TZ 8096:Gloria Coates "At Midnight"(2013)

 間口が広くて、奥底はぐっと深い。素敵な現代音楽集。

 現代音楽のイメージは突飛な響きと唐突な旋律の跳躍。難しいコンセプトと希薄な単調さ。そんな先入観がぼくにはある。本盤も最初は、そんな感じかと思いきや。
 えらくオーソドックスなスタイルだな、と聴いてるうちに、丁寧で響きを重視する彼女の作品に、惹かれていった。

 ウィスコンシン州出身で欧州を活動の拠点なグロリア・コーツはアカデミックな教育を受けた作曲家。活動は長いらしく、本盤は1962年から2008年までの楽曲集となった。
 もっとも録音は1曲を除き2012年。思いついたらすぐに録音、とはいかないようだ。

 彼女の作品は倍音の優雅さ。メロディは時に緩やかに響き、その一方で質感はとてもふくよかだ。全5曲、楽器編成をそれぞれに変えて、音の鳴りを優美に表現した。

 (1)~(3)はバイオリンとオーケストラの競争曲。全部で20分程度の小品な三楽章形式。バイオリンはテクニックひけらかしではない。むしろ楽想を導く先導みたいなもの。

 たっぷりとリバーブを膨らませバイオリンが鳴り、時にギリリとハーモニクスを鳴らす。オーケストラは凄みを持って響いた。メロディはむしろ控えめに、空気そのものを膨らますかのごとく。第二楽章終盤の"A day in the life"みたいな、高らかに響くストリングスの凄みは最高だ。
 この楽曲のみ07年にイギリスで録音された。作曲は75年。現代音楽の歴史観は詳しくないが、彼女の立ち位置を後で調べてみたくなった。

 (4)~(7)は4楽章形式のピアノ・ソナタ。他の楽曲と同様に12年10月にドイツで録音。ここでもテクニック重視のめちゃくちゃな跳躍ではない。パッセージは速いけれど、響く和音は心地よく、メロディもきれいだ。そして頻繁にやたら高い音と低い音の残響が漂う。
 ペダルを思い切り踏んで、いっぱいに響きを残す世界観が幻想的だ。71年、(1)よりさらに古い時期の作品。

 (8)が62年と本盤で最も古い作曲。録音は12年の10月にイギリスで行われた。(1)のみ別個に作品が吹き込まれ、他が本盤用に製作か。
 弦楽四重奏の形式。トラックは一つだが、複数楽章かもしれない。スペイシーな展開と、弓を駆使して弦をこする響きの工夫がいっぱい。弦が絡み合い、まとわりついていく。サン=テグジュペリ「星の王子さま」がテーマ。ライナーから推測するに、当時ルイジアナの小劇場公演向けの楽曲か。

 (9)はギターの二重奏。ミュンヘンのギターフェスのオープニング曲とし委嘱された86年の作品。波打つストロークのモアレみたいな揺らぎが特徴だ。どうやって演奏してるのか、チューニングが上下する響きがスリリングに漂う。
 幻想的、むしろ迫りくる夢幻感に酩酊しそうだ。

 最後の(10)がコントラバスとピアノの二重奏。(9)や(4)~(7)と同じ日にドイツで録音された。
 これも奥深い低音の倍音が迫力もって迫りくる。個々のメロディに加え、ずうんと底響く弦の唸りと、強烈な打音のピアノがあいまった暗黒沼の粘りっ気が聴きごたえあり。

 取っつきは悪いストイシズムだが、決して耳ざわりは悪くない。なんか聞きやすいな、と思ってるうちに楽曲にこめた倍音の響きがぐいぐい魅力を増す。そんな味わい深い傑作だ。

Personnel:
Cambridge University Orchestra
Ruth Fischer: Guitar
Morgan Goff: Viola
Neil Heyde: Cello
Christine Hoock: Double Bass
Peter Sheppard Skaerved: Violin
Stephen Stiens: Guitar
Alessandro Taverna: Piano
Neil Thomson: Conductor
Mihailo Trandafilovski: Violin

 ネット検索したら、彼女の作品はいくつも上がってた。一番録音にカネがかかりそうな交響曲までいくつも。売れてる人なのかな。
 
 

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