TZ 8171-5:Hasidic New Wave "The Complete Recordings"(1996–2001/2012)

 伝説化せぬよう、まとめて記録。ひねったクレヅマー・ジャズにヘンテコ要素を盛った。


 TZADIKとなじみの深いFrank London(tp,org)が90年代後半に率いたバンド、Hasidic New Waveの過去作をまとめて再発の5枚組Box。解散から10年、埋もれるのを避け入手性を保つ、ジョン・ゾーンの配慮か。過去のスタジオ作4枚をすべて収録の一方で、ライブ盤は未収録。その代り未発表(?)のライブ音源をくっつける、変則的な「完全録音盤」の形態をとった。契約の関係か。
 28ページの細かな解説付きブックレットもつく丁寧な仕事ぶり。その割にさほど、値段は高くない。超お買い得な製品だ。

 本バンドはフロント二人のクインテット。中心人物はロンドンとグレッグ・ウォール(sax)。クレヅマー・ジャズを下敷きに、サイケやフリーの要素を混ぜた。そこへDavid Fiuczynski(g)が加わり、一気に音像がヘンテコに向かう。
 Fiuczynskiはスタジオ全作に参加、ライブ音源の一部に参加してない。同じ関与度合いが、Aaron Alexander(ds)。
 ベースはスタジオ盤1stだけKenny Davis。あとはすべてFima Ephronが弾いた。

 FiuczynskiはのちにScreaming Headless Torsos を率いる。Ephronも参加したこのバンド、突拍子もないフレージングが持ち味だ。
 なおFiuczynskiは2013年に上原ひろみのバックバンドにも参加してた。

 フロント二管の構成はMASADAに似てるが、音楽性は全く違う。マサダがスピードやスリルを常に意識し、ジャズのスイング感も保ち続けた。だがロンドンとウォールによる本Boxでは、もっと寛いで緩やかな変態性を響かせる。

 Hasidic New Waveはレーベルを変えつつ、4枚のスタジオ盤を残した。それを本Boxではそのまま、Disc1-4に配置してる。

 デビュー作"Jews And The Abstract Truth"(1997)はまっとうなユダヤ・ジャズを提示した。ただしひとつのビート、構成で展開せず曲中に複数の要素を混ぜて、全体像が掴みにくい印象を受けた。内4曲は93年にドイツでのライブ音源。じっくりアンサンブルを固めてから録音した様子が伺える。
 基本はファンキーかつクレヅマーのエキゾティックなジャズなのに。ギターが加わると急にパンキッシュな危ういスリルを漂わすのが特徴か。


 2nd"Psycho☼Semitic"(1998)はHasidic New Wave名義だが、フロントにロンドンとウォールの名前のみクレジットし、実質二人のアルバムだったと思わせる。
 音楽は二管も含め抽象性を増した。一分前後の小品を曲間へ挟み、物語性を施したアルバムだ。どれか一枚を選ぶなら、本盤が最も生き生きした演奏だと思う。


 3rd"Kabalogy"(1999)もHasidic New Wave名義で、ロンドンとウォールをクレジットする変則的なデザイン。
 僕としてはプロデューサーにクレイマーを迎えたことが嬉しい。ロンドン、ウォール、クレイマーのトリプル・プロデューサー編成な本盤は、ニッティング・ファクトリーでの録音。エンジニアやミックスにクレイマーのクレジットある一方で、好き放題プロデュースではない。ロンドンとウォールも同様に録音やミックスに名前あるところからみて、クレイマーは技術屋寄りの参加ではないか。

 じわっとふくよかな響きは、クレイマー流。その一方でちょっとアイディアに寄りすぎで、バンドのダイナミズムな点ではこじんまりな印象を受けた。悪くはない。早回し演奏な曲へザッパの名を冠したアイディアは、いかにも"アンクル・ミート"あたりのザッパぽくて面白かったし。
 クレイマーの影響なのか、ぐっとサウンドはロック的な骨太のノリに仕上がってる。


 スタジオ作では最後の4th"From The Belly Of Abraham"(2001)は、ちょっと迷走。
 00-01年に三度ほど実施なセッションをまとめた本盤は、Yakar Rhythmsをゲストに招いた。北アフリカ風味の付与か。アフリカンなビートと、アラビックなフレージングが混ざる。
 ただでさえ混沌なHasidic New Waveが、さらにエキゾティックなムードに仕上がった。演奏はタイトなので、聴きごたえはあり。ただしバンドとしての必然性は低く、セッション盤みたいになった。


 バンドとしては"Live In Cracow"(1998)をリリースしてる。同年6月、ポーランドでの音源だ。時期的には2ndを同年2月に収録した後のライブ。だが本Boxには未収録。ぼくは未聴で本盤へはコメントできない。


 本Boxにはライブ盤としてCD5が付いた。表題は"Live and Rare Recordings"とそのまま。全8曲、三ヵ所のライブ音源を収めてる。
 セッションごとにメンバーは異なり、冒頭2曲はカルテット編成、ギター抜きでロンドンとウォールの二人にShlomo Deshet(ds)とBentsi Gafni(b)という変則的なアンサンブル。録音は93年のケルン。つまりはバンド結成前のライブ音源ってことか。
 ダルブッカ風のパーカッションに煽られるグルーヴは、ずっとアラブ寄りだ。

 (3)~(5)も特別な編成。上のカルテット編成に、Sara Parkins(vc)とFred Lonberg-Holm(vc)が加わった。94年のNYニッティング・ファクトリーでのライブ。これもロンドンとウォールの試行錯誤な演奏の記録か。貴重だ。
 弦が加わった(3)と(4)はアラブ音楽と荘厳なクラシック風味が混ざり刺激的だ。(5)はディキシーランド・ジャズを下敷きのクレヅマーを伸び伸びと披露した。

 (6)~(8)は録音クレジットが見当たらず。2nd以降のカルテット編成なHasidic New Waveのサウンド。特に根拠はないのだが、2ndと3rdの間くらいな録音に聴こえた。
 かっちりアンサンブルがまとまり、緩急効かせつつオーソドックスな演奏へギターの変なフレージングが混ざる、Hasidic New Waveならではのサウンドを楽しめる。
 
 5枚組のボリュームに最初はためらうが、じっくり聴くと色々気づく点があり。ユダヤのルーツと前衛性を上手いこと混ぜた、良いバンドだと思う。

 貴重な動くHasidic New Wave。98年、ニッティング・ファクトリーでのライブ。

 グレッグ・ウォールにスポットを当てた14年の振り返り映像。インタビューと断片的なライブ映像あり。どうやら彼はユダヤ教のラビらしい。


Personnel:
Hasidic New Wave
Frank London: Trumpet, Organ
Greg Wall: Sax
David Fiuczynski: Guitar
Fima Ephron: Bass
Kenny Davis: Bass
Aaron Alexander: Drums, M’bung M’bung, Thiol, Djembe

Guest:
Anthony Coleman: Organ
Ben Goldberg: Bass Clarinet
Fred Lonberg-Holm: Cello
Gary Lucas: Guitar
Sara Parkins: Violin
Jamie Saft: Organ
Shlomo Deshet: Drums, Percussion
Bentsi Gafni: Bass
Vinnie Nobile: Trombone, Vocals
Sascha von Oertzen: Vocals

Kramer:Produce on CD 3

Yakar Rhythms
Abdoulaye Diop: M’bung M’bung, Thiol
Alioune Faye: Lead Sabar Drummer, N’der, M’bung M’bung, Thiol, Tama, Djembe
Ousmane Sall: M’bung M’bung


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