"Absolutely Free" The Mothers of Invention (1967)

 フランク・ザッパの初期大傑作。もっと聴きこまれるべき一枚。

 ザッパと言えば"Freak out!"ばかりもてはやされるのが気に食わない。ぼくはザッパを完全に後追いでさかのぼって聴いたから、なおさら。初期マザーズは演奏クオリティがいまいちなせいもある。"Freak out!"は悪いアルバムではない。今回、久しぶりに聴き返したら色々と思うところもあった。
 だが、"Absolutely Free"だろう?"Freak out!"より、よほど凝った聴きごたえあるアルバムだと確信する。

 "Freak out!"はドゥワップやブルーズと、現代音楽の融合の観点では秀逸だった。バーでのヒットソング演奏グループから進化した、オリジナル楽曲集って意気込みを封じ込めた時代性の観点でも興味深い。
 しかし、やはり"Absolutely Free"だろう?コンセプト・アルバムであり、曲間つないだ複雑な楽曲構成を取り入れ、シリアスな音楽をユーモラスな歌詞でオブラートかけ、バカバカしいアイディアをふんだんに投入して、難しい音楽を親しみやすく聴かせてしまう。しかも、音楽の深みは一切妥協せずに。
 もっともっと、語られるべきアルバムだ。

 英語のWikiが、本盤の成立過程や分析に詳しい。おおざっぱにまとめると、ザッパは66年6月に"Freak out!"を発売し、間をおかずに"Absolutely Free"の録音に取り掛かる。同年11月、15~18日のたった三日間で本盤を作り上げたらしい。恐ろしい集中力とアイディアだ。50年(!)たった今ではピンと来にくいが、例えばビートルズが"サージェント~"を録音が1966年12月6日~1967年4月1日という。ザッパのスピード感は凄まじい。

 本盤録音にあたりザッパはオーディションで、メンバーを一新した。Bunk Gardner(木管)、Don Preston(鍵盤)Jim Fielder(rg)、Billy Mundi(ds)が加わり、既存メンバーはJimmy Carl Black(ds)と Roy Estrada(b)に、Ray Collins(vo)。一気に演奏力が上がった。
 さらにゲストのトランペットで変拍子ジャズのDon Ellisが録音参加も興味深い。まあこれは、たんなるスタジオ・ミュージシャン仕事で凄腕を呼んだだけ、だろうが。

 本盤でザッパはクラシック風味も全開にさせ、曲のあちこちにストラヴィンスキーやホルストのフレーズを織り込んだ。さらに組曲形式でひとつながりの盛り上がりを作り上げた。例が悪いかもしれないが、フロイドの"原子心母"が1970年。プログレの前に、ザッパはこんな濃密な作品を作り上げた。
 圧巻が(6)。ここではじめて、ザッパは長尺ギター・ソロを作品に封じ込めた。木管がホルストのフレーズを吹き、アッチェランドしてギター・ソロに雪崩れる。ソプラノ・サックスは引き続き右チャンネルで吹き続けるが、次第に書き譜と思えぬフレージングで、ダブル・アドリブな面持ちを表現した。

 なおこの曲、ギターがアンサンブルに埋もれて惜しい。音色はほんのり歪みだがクリーンなトーンだ。ミックスのせいだろうな。のちにザッパは、もっとギターを前面にミックスする。
 ところどころギターがダビングされて2本いるように聴こえるのは気のせいか。パンチインの名残かな?延々とバックが同じフレーズを繰り返し、ギターだけがソロを繰り広げる。そんな後のザッパが好んだ伴奏スタイルが、既にここで聴けるのも興味深い。

 ザッパは明確に本盤でヒットとは無縁の自らが好む音楽を追求した。CDで併収のシングル2曲(8),(9)と比べるがいい。ブルーズを下敷きにほのぼのポップな"Big Leg Emma"と比較して、本盤で聴けるサウンドはもっと複雑で激しく、猛烈だ。

 LPのB面は"America Drinks"でサンドイッチして、飲み屋バンド時代の思い出をあっさり振り払うかのよう。特に最終曲では音楽を聴かずに騒ぎ立てる観客への恨みをコケにしたかの楽曲アレンジが楽しい。レジスターの音がひっきりなしに叩きつけられ、演奏とは無縁の観客のざわめきがポリリズミックに響く。
 歌声は左右のチャンネルを不安定にふわふわパンし続け、なんとも遊びまくってる。

