"Return To The 36 Chambers" Ol' Dirty Bastard (1995)

 変則な声を操り、リズミカルにラップを叩き込む、オルのテクニックを堪能できる。

海外ラップはPV見たほうが魅力がシンプルに伝わると、改めて思った。もともと何を言ってるかわからないので、リズム感とトラックメイキングの妙味だけで、ぼくはラップを聴いている。必然的に聴き流しがちで、あまり印象残ってない。
 たまたまウータンのビデオ見てて、ラップ・リレーのかっこよさとオルのへんてこなライミングにしびれた。
具体的には、このビデオ、ラッパーのキャラクターがいろいろ違うなって、音だけより絵で見たほうが直感的に分かった。


 本盤はソロ第一陣の第二弾で、オルのソロ1stになる。
 ウータンのリリース・ラッシュはたて続けだったみたい。ぼくはリアルタイムで聴いてなく、ピンと来てなかった。まずウーのデビュー・シングル"Protect Ya Neck"から時間軸に並べてみよう。

92/12 "Protect Ya Neck" (single) Loud
93/8 "Method Man"(single)
93/9 "Enter the Wu-Tang (36 Chambers)"
94/1 "C.R.E.A.M."(single)
94/2 "Can It Be All So Simple"(single)

94/6 "Diary of a Madman" Gravediggaz (single) Gee Street/PolyGram Records
94/8 "6 Feet Deep" [Gravediggaz 1st]
94/9 "Nowhere to Run, Nowhere to Hide" Gravediggaz (single)
94/10 "Bring the Pain" [Method Man solo](single)
94/11 "Tical" [Method Man 1st solo] Def Jam/PolyGram Records

95/1 "Brooklyn Zoo" (本盤の先行シングル)Elektra/WMG Records
95/3 "Return to the 36 Chambers" (本盤)

 多分プロモーション活動もしてたろうし、ほんとに矢継ぎ早なリリースだ。アメリカでどっぷりリアルタイムにこの波を浴びてたら、さぞかし楽しかったろう。つぎつぎと展開するさまは、なんか週刊ジャンプみたいな少年漫画を読んでる気分っぽい。
 ウー本体が落ち着き始めたころに、ソロの嵐が始まったわけか。

 オルのソロな本盤は、プロデュースの過半数を司令塔のRZAが務めた。だが逆に、すべてではない。本盤だとTrue Master, 4th Disciple、Ethan Ryman, Big Doreの名前あり。前半二人は、この後連発するウーがらみのプロデュースを務める、いわば二軍的な存在。
 Ethan Rymanは"Enter the Wu-Tang (36 Chambers)"のほとんどを担当したエンジニア。Big Doreは委細不明だがNYのラップ・グループFascinating Forceのメンバーらしい。
 要するに仲間内で固め、着々とウー一派の地歩を固めていった。

 本盤のオルは冴えわたり、トラックの不穏さも着実に突き進む。時に吼え、調子っぱずれなフレージングで奇妙さを演出した。
 凄まじいのが(10)。ノービートの喉声連打と無伴奏ラップを堂々と、たっぷり時間とって抽象的な世界を提示した。

 全体的にいわゆる拍頭や裏をきれいに叩くスポーティなラップではない。さらにリズムの間をガッと掴み、揺らす。
 グルーヴィにリズムを操りながら、上ずり気味の声で耳を面白くくすぐった。キャラクターの奇矯さもあったにせよ、唯一無二のラップ・テクニックのすばらしさを、改めて感じた。

 アルバムはウー一派をじわじわと投入。一軍だけでなく、Killah PriestやProdigal Sunn、60 Second Assassin など新たな仲間を加え、ウー一派の層の厚さをさりげなくアピールした。
 いわゆるダンサブルなラップよりも、オルのキャラクターを強調したアルバム。しかし聴きこむほどに丁寧な作りと、奥深いリズムの操りっぷりに惹かれる。
 クレジットが正しいならば、オルは本盤で録音助手やミックスにも手を出してる。決してキャラクターに寄り掛かった力任せではないようだ。

 さて、冒頭に触れたPVの魅力。本盤のシングル"Brooklyn Zoo"の二種類PVを上げておく。映画みたいな冒頭のPV(左側)と、いわゆるラッパーのリップシンクを主眼にしたPV(右側)
 不穏なキャラクターと、畳みかけるスピード感。それぞれのPVを見てこそ、印象変わると思う。そして改めてCDだけでこの曲を聴いてみると、たとえラップの意味が分からなくとも、いろんな聴き方ができると親しみが増した。もちろん、ラップの意味が分かるに越したことはないと思うけど。
 
 しかしこのビデオ、冒頭にオルが高笑いかます歯に飾られた、グリルのインパクトがすごいな。
 

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