍動的なシャウトの双方に包まれ、心地よいリズムの沼に気持ちが浮かぶ。

 フリージャズ特有の緊張や小難しさは皆無だ。アフリカの原野を連想する、スケール大きな解放感と、多彩な太鼓から繰り出される幻想的な響きが美しい。
 恐ろしくアフリカンな響きで、ジャズ的な決まり事から自由に解放された。素晴らしい。
 
 個々の楽曲に身をゆだねる。確かなテクニックと、根底から溢れるビートの継続が、刺激的で酩酊を覚える。他のミュージシャンはいらないな。夾雑物をすべて排し、グレイヴスの価値観のみで仕立てた、傑作だ。めちゃくちゃに美しいドラム。 

 グレイヴスとジョン・ゾーンの共演を、TZADIKの50歳記念シリーズで聴いた。Youtubeでもいくつか、彼の演奏は聴ける。正直その時は、ピンと来なかった。アフリカン要素を多く取り入れた、上手いドラマーだが途中で飽きる、と。
 だが本盤を聴いて、がらりとグレイヴスへの評価が変わった。彼のドラムはしなやか、なんだ。たぶん共演で他のミュージシャンと合わせることで、リズム感や要素を変える懐深さを持つ。

 ところが本盤のようにドラムのみで彼の音楽へ向き合うと、温かく奔放で確かなグルーヴを持った、抜群に歌わせる名手だと実感した。前衛なんじゃない。小賢しい夾雑物が無いんだ。
 彼の評価が高いわけが、本盤を聴いてようやくピンと来た。なんて綺麗なリズムだろう。

Personnel:
Milford Graves: Solo Percussion

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