 間に挟まった楽曲はタイトな演奏で、思い切りファンキーで刺激的な世界を紡いだ。特に(13)でのカッチリはまった疾走っぷりがカッコいいったら無い。
 二時間のミュージカルを7分間に短縮したという、(14)での跳躍しまくる唐突な場面変更まみれなアレンジも、後年の編集を見事に操るザッパ・スタイルそのものだ。
 "Freak out!"ではない。本盤こそ、ザッパのあらゆるスタイルを明確な形に整えた、真のデビュー盤だと思う。 

 しかしこの盤で聴ける演奏、ほとんどが隙無く決まってる。その一方で、ところどころサウンドががたつく場面あり。たとえば(1)の何ヵ所か。この辺はわざと、合わせてないんだろう。芸が細かい。ほんとにこれを、3日間でレコーディングしたとは。

 そしてザッパは創作の歩みを止めない。アルバム4枚分の"No Commercial Potential"プロジェクトを練っていく。のちに"We're Only in It for the Money", "Cruising with Ruben & the Jets","Uncle Meat","Lumpy Gravy"に分裂する作品だ。
 しかし疑問も残る。もし最初から4枚組もしくは合体させるプロジェクトならば、なぜザッパは「指揮は契約にない」と主張して"Lumpy Gravy"をキャピトルで吹き込んだのか。
 当時所属のMGMとは別会社、どうやっても残るアルバムと"Lumpy Gravy"を一つの作品にまとめるのは無理、とわかってたろうに。

 話が飛びすぎた。今は、"Absolutely Free"。叶うならば、CD一枚を通して聴かないでほしい。LPのA面で一区切り、シングルを聴かないでB面を続けて。もしくは頭の中で「これは当時、LPに入ってなかった」と言い聞かせながら、シングル2曲を聴いてほしい。
 リイシューでLPの区切りとしてシングル2曲を入れた構成はいいけれど。"Absolutely Free"の真の凄みを味わうには、このシングル2曲の座りが悪い。どうしても中間で、いったん気分が変わってしまう。

Track List:
1.Plastic People 3:42
2.The Duke Of Prunes 2:13
3.Amnesia Vivace 1:01
4.The Duke Regains His Chops 1:50
5.Call Any Vegetable 2:20
6.Invocation And Ritual Dance Of The Young Pumpkin 7:00
7.Soft-Sell Conclusion 1:40

8.Big Leg Emma 2:32
9.Why Don'tcha Do Me Right? 2:37

10.America Drinks 1:53
11.Status Back Baby 2:54
12.Uncle Bernie's Farm 2:11
13.Son Of Suzy Creamcheese 1:34
14.Brown Shoes Don't Make It 7:30
15.America Drinks & Goes Home 2:46

Personnel:
The Mothers of Invention

Frank Zappa – guitar, conductor, vocals
Jimmy Carl Black – drums, vocals
Ray Collins – vocals, tambourine, PRUNE
Roy Estrada – bass, vocals
Billy Mundi – drums, percussion
Don Preston – keyboards
Jim Fielder – guitar, piano
Bunk Gardner – woodwinds

Additional personnel

Suzy Creamcheese (Lisa Cohen) – vocals on "Brown Shoes Don't Make It"
John Balkin – bass on "Invocation & Ritual Dance of the Young Pumpkin" and "America Drinks"
Jim Getzoff – violin on "Brown Shoes Don't Make It"
Marshall Sosson – violin on "Brown Shoes Don't Make It"
Alvin Dinkin – viola on "Brown Shoes Don't Make It"
Armand Kaproff – cello on "Brown Shoes Don't Make It"
Don Ellis – trumpet on "Brown Shoes Don't Make It"
John Rotella – contrabass clarinet on "Brown Shoes Don't Make It"
Herb Cohen – cash register machine sounds on "America Drinks & Goes Home"
Terry Gilliam, girlfriend and others – voices in "America Drinks & Goes Home"

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