"Spider"山下洋輔 (1995)

 スリルがスマートに転じ、フリージャズの殻をかぶったオーソドックス。


 耳ざわりは柔らかい。フリーっぽく、つんのめる譜割で駆け抜けるピアノが出てくる・・・ことも、ある。インタープレイもアクセントの位置でフリーっぽく聴こえるが、指を折ると普通のフォー・バーズ・チェンジだ。
 山下洋輔はどこへ向かってたのか。メジャー路線で土台を築きたかったのか。

 ニューヨーク・トリオを88年に結成し、「新境地」と公式ディスコグラフィでは紹介されている。1995年6月16、17日にNYで録音された。
 前エントリで紹介のナベサダのように、演奏は全く破綻ない。フリーを整った枠にきれいに納め、はみ出ることも壊れもしない。心地よくスイングし、時にアクセントや譜割をいじって突飛っぽい風景も混ぜて見せる。
 腕組みしてしかめつらする必要が無い。おしゃれでワイングラスでも傾けながら、小粋に楽しめるフリー・ジャズだ。
 いやむしろ、フリーなタッチはおまけ。実に見事でスケール大きなオーソドックス路線のピアノすらも、山下洋輔は見事に決める。もともとピアノが素晴らしくうまいってことを実感させるアルバムだ。

 自作集の楽曲は、ときおりオリエンタルな風味を滲ませる。例えば(3)。日本風の旋律や和音感を漂わせ、そっとジャズに雪崩れてく。危うさは皆無だ。
 NYトリオで日本童謡などをジャズ化した"SA KU RA"(1990)を経て、敢えてコンセプチュアルに日本風味にこだわる必要がないってことか。
 前作"Ways of time"(1994)でNYトリオは"ミナのセカンド・テーマ"など、往年の山下トリオをセルフカバーした。もはや暴力的で無軌道なフリージャズもいらない、ってことか。

 山下洋輔もNYトリオも、ちょっとクール・ダウンの一休み。丁寧にジャズをなぞり直してみようか。そんな感じの、アルバム。山下洋輔はその後、林栄一をフィーチュアしたスタンダード集"モナ・リザ"(1997)、富樫雅彦との98年共演ライブを"バラーズ・フォー・ユー"(1998)や"Golden Circle "6""(1999)で発表し、じわじわとパワーを蓄える。

 そしてNYトリオでは、"Fragments1999"(1999)で再炸裂を果たし一区切りをつけた。

Truck list:
1.キャッツ・ダンス Cats Dance
2.ピカソの逆襲 Revenge of Picasso
3.ワン・フォーM One for M
4.クワイエット・デイズ Quiet Days
5.フォース・ステップ Fourth Step
6.キッズ・イン・メモリー Kids in Memory
7.ダブルズDoubles
8.ストリーム Stream
9.スパイダー Spider

Personnel:
Piano, Composed By, Producer :山下洋輔
Double Bass : Cecil McBee
Drums : Pheeroan akLaff


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