大友良英New Jazz Quintet 「Tails Out」(2003)

 菊地成孔の脱退する直前、燃えさかる大友ジャズ・コンボの傑作。


 本盤発表後、菊地は多忙を理由にONQJを脱退し、大友はDCPRGを脱退する。それは音楽的な意味において、大友がジャズを咀嚼し飛翔するきっかけだった。
 本格的にギターを弾き、これまでの周波数に着目した音楽性も織り込んでジャズを正面から演奏したONJQ。フロント二管の強力さと、タイトさとグルーヴに複雑性も難なくこなす凄腕リズム隊という奇跡のアンサンブルがONJQだった。

 TZADIKからのデビュー作"Flutter"で大友は試行錯誤を作品に仕立て、続く"Dreams"で歌ものを取り入れ世界観の拡大を果たした。主戦場の新宿ピットインでの猛烈なライブ盤、そのままなタイトル"Live"を発表し、自らを素材と客観視する"ONJQ + OE"へ。
 いわば1st以外は変化球もしくは幅広さを狙うアプローチをつづけたONJQが、新曲のみの新機軸で満を持して発表が、本作だった。それだけに、菊地の脱退が残念だった。

 ONJQの観点ではアンサンブル拡大のONJOへ向かって、大友ジャズが一段と拡大するめくるめく開放を実現したため、音楽的な不満は皆無だったのだが。

 菊地のサックスは大友ジャズの翻訳機になっていたと思う。水谷や芳垣は起爆剤になりうる。バリバリのジャズメン、津上は触媒になったろう。
 けれども本質的な意味で、菊地は理論と実践が滑らかに一体化していた。いわゆる東京インプロ・シーンを軽やかに駆け抜けつつ、ジャズをまっとうに披露していた菊地のありようは、大友のコンセプト先行な音楽をジャズに溶け込ます、媒介を菊地が務めた気がしてならない。

 さて、本盤。冒頭のむせび泣くサックスが刺激的なヘイデンの(1)から、熱気をハードに封じ込めた(2)へ。朗々と立ち上る(3)から混沌と疾走の(4)。耳馴染みのビートルズをフランジャーのように揺らした(5)。そしてサイン波とダンディなジャズが整然と成立した(6)に、ドラマティックな雄大さをもたらす(7)へ。
 大友のオリジナルが3曲、時代を自在に飛びかえるカバーが4曲。どこにも隙が無い。

 さらにゲストで高良久美子とSachiko Mを招き、続くオーケストラ路線の予兆も伺える。録音したスタジオGOKの主、近藤祥昭をスタッフでなくミュージシャンとしてゲスト・クレジットしたさまも、録音と楽曲をひとつながりに表現する大友らしいアプローチだ。

 とにかく本盤の通底は、揺らぎ。(5)が顕著だが、意図的に縦の線をずらしてアクセントやリズムに幅を持たせる。このメンツならば縦線を合わせ、JB風のスポーティなジャズを表現も容易だ。だが単純さを避けるべく、モタり突っ込むフレージングで、恐ろしく凄みある崩しを見せた。

 メロトロンの不安定さをピッチのずれたギターや、だらりブレるホーン隊のテーマで表現した(5)。ジャズの荒っぽさでなく、パンキッシュな無秩序でもない。意図的に崩し破壊したルーズさ。
 汗のにおいを感じさせないが、生々しく息の滴る生命力と秩序に収まらぬ煮えたぎるパワフルさを表した。

 アルバム全体に漂う、寂しげな軋みと無尽蔵に溢れるダンディズム。ここではサックス二管を筆頭に、生きざまとしてジャズを題材に表現した。筋肉の軋みを感じる。不健康ではないが、どこか空気が爛れてる。独特のダンディズムが、当時のONJQの魅力だった。

 そして大友は本盤以降、ONJOで論理的にこの空気感を表現していく。メンバーを増やし、アレンジを様々にいじることで。大友は本作をジャンプ台に、同じことを繰り返さず新しい境地に向かった。

 もう一度言う。音楽的に、この後の大友の活動になんら不満は無い。
 だが菊地を象徴とする、強靭なバンド・アンサンブルの妙味は本盤が第二ステップへの予兆だった。
 まさにifの話だけれど。本メンバーで、この路線を拡大したらONJOとは全く違う、独特なジャズが生まれていたはず。その完成や到達の世界を夢想しつつ、モダンジャズをすり抜け、フリーに行きつかない。自由なジャズを存分に提示した、本盤をじっくり噛みしめている。

[Track list]
1.Song for Che (C. Haden) (5:48)
2.Reducing Agent (大友) (9:33)
3.Solvent Waltz (大友) (5:03)
4.Moons Shine (J.B. Ulmer) (8:11)
5.Strawberry Fields Forever (J. Lennon & P. McCartney) (7:09)
6.Orange Was the Color of Her Dress, Then Blue Silk (C. Mingus) (4:18)
7.Tails Out (大友) (13:26)

Personnel:
大友良英: guitar
菊地成孔: tenor sax
津上研太: alto sax, soprano sax
水谷浩章: bass
芳垣安洋: drums, trumpet

Guests
高良久美子: vibraphone (6, 7)
Sachiko M: sine waves (6, 7)
近藤祥昭: Binson echo machine (5)


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