Curtis Mayfield「Curtis」(1970)

 溢れる才能とパワーをしなやかに噴出させた一枚。サイケ的な展開は時代か。

 隙が無く、アイディアをふんだんに投入してる傑作だ。
 ソロ1stで自レーベル、カートムからの発売。Wikiによればインプレッションズ脱退の意思は無く、単にソロを立ち上げるつもりだったらしい。もし真実ならば、エンターテイメントの売れ線とは別次元に、政治的見解も含むさらに自らの主張と、音楽的挑戦を自分のブランド責任で発表したかったのでは。実際は本盤もヒットチャート上位を達成したが。

 音楽的挑戦としては、より白人的なアレンジを施したファンク。ストリングスやホーン隊を豪華に積み上げ、分厚いオーケストレーションを採用した。ここへ卓操作でジェットマシーンやリバーブ処理を加えサイケに飛ばす。
 やたらみっしり詰め込まれた感のサウンド・ミックスはカートム特有な気もするが、この辺の好みや結果はだれの作為だろう。スピーカーで聴いてると強烈なコンプがバックにかかりボーカルが目立つ。ヘッドフォンだと詰まりすぎたバックの音像はいささかチープに感じてしまう。
 AMラジオでのパンチ力を意識して、敢えてボーカルを目立たせる作戦か。

 カーティスの歌声は細い。ファルセット域を多用し、シャウトでなく語り掛けるかのよう。例えばマーヴィン・ゲイと明確に異なるのは、声量やダイナミズムで歌を出さない。
 切なく、滑らかで繊細に。カーティスの歌声の神髄は、そこにある。いわゆる歌唱テクニック的な妙味でなく、わずかな音域と微妙なニュアンスの表現こそが魅力だ。
 ファルセット遣いはアル・グリーンとも違う。カーティスはセクシーさや個性とは別次元で、自らの歌唱スタイルを作り上げた。ちょっとオカマっぽいと思うのはぼくだけか。

 か細くナイーブな世界観が容易に馴染む歌唱を、カーティスは強烈な政治メッセージと豪華なオケに投入した。だからこそ歌がオケに負けぬよう、こんなミックスを選んだと推測する。安っぽくなく、派手でパワーを見せつける。そんな価値観が透ける。その一方で、柔らかく細い歌声ってのが、皮肉で強烈だが。
 そしてこの路線を完全解体し、コンボ編成のパーソナルさを追求が"There's No Place Like America Today"(1975)ではないか。

 カーティスは本盤で、リズム面でも新機軸もしくは独創性を出した。リズムの浮遊性だ。ラテン的なふくよかさを付与し、ダンサブルさと一線を画してる。シンプルなビートの強調や繰り返しを前面に出さず、しとやかでシンプルなムードの上品さに、強靭なファンクネスを埋め込んだ。
 逆説的に典型が(4)。ここでは中間部でビート・ループが明確に出てる。しかし本盤を通して聴いたとき、(4)はリズムが強いなって思わないかな。
 
 冒頭の"シスターズ、ニガーズ、ホワイティズ、ジューズ、クラッカーズ"とショッキングなフレーズでドキッとする(1)は、軽やかに空気をかき回すエレキギターと、ドタバタするリズムをホーンと弦が力づくで飾り立てた。
 酩酊気分の甘い(2)はリズムは奥にミックスされ、弦やホーンが賑やかに空気を埋める。(3)は正気を若干取り戻し、甘く優美に展開した。パーカッション数人の複合リズムが淑やかに鳴る。
 そして、(4)だ。中間部のリズムのみな展開はA面の優美さが虚飾で、実は奥の生々しさを秘めていた、と思わせるかのよう。

 9分弱もの長尺でB面トップを飾る(5)は、甲高いタイトル連呼がキャッチーなファンク。せわしなくドラムとコンガの連打が複層構造で、波打つノリを作り出した。ホーン隊が追い上げる。この曲こそ、オーディオ的に貧弱な響きが惜しい。ぼくのCD盤だけか。もっときれいな録音とミックスならば、この曲はさらに鮮やかに輝いたと思う。
 それともこの、チープな安っぽさこそがスリルと鋭さを保つ秘訣だろうか。この曲を聴くたびに「良い音質ってなんだろう」と考え込んでしまう。音が悪いからこそ、かっこいい曲はあるんだ。

