"Earth Step"渡辺貞夫 (1993)

 時代の流れを意識せず横綱相撲を狙ったスムース・ジャズ。

 この盤が70年代後半なら、全く違う評価を得たと思う。93年、だ。バブルも弾けて世の中が暗くなっていこうとする時代に、この盤を出したのか。後年、今になって聴くと呆然とする音楽観だ。公式ディスコグラフィーで53枚目のリーダー作がこれ。

 リズム隊はスティーヴ・ガッドとウィル・リー。ギターがジェフ・ミロノフ。キーボードがロブ・マウンジー。繰り返そう。93年、のアルバムだ。この一回りしたフュージョン感は、スムース・ジャズ狙いは何なんだろう。
 スティーヴ・ガッドとナベサダが組んだのは、たぶん"MORNING ISLAND"(1979)が初。これにはジェフ・ミロノフも参加してた。ライブ盤を除き、"MORNING ISLAND"(1983),"RENDEZVOUS"(1984)とガッドをナベサダは起用した。久しぶりの共演が、本盤なはず。
 ちなみにスタッフが活動は70年代中ごろ。つまり93年の時点で、共演者はベテランぞろい。ビッグ・ネームだがスリルは薄れてた。

 それでもナベサダは本盤で、スムースなジャズ風の何かを演奏したかったみたい。プロデュースとアレンジはマウンジー。(2),(4),(6)は作曲も担当した。(3)と(5)を除き、ほかに残る曲がナベサダの作品だ。
 (3)と(5)は歌入り。歌うVaneese Thomasはルーファス・トーマスの娘で、この時点は87年にソロ・アルバム1枚を出し、ちょっと売り出しに難航してた頃か。ナベサダに引っ掛けて、マウンジーが彼女を売り出そうとしたんじゃ、ってのは邪推か。
 歌は滑らかだが今一つ引っ掛かりに欠け、サックスは完全にバッキングであえてナベサダ名義にする必然性も感じられない。

 楽曲によりアフリカのサバンナを連想する雄大な風景を描いた。どこまでもサウンドはクリーンで破綻もスリルも希薄だが。
 アレンジは丁寧だし、特に挑戦もない。とはいえ完全なスムース・ジャズほど、寛ぎ狙いに媚びてない。その意味では、ぎりぎりBGMに堕さないボーダーラインは確保した。ただしカラオケにサックス乗せたような、中途半端にバックとサックスの乖離が切ない。
 サックスがアドリブを展開させてもバックの演奏は反応せず。実際の録音風景は知らないが、完全にオケを作った後にサックスをダビングしたかのよう。

 93年ってナベサダは還暦。功成り名遂げ還暦迎えた人に、挑戦とか求めるのが間違いかもしれない。21世紀の今は逆に、いい加減引退しろよってくらい超ベテラン・ミュージシャンが元気だけど、当時はまだそんなことなかったし。

 ガッドの刻むリズムは安定してる。スイングするジャズでなく、ソウルかフュージョンノリのビートは心地よい。ほかのミュージシャンも特に演奏へ文句はない。
 もう少し、荒っぽく傷があったらなあ、とも思うけれど。

Credits:
Saxophone [Alto & Soprano] – 渡辺貞夫
Keyboards, Percussion [Additional], Programmed By, Producer, Arranged By – Rob Mounsey
Drums – Steve Gadd
Electric Bass – Will Lee
Guitar [Electic & Acoustic] – Jeff Mironov
Percussion – Bashiri Johnson
Vocals [Lead] – Vaneese Thomas on 3,5


関連記事

コメント

非公開コメント