"M.T.Man"坪口昌恭 PROJECT(1995)

 坪口25歳のデビュー作。同世代のそうそうたるメンバーによる圧巻な涼しいジャズ。

 長らく入手困難だったが、11年にAirplane Labelから再流通して聴きやすくなった。

 坪口による解説がここにあり、読みだすといろいろ興味深い。時代との接点や落としどころを探る様子が伺える。このころ、坪口も共演者も若手だった。そして20年たつ今、共演者の全員が生き残り、強烈に今でも音楽を牽引する創造力を持ち続けている。
 みずみずしい演奏で、稚拙さは無い。破綻なく整った音楽を披露した。菊地成孔の高音が滑らかに響き、鍵盤は美しいトーンを振りまく。水谷浩章と芳垣安洋のリズム隊は強靭で柔軟、頼もしい。数曲でゲスト参加の鬼怒無月も鋭いプレイをさりげなく突き刺した。

 確かなテクニックで整然としたジャズを披露する坪口は、のちに自動作曲ソフトMと人力演奏の共演をコンセプトに東京ザヴィヌルバッハを結成する。その萌芽が既に(1)で存在した。ぶれない。
 
 楽曲解説で読めるように、意外と雑多なコンセプトをアルバムに詰め込んだ。若手デビュー作ならではの、盛りだくさんな志向だ。通底するのは穏やかでファンキーとは逆ベクトルの整いっぷり。
 黒人グルーヴィな熱気や、フリージャズの小難しさ、ラウンジジャズの味気無さとも異なる。いわゆる中央線ジャズのしぶとさや、フュージョンのテクニックひけらかしとも違う。
 いちばん近似がジョン・ゾーンが本盤の何年も後に結成する疑似バンド、ドリーマーズとかあのあたり。すなわちバンドの結束はテクニックの確かさで代用し、コンセプトはクールさと即興の混在。楽曲は理知的に構成して、熱気は演奏力で滲ませる。勢い一発を極力排した構造。そんな方向性を本盤にも感じた。

 だが本盤から溢れるのは例えばティポグラフィカの理性と少し違う。もう少し肉感的でメカニカルだ。相反する表現だが、テクニカルでありながら偶発的なスピーディさを感じてしまう。本盤と同時期に活動/参加した植村昌弘のP.O.N.みたいな突飛な炸裂とも違う。ティポみたいにリズムへこだわりを特化させない。
 なんていうんだろう、未消化をそのまま提示した感じ。一つのコンセプトに絞らない、いろんな要素を取捨選択や磨かなくても良いじゃないか、っててらいなく詰め込んだって印象を受けた。

 坪口は本盤で黒子のごとし。サックスが全編にわたり吹きまくる。もちろんピアニカや鍵盤で坪口の存在感もある。だが俺が俺がって坪口は前に出ない。むしろ共演者の才能を冷静に見据え、懐深く鷹揚に見せ場も与えてる。
 その演奏全てをひっくるめて、自分の音楽だと言わんがごとく。

 坪口はアイディアを作りミュージシャンを起用し、演奏する。そこにはプレイヤーとしての自我ももちろんあるが、一歩引いて冷静に音像そのものを見つめる神の視点も存在する。
 多層的な音楽へのプロデューサーぶりが、本盤での混沌もひっくるめた整然さを生み出した。当時のライブはどんなサウンドだったろう。音源が残ってないものか。
 
 それに今でもドリーム・メンバーな編成だ。このメンツでの今、のライブも聴いてみたい。

 なお本盤のあと坪口昌恭 PROJECT名義では"東京の宇宙人"を97年に発売した。メンバーは変更され菊地と水谷に加え、外山明のカルテット編成。ティポ組に坪口が加わったかたち。
 ぜひ聞いてみたいが、本盤は入手困難・・・今でも魅力的な顔ぶれなのは間違いない。何とか再発してほしいもの。

Track listing:
1. Leisure Land
2. 鉄道少年 (Railway Lover Boy)
3. National Condom Week
4. 胎児の記憶 (Remembrance during a Fetus)
5. やどかり (A Hermit Crab)
6. ガングリ音頭 (GanglionDo)
7. M.T.Man
8. Trihedron
9. 音楽家を裁く法律 (Law Against Musicians)

Personnel:
坪口昌恭 Piano , Synthesizers , Pianica
菊地成孔 Soprano & Tenor Sax
水谷浩章 Electric & Acoustic Bass
芳垣安洋 Drums , Percussions
鬼怒無月 Electric & Acoustic Guitar [on 3. 6. 7. 8. 9.]



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