泉谷しげる 「Wild Blood」(1993)

 様々な意味のフォーク・ロックを詰めたアルバム。


 泉谷しげるのバックバンドで、最も迫力あったのは本盤の前身にあたるLoser。村上秀一の強力なリズムと、吉田健のベースは本盤で共通なのに。Loserと何か違う。バンドでなく伴奏なのと、あとは作りこみすぎた音のためではないか。

 泉谷しげるは根本的にフォーク歌手だと思うが、本質的なロックの味わいを同時に併せ持つ。それが同世代の歌手との明確な違いと考える。内省的なフォークを歌うと同時に、パワフルな吐き捨ても達成する。詩人の才能と、高らかに吼える歌声。そして役者的な芝居っ気。これらすべてが合致したとき、素晴らしいロックが生まれる。それがLoser時期だと思う。

 その一方、詩人と歌声、芝居っ気のバランスが崩れたとたんに、ひどく癖のあるアルバムに仕上がってしまう。本盤は芝居っ気へ極端に振れ、なおかつギターの弾き語りな色合いが強く出た。
 たとえば(2)。ポンタと吉田の激しいビートとゴスペル的なコーラスで太いロックに仕上げたが、本質はアコギの弾き語りで成立する。
 (4)はカレッジ・フォーク、(5)は洒落たアレンジに仕立てつつも、4畳半フォークが本質と思える。(6)もアコギの弾き語りで、大阪風のフォークになりそう。
 ちなみにコーラスは山根麻衣が参加した。別の曲では金子マリのクレジットもある。

 その一方で、いかにもロックな楽曲がある。これこそが、僕の好きな泉谷だ。例えば(3)。メロウでハードボイルドな世界観を、太くナイーブな歌声で歌い上げた。サビでのおおらかな譜割の、なんとかっこいいことよ。
 似たような切ない畳みかけは(10)でも聴ける。(7)での酩酊トロピカルな浮遊感も、単なるフォークとは違う。これらの楽曲でも、確かにアコギ一本で成立する。しかしバンド・サウンドでこそ映える。せっかくのロックなアレンジならば、もっと曲の世界を統一する手もあった。

 しかし本曲は、あまりにも芝居っ気が過ぎた。楽曲よりも曲そのもの。泉谷が作った曲をズラリ並べ、片端からアレンジしたような取り留めなさを感じる。せっかくのスタジオ・ミュージシャンを揃えたのにな。(8)の最後で無伴奏サックス・ソロのコーダや、(9)での派手なギター・ソロもやりすぎではなかろうか。

 さらに本盤は、特にドラムの音色に凝りすぎだ。楽曲ごとにえらくタッチが違う。ものによっては歌を聴かせようとするあまり、バックが後ろに下がったミックスでどうにもバランスが悪い。
 この歌を生かす、伴奏って発想があまりに表へ出たことが、本盤のぎこちなさを産んだ。せっかくのリズム隊なのに。せっかくの楽曲なのに。どうせならもっと、曲調を合わせて、それに沿ったアレンジをして欲しかった。
  
Track Listing:
1.クレイジーラブ
2.責任者を探せ
3.夜と昼の顔
4.陽のあたる場所
5.他人に厳しく自分に甘く
6.楽園の人々
7.月のない夜
8.Wild Blood
9.クラスブルジョア
10.Hat

Personnel:
Producer, Arranged By, Bass – 吉田健
Arranged By [Strings] – 斎藤ネコ (tracks: 3, 8)
Chorus – 和田恵子 (tracks: 2, 3, 8), 吉田健 (tracks: 4, 6), 山根麻衣 (tracks: 2, 3, 8), 金子マリ (tracks: 1, 10), 坪倉唯子 (tracks: 2, 3, 8)
Drums – 村上"ポンタ"秀一
Guitar – 小倉博和 (tracks: 1 to 5, 7, 8, 10), 佐橋佳幸 (tracks: 6, 9)
Keyboards – 柴田 俊文
Percussion – Whacho (tracks: 2, 5)
Saxophone, Clarinet – 山本拓夫 (tracks: 1, 3, 5, 6, 8, 10)
Strings – グレート栄田ストリングス (tracks: 3, 8)
Trumpet – 小林正弘 (tracks: 1, 5, 7)
Violin – 斎藤ネコ (tracks: 6, 9)


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