"I get joy" Al Green (1989)

 ゴスペルでも売れねばならぬ。そんな試行錯誤なアルバムだ。

 アル・グリーンは80年代にゴスペル歌手へ転身、94年以降に世俗歌手へ復帰した。ゴスペル時代のアルバム一覧は、以下の通り。
1980 "The Lord Will Make a Way"
1981 "Higher Plane"
1982 "Precious Lord"
1983 "I'll Rise Again"
1983 "The Christmas Album"
1984 "Trust in God"

1985 "He is the Light"
1987 "Soul Survivor"
1989 "I Get Joy"
1990 "From My Soul"
1992 "Love Is Reality"
1993 "Don't Look Back"

 80-84年がMyrrh、85-89がA&M、以降は一枚ごとにレーベルを転々として、Arrival,World/Epic,RCAと渡り歩いた。ビジネス的なことが理由と思うが、詳細は知らない。
 ゴスペルと一口に言っても、実に多様だ。おおらかというか、それだけキリスト教が浸透なのかも。歌詞以外はソウルと全く変わらぬように聴ける。アルの場合、セクシー路線も売りだったが、そんな艶めかしさも控えてるが。

 僕はアルをがっつり追いかけてきたわけじゃない。Hi時代のソウルを何枚か、あとゴスペルを数枚。せいぜいそのくらい。だからアルの歌声は消え去りそうで繊細なファルセットって思い込みがあった。ところが本盤では地声も使ってる。ファルセットは飛び道具的に歌い分けてるようだ。
 
 本盤はA&M時代の最終作。Wikiによればゴスペル・チャートで13位、R&Bチャートで60位まで上がった。ゴスペルな位置づけながら、世俗チャートにも上がるあたりが、やっぱおおらかだ。
 それなりの売り上げを得るためか、選曲も一ひねり。世俗の力を借りる形でアル・B・シュア!をゲストに招いた"As Long As We're Together"をシングル・カット。R&Bで15位のヒットを飛ばした。
 さらにテネシーのソウル・グループThe TempreesのシンガーJasper "Jabbo" Phillips を二曲でコーラスに加えた。

 作曲は(4)と(8)のみ別の人。あとはすべてアルが作曲にかかわった。パートナーがDenise Flippen。経歴はよくわからない。
 (4)はBuddy Buie, Robert Nixの曲。Robert Nixはエンジニアでこの曲にクレジットあり。(8)はこの曲を収録したEban KellyとJimi Randolphの曲。どちらも本盤への書き下ろしかな。

 アルバム・プロデュースはアル自身のほかに、3人の名前あり。散漫な本盤を象徴するかのように、いろんな意見が詰め込まれてる。

 (1)は打ち込みビートを軸にサザン・ソウルをロマンティックに仕立てた。同時代音楽を意識したアレンジ。ハイノートを滑らかに操る、アルの歌声が丁寧に響く。歌詞と相まって毒の無い素直な歌声だが、くつろいだ安らぎを演出はしてる。
 音数は少ないがエレピやシンセの弦が膨らみを演奏に与えた。良い曲だと思う。

 さらにエレクトリックな耳障りに変化した(2)は、ぐっとファンキーさを増した。ベースがぐいっと強調され、前曲と同じメンバーだがビートを前に出した。歌声は地声を伸びやかに響かせ、明るいソウルに仕立てた。逆にリズムが大人しく、強烈な汗にはつながらない。サビでファルセットのシャウトを聴かせるあたり、かっこいいけどね。僕は前の曲のほうがいいな。
 
 (3)はバラード仕立て。打ち込みビートでズシンとリバーブ聴かせるスネアの処理が何とも時代を感じさせる。切々と歌いかけるのは誠実な魅力あり。メロディがくっきりした曲で、50年代のR&Bを連想するムードだ。温かい仕上がり。
 
 しかし(4)あたりから、楽曲のピントがぼけてくる。ベースとピアノ/ギタリストのみクレジットあるが、リズムは打ち込み?コーラスを4人立たせて、ほんのりとクワイア風のアプローチ。雄大さを疑似的に作った。
 畳みかけるサビのメロディも、いかにもゴスペル。黒人教会で歌われていそう。

 (5)はアルの曲だが軽快な打ち込みビートで、クワイア風のアプローチに。もっとシンプルにコール&レスポンス風にやり取りする。時折ぐにゃっと声処理はなんなんだ。
 アイディア一発のファンクな曲なため、アルバム・タイトル曲のわりにさほど印象が残らない。

 肝心のシングル(6)に至っては、マイケル・ジャクソンみたいなシャウトが冒頭に差し込まれた。がっつりカチカチのシンセを使ったサザン・ソウルで、たぶんかなりのところが打ち込みだ。オーケストラ・ヒットな響きも、89年な本盤録音時期にしては、そうとうに古めかしい。
 メロディも単調だし。アルの歌声がどうもむなしく響いてしまう。

 (7)も2ビートの跳ねる打ち込み。ゴスペル・カルテット風のアプローチで、がっつり歌声を響かせた。だがアルの曲である必然性は、正直薄い。ハーモニーもそれほど凝ってないし。
 アカペラでなくオルガン音色やギターで、教会での躍動感っぽさを狙ったか。

 打ち込みシンセな(8)に至っては、なんともはや。本アルバムは五目味ってよりごちゃ混ぜなのが切ない。演奏はすべて作曲者のJimi Randolphが打ち込み。むしろ東海岸風な洒落っけも漂わす。今となっては古びてるアレンジだ。曲もテーマ一発を膨らませた印象で、物足りない。アルの歌声も今一つ力がなく、存在感に欠ける。

 そして往年サザン・ソウルの(9)へ。Hi時代を思わすアレンジと楽曲だが、アルは地声で歌いかけ、ゴスペルらしい清らかさも忘れないため、なんともパンチ力に欠ける。
 じわじわと歌い上げるメロディ・ラインはわずかに魅力的だが、女性コーラスに埋もれたミックスで、もったいないな。

 タイトルまで前曲と似た(10)が本盤の締め。サム・クックあたりに通じるソウルをしみじみと歌いかけた。打ち込みドラムの音色が、邪魔臭くはあるけれど。
 歌声だけ切り取ると、アルは丁寧に歌おうとしてる。

 と、どうも煮え切らないコメントが続く。アルのファンにもさほどお勧めできない内容だ。アルは贖罪やビジネスでゴスペルの道を選んではいないだろう。けれど、なんだかんだで売り上げは必要だ。本盤を最後にA&Mの契約終了もむべなるかな、な内容。
 (1)や(2)はアレンジこそいまいちだが、今でも聴けるソウルと思うけども。
 
 尾羽打ち枯らすとは、こういうことか。もっと悲惨になってしまうのか。
 ここでのアルは、まだ踏ん張ろうとする気概を聴きとりたい。

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