 論点がぶれた。ぼくは本盤でカーティスが、「シンプルなビートの強調や繰り返しを前面に出さず、しとやかでシンプルなムードの上品さ」を狙ったと考える。
 アレンジとしてもちろん、本盤はビートがくっきりある。だがドラムやビート・パターンを前にミックスし、わかりやすくダンス伴奏の盤にしたくなかったのではないか。
 弦やホーンで艶やかに飾り、かつパーカッションを増やしベースやギターのアクセントをずらし、ポリリズミックなダイナミズムを施した。アフリカンな複雑性を白人音楽の象徴なクラシカルな虚飾で磨き、あらゆる批判に耐えうる強靭なサウンドを狙った。
 だがカーティスの声が埋もれては何にもならない。だからあえてバックのミックスを潰し、極端なバランスにした。そんな妄想が広がる。

 ついでにそのあとの曲へもコメントを。(6)以降はカーティスがリラックス路線を出した。いや、A面がまじめ路線でB面が売れ線狙いかもな。
 (6)はハッピーで穏やかなファンク。もちろんA面同様のリズムを弦や管で飾る。歌詞も黒人人権を表現するポリティカルなもの。けれどA面ほどひりひりする空気は狙わず、耳触りは柔らかい。単純に音楽だけでいうと、こっちのほうが気軽に楽しめる。
 しかし何度聴いても、メロディアスなベース・ラインが素晴らしい。この曲はひときわ、ベースが目立ってる。

 (7)も歌詞はさておき、音は柔らかい。リズムは継続してるのに、どこか断続性を感じた。ふわふわと高音強調で漂うサウンドに、コーラスを使わずカーティスは一人、歌い続ける。
 ゴスペルの対話性を使うカーティスの持ち味とは別に、この曲は説教のごとく孤独性を持った。

 アルバム最後を飾る(8)は、どこかほのぼの。牧歌的なムードを漂わし、グルーヴは強烈だがダンサブルさは希薄に漂わせた。この肩の力抜いた雰囲気も良い。
 本盤でのカーティスの持ち味とは、全く違うアプローチだが。この穏やかな懐深さにも、すごく惹かれた。
 砂糖菓子で飾られてるとはいえ、このアルバムはむしろ刺激的だ。そんなヒリヒリしたムードを、この曲は優しく癒してくれる。素敵な余韻でアルバムを聴き終えられる。

Track Listing:
1"(Don't Worry) If There's a Hell Below, We're All Going to Go"  
2"The Other Side of Town"  
3"The Makings of You"  
4"We the People Who Are Darker Than Blue"  
5"Move On Up"  
6"Miss Black America"  
7"Wild and Free"  
8"Give It Up"  

Personnel;
Arrange:Riley Hampton,Gary Slabo

tp;Robert Lewis, John Howell, Rudolph Stauber
tb:Loren Binford
sax:Clifford Davis,Harold Dessent, Leonard Druss, Ronald Kolber
ds:Donald Simmons,
b:Elliot Golub
per:Henry Gibson,
g;John Ross, Patrick Ferreri, Philip Upchurch
vln;Sol Bobrob
vc:Harold Klatz,
?:Harold Lepp,Richard Single,Robert Sims, Sam Heiman

 このクレジットはネット情報も含めチェックしたが、明らかに音に対してミュージシャン・クレジットが足りない。実際はもっと多くのミュージシャンが参加してる。なぜクレジットが中途半端なのかも、謎だ。これは神秘めかせるカーティスの謎かけではなく、事務的な配慮と想像するが。
 
 なお本盤はデモテイクを含むボートラをCDでは聴けるが、ぼくは未聴。最初に出たCDでしか聴いておらず、音質向上とかが近年の再発で施されてても、それは知らない。次の楽しみ、だ。





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