"The Boss" Diana Ross (1979)

 ディスコの奥に潜むメロウさを味わう盤。

 本盤はジャケットを見たことある。でもディスコに思い入れはないし、今まで聴きそびれてた。
 正直言うと、ダイアナ・ロスに思い入れは全くない。細やかな高音を響かせる歌唱力はあると思うが。どうしても作曲なりのクリエイティブさを持った人に、惹かれてしまう。うまい歌を歌うのも才能の一つなことは、論理ではわかっているのだが・・・。

 プロデュースと全作曲がアシュフォード&シンプソン。演奏はエリック・ゲイル(g)やアンソニー・ジャクソン(b)を筆頭に上手いメンバーが支え、サックスではマイケル・ブレッカーが参加。ようはどこにも隙の無い売れ線ソウル盤だ。
 録音の時代性から、電子楽器は前面に出さずゴージャスさを演出する弦はもちろん生。ふくよかで丁寧なアレンジが楽しめる。

 ダンス・ヒットはやはり古臭さを感じてしまう。この盤でもバラードのほうが素直に聴けるな。それも30年以上経った、今だからこそ。時代の経過が良い具合に、売れ線の持つギラギラした下世話さを拭ってる。20年前ならたぶん、聴こうとも思わなかったろう。

 今の耳で聴くと、ずいぶんボーカルが埋もれ気味。派手なオケへ溶かすように歌声を配置した。いわば、総力戦。ハーモニーも女性歌手をふんだんに投入し、ダイアナはあくまで主役ながら、素材の一つでもある。やっぱ、これで「ダイアナすげえ」にはならないなあ。
 楽曲はアップだとメロディの滑らかさが、今一つ伝わらない。ディスコな感じが古めかしくって。大ヒットしたという(4)も聴いたことないからな。ふうん、で終わってしまう。

 あえて本盤の魅力を探すなら、ハイトーンの涼しげな歌声と、豪華なアレンジが飾り立て合う妙味さ。打ち込みや波形編集ではなく、総力戦の人力なほんとの意味での贅沢なサウンドが楽しめる。売れるからこそ予算かけて、たっぷり作りこめる。資本主義の論理がきれいに昇華した一枚だ。

 面白いのはA面3曲目にバラードを置いて、アルバム構成を意識した作りなこと。ディスコでA面埋め尽くし、片面そのままをクラブで流してくれって発想じゃないんだな。
 すでにベテランで大物ゆえの大味さは若干あり。(2)のキャッチーなメロディは、もっとテンポ上げて威勢よくまくしたてて欲しかった。

 (3)のイントロも女性コーラス乗せて、ダイアナの存在感を微妙に薄めるアレンジなのも、ちょっと。ダイアナを目立たせるって発想が希薄だ。アシュフォード&シンプソンのソロ作とまで言わないが、ダイアナの歌声がなんともオケに溶けている。
 さりげなくメロディアスな、ベースラインがかっこいいね。

 同じくシングルの(6)こそが、ダイアナの歌をじっくり聴ける。楽器を後ろへミックスし、ちょっとラテン風味のミドル・テンポ。やはりベースが何気に力強くサウンドを支えた。メロディはちょいと単調かな。

 本盤の中では(6)のB面だった(7)のメロウさに最も惹かれた。リバーブをまぶした歌声で、派手なオケをねじ伏せるように線が細いながらもダイアナがしみじみとロマンティックに歌っていく。喉を張るよりも、じわっと滲ませるように。
 切ないメロディと相まって、見事な楽曲だと思う。吐息まじりな節回しもセクシーだね。そしてブレッカーが朗々とサックス・ソロを響かせた。

 (8)のバラードになると、ちょっと大仰すぎ。きんきんと響く歌声はのびやかと思うが、ディナーショー向きかな。ただしアレンジは素敵。弦や管の生々しい響きと、抑えたドラムやベースの絡みが美しい。

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