"The Philosophy Of Momus" Momus (1995)

 不器用でナイーブな男の、偏執なつぶやきが詰まったアルバム。


 モーマスは初期を何枚か聴いただけ。現在に至るまで膨大なアルバムをリリースしており、追いかけきれてない。本盤は10thアルバム。この年はこのページによるとバングラデシュで17歳下の Shaznaと出会い、フランスに移住した。

 本盤発売の95年はクリエイションからチェリー・レッドに移籍し、セルフ・カバー集の"Slender Sherbet"を発売。間をおかずオリジナル集の本盤を出した。
 クレジットは無いが、おそらくモーマスの宅録。ギターと鍵盤、打ち込みビート。簡素で飾らず、病んだ音楽を次々に詰め込んだ。
 おそらくモーマスが女性なら、僕は印象が変わったと思う。へんてこな歌世界に、時にウィスパー気味に語り掛ける歌声。いわゆる不思議ちゃんとして、女性ならそんなカテゴリーを作れた。

 だがモーマスのへなへなした密室性は、何ともつかみづらい。ゲイ的ななよやかさや、ひよわな頼りなさとも違う。フリークスな変態趣味とも異なる。なんとも表現しづらい危うさを、歌声を筆頭にモーマスは作り上げた。
 サウンドはさほど凝ってるように聴こえない。正直、入手当時は聴き流してしまった。

 だが今回じっくり聴くと、実に丁寧で多彩な仕上がり。俺はすっかり本盤を聴きそこなっていた。へなちょこブルーズな冒頭から、テクノやレゲエ風。アコースティックな肌触りから、チープな打ち込みまでとアレンジは幅広い。
 冒頭こそ単調に感じるメロディだが、時に甘くふくよかに広がる美しい繊細さを漂わす。

 そう、このアルバムはとてもつかみづらい。アレンジに統一性が無いわりに、耳障りが一定のトーンで統一され、ふわりと聴き継いでしまう。それがモーマスの狙い?甘く張りつつ、硬質なエッジを隠し持つ。音色はさほど凝ってなさそうなのに、個々の楽曲は丁寧にアレンジされた。
 思うに本盤、ストーリー性やメリハリがあまりにも希薄だ。作って並べて、はいできた、って安易さを感じてしまう。曲ごとはデモテープっぽく思わせて、決して投げっぱなしではないのだが。全18曲で約一時間、とてもアイディアを詰め込んだアルバムなのに。

 モーマスは数年前から日本へ接近してた。精神的にも職住的にも。本盤でもいろいろと、ニュアンスが漏れている。
 (18)はソフト・バレエの森岡賢が作った曲へ、モーマスは詩を付けた。(6)では横浜中華街がタイトルに冠され、(11)では金子國義の作品に思いをはせた。日本への言及が散見される。ちなみにカヒミ・カリィのプロデュースはこの前年。Poison Girl Friend が更に前の93年だ。

 モーマスの歌詞は、上のリンク先で読める。何曲か見たが、まあへんてこ。病んでいる。
 たぶんモーマスは歌詞を込みで聴かないと意味がない。サウンドの繊細な美学と、危うく震えるささやき気味の歌声、奇妙に弾む音色感覚に惑わされ、さらに奥深く、ずぶずぶとモーマスの価値観へ沈むには。

 しかし本盤聴き返して、モーマスをきちんと聴かなくちゃと反省した。あまりにいっぱい、アルバムが出ているんだけども。

Track List:
01 Toothbrushead 1:35
02 The Madness Of Lee Scratch Perry 5:38
03 It's Important To Be Trendy 4:13
04 Quark & Charm, The Robot Twins 4:08
05 Girlish Boy 3:42
06 Yokohama Chinatown 2:54
07 Withinity 3:58
08 K's Diary 2:42
09 Virtual Valerie 4:03
10 Red Pyjamas 2:44
11 The Cabinet Of Kuniyoshi Kaneko 4:09
12 Slide Projector Lie Detector 3:48
13 Microworlds 4:12
14 Complicated 3:07
15 I Had A Girl 2:48
16 The Philosophy Of Momus 3:35
17 The Loneliness Of Lift Music 4:07
18 Paranoid Acoustic Seduction Machine 3:07

Personnel:
Recorded By, Sleeve – Momus
Written-By – Nick Currie (tracks: 1 to 18)

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