TZ 7392:John Zorn "At the Gates of Paradise"(2011)

 美麗で端正な世界を楽しめる、ジョン・ゾーンのラウンジ風味が全開な一枚。

 19世紀の英詩人/画家ウィリアム・ブレイクと、初期キリスト教のナグ・ハマディ写本のグノーシス主義に触発されたという、本盤のロマンティックで整った演奏が素晴らしい。リズムはかけらも破綻せず、バロンのシンバル・ワークのザラついたタイミングのみが、音楽へ微妙な揺らぎと神秘性を付与した。
 完璧ではなく、どこか震える人間臭さ。そんな多様性をバロンのドラムに感じる。

 本ユニットは"Nova Express"(2011)を端緒に始まった、ゾーンが仕切りの疑似ユニットの2ndにあたる。
 TZADIK馴染みのミュージシャンを組み合わせ、ゾーンの指揮でコンボ編成を成立。Dreamersを筆頭に、Masadaがらみのユニットなどでゾーンがここ10年、頻繁に採用する形式をだ。
 本盤の後に本ユニットは"A Vision in Blakelight"(2012),"The Concealed"(2012),"Dreamachines"(2013)、"On Leaves of Grass"(2014)とリリースを重ねる。ときにゲスト風なメンバーを増やしつつも。
 なおゲストを増した盤は別バンドとゾーンが定義か、TZADIK換算では本盤が2nd,"On Leaves of Grass"が3rd扱い。特に"On Leaves of Grass"は大傑作だと思う。 

 ビブラフォンとベースはどこまでも素直で滑らかだ。そこへ生き生きと、しかしおっとりした上品さを保ってメデスキの鍵盤が乗る趣向。一応はピアノもしくはビブラフォンが主軸のアドリブをとる。けれども本盤の音楽はバンド一丸となったノリのほうが先に立つ。
 すべてが譜面のようだが、あらゆる場所が即興のはず。隙無く構築された音楽は、ジャズの文脈にとどまらず、クラシック風の和音感も響かせた。
 なお作曲・編曲・指揮でジョン・ゾーンのクレジットあり。音こそ出していないが、本盤へはすみずみまでゾーンの目が配られた。

 (1)は若干のミニマル風味。アドリブ部分でふわりと跳ねていく。瑞々しいピアノの連打が爽やかだ。リズム隊は柔らかく、しかし着実に刻んでいく。
 のどかな風景が広々と広がる(2)は、しとやかな空気をビブラフォンとピアノの高音部が滴らせた。牧歌的な明るい景色が浮かぶ。穏やかにテンポを設定し、緩やかな盛り上がり。
 
 若干ミニマル風味が前面に出た(3)は、クラシカルな端正さが軽やかに漂った。ピアノがリフを弾き、間を縫うビブラフォンのアレンジが気持ちいい。雄大にして繊細、まさに本バンドの真骨頂だ。中盤からピアノがやけにファンキーに展開し、急に現代風ピアノ・ジャズに変化する進展も面白い。

 (4)のようにフリー気味な展開ですらも、現代音楽に通じるアカデミックな生真面目さがある。その一方で、親しみやすいムードもいっぱい。ラウンジ的なBGM風の軽やかさや滑らかさが通底するにもかかわらず、本盤の音楽は気高くグルーヴィ。
 (5)は透徹な印象与える欧州ジャズ風の展開。和音進行が優美な香りを漂わせた。(6)はミニマルな風景を幻想的に変えた。マーチ風に静かなスネアの刻みが、たるんと停滞するムードを作り、ビブラフォンが酩酊感を促すフレーズを繰り出した。

 タイトルから英トラッドを連想する(7)。繰り返しのパターンはくるくると廻る舞曲をイメージか。ビブラフォンとピアノが見事に融合したテーマのアレンジが素晴らしい。 奇数と偶数拍子が混在し、つんのめる濃密で前のめりなビートが噴出した。
 最後の(8)はラウンジ・ジャズをスマートに決めた。シンバルの刻み、ベースのあおり。ピアノがゆったり和音を叩き、ビブラフォンがソロ。アドリブがピアノへ逆転すると、今度はビブラフォンが静かにカウンター・メロディを入れる。
 絡み合う自在なアンサンブルの妙味を、たっぷり味わえた。

 様々な矛盾しかねぬ要素や音楽性が、ごく自然に統合されている。ゾーンの明確な美意識と、着実かつ自由に音楽を具現化する奏者らの凄腕テクニック。それらが滑らかに成立する。実験性と聴きやすさが同居する、素敵な音楽だ。

Personnel;
John Medeski - piano, organ
Kenny Wollesen - vibes
Trevor Dunn - bass
Joey Baron - drums

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