"Mercury Falling"(1995) Sting

 黒人音楽と欧州他国への文化へ目配りした、傑作アルバム。

 スティングを熱心に聴いてきたとは言い難い。ポリスは代表曲をラジオで聴いたことあるだけ。いまだにオリジナル・アルバムを聴いてない。ソロもリアルタイムではさっぱり。数年前にふと興味持ち、ソロの1st~6thまでをまとめて聴いた。そんな程度の知識で、本項を書いている。

 ずらっと初期ソロを聴いて、しっくり来たのは内省なアルバム。初期のジャズメンを並べたタイトなアルバムは、鋭すぎていまひとつ馴染めなかった。
 すなわち3rd"Soul cage"(2001)に、ぐっと来た。
 英トラッド、すなわち自らのルーツを冷静に消化した傑作だと思う。けれども、アレンジがいまいち。ヒュー・パジャムのプロデュースでドタスカしたリズムと、弦をシンセで代用したシンクラヴィアのギラギラした丸い音色が、なんともトゥーマッチだった。
 ライブ盤"All This Time"(2001)を聴いたら、また印象変わるかもしれない。

 で、本盤。プロデュースとミックスはやはりパジャムだけど。ケニー・カークランドのふわっと抑えるシンセも健在だけど。本盤はまだ、素直に聴けた。
 ヴィニー・カリウタを前作に続いて起用し、ギターは"Soul cage"からのドミニク・ミラー。ブランフォード・マルサリスも復活させ、あまり背伸びせず素直に自らの憧憬を音楽へ注いだ。
 ホーン隊はさらにWayne JacksonとAndrew Love、メンフィス・ホーンズも招いてる。

 うがった見方すれば、アメリカや欧州マーケットでの売り上げ拡大を図ったアプローチかもしれない。もとはジャズメンというスティングは、ソロ初期でやりたいようにやった。
 本盤では一転し、節回し以外はポリス時代のパンキッシュな色合いも消してる。そう、節回し以外は。このメロディ・ラインはスティング流。アレンジ以外はなにも妥協してない。超ハイトーンを響かせる伝家の宝刀とは別に、語り掛けるようにつぶやくメロディが本盤ではふんだんに聴ける。

 わざとバラけさせたようなドラム・ロールをイントロに、厳かに始まる(1)は雄大なロック・バラードだ。パッド・シンセの海も煙った雰囲気ながら、まだ今でもかろうじて古びてない。この楽曲には、強烈な英国の香りを感じた。アレンジはむしろ、アメリカン・ロック風なのに。歌声はひそやかに漂う。決して煽り立てない。静かなアルバムの幕開けだ。

 (2)から黒人音楽の香りが。特にこの曲はサビ前のリフレインなど、アフリカ音楽の影響も。ポリリズムでなく、壮大で強靭なリズムのイメージか。むしろシンプルすぎるメロディながら、スティングの歌声が説得力を持たせた。
 ゴスペル風の(3)はピアノやギターもファンキーだ。オルガンは譜割が大味だが、雰囲気は出てる。シングル第一弾。

 黒人音楽といったが、(4)はむしろ英トラッドか。無理やりグリオっぽいとアフリカにこじつけてもいいけれど。無伴奏に近いシンプルなアレンジは、静かにバイオリンが加わる。あえて音数増やしたのが、メジャーで活躍するゆえの一般受け狙いのアレンジか。
 ワン・コーラス歌ったあとのリズムはアフリカンと言って差し支えない。フィドルが自然に音像へ溶け込んでる。あまり起伏無いメロディでも魅力的に聴かせてしまうのが、スティングの節回しの凄いとこ。乾いて強靭なメロディ・ラインへ、とてもポリスの色を感じてしまう。第三弾シングル。
 
 第二弾シングルでモロにスタックス的なアプローチの(5)は、のびのびと明るく歌った。サビ前のなんてことないメロディで、唐突に超ハイトーンを投入してきた。もっとファンキーになるはずなのに。どっか抑えてる。
 スティング自身のベースと、ドラムの絡みも悪くないのに。緩やかなテンポのせい?

 (6)はむしろ白人カントリー。こういう脈絡ないアレンジが続くあたり、アメリカ市場狙いかと、うがってしまう。シンプルなアレンジへ、ギターがおかず増やして耳を楽しませた。
 第4弾で本盤からの最終シングル。トーキング・ヘッズの後期を連想する仕上がりだ。

 ふたたびサザン・ロックな(7)。やはりテンポは抑えめ。この辺の地味さが本盤を渋く色づけている。逆に今でも、古びない。つぶやくようなスティング節が良い。
 あまり起伏ないけれど、アコギ一本でも成立する旋律だ。ドラムとベースを筆頭に、穏やかで心地よいグルーヴを作った。

 むしろシングル向きではないか、ってアメリカン・ロックな(8)。これもうっすらとカントリー系の味わいに、サザン・ソウルの色を混ぜた。粘るメロディ・ラインがスティング流だね。

 で、ここからいきなり欧州風味へ。(9)のイントロのリズムはアフリカ的なダイナミズムもあるけれど。アコギが入った瞬間、きれいに空気が一新されシャンソン風の穏やかな色気をスティングはかました。
 アウトロで一分くらいかけて、アグレッシブなインストを加えたとこもユニークだ。特に誰を目立たせるでもなく、ヴィニーの歯切れ良いフィルを素材に温かく盛り上がる。
 本盤で唯一、スティングがドミニク・ミラーを共作にクレジットした。あとは全部、スティングのオリジナル曲。

 (10)も(4)と同様にトラッドを下敷き。フィドルが歌声と同じラインをなぞり、ふっくらと盛り上げる。ドラムとベースで支えるのはさておき、鍵盤のパッド音色は正直古臭くもあるけれど。ドラムの響きも変にエコー成分多いしな。
 歌声は途中でハーモニーを加え、さらにアフリカっぽいモコモコしたビートも加わる。このへんの余剰もしくは過剰な色付けは、時代かスティングもしくは誰かの趣味?普遍性では歌とフィドル、ドラムだけでいい。メジャー盤は、そうもいかないのかな。

 この曲もアウトロで一分半くらい、延々とインスト場面あり。こういう過剰さこそポップではないと思うのだが。こういうのはいいの?確かに前半と乖離しつつも、この何気ないアンサンブルこそが今では刺激的で面白いのだが。

 アルバム最後(11)がカントリー風味。ハーモニカをイントロに置いて、明るく穏やかに作品をまとめた。薄めのメロディと思わせて、まさにスティングの歌ならではの字余りに零れるメロディが愛おしい。
 楽曲的にはシンプルだけど。冒頭曲と同じく、歌詞に"Mercury Falling"の言葉を織り込んで、トータル性を持たせたセンスもさすが。

 総じて僕は普遍的なアレンジって飽きてしまう。どっか、尖った個性がほしい。けれども数年ぶりにスティングのソロをまとめて聴き返してたら、スティングは存在そのものが個性なんだ、と実感した。
 すでに2016年夏の欧州ツアーが4拠点、発表された。派手なツアーで荒稼ぎはしてないみたいだが、スティングは今も誠実に、音楽を続けてる。

 前述のとおり、ぼくはスティングに思い入れは無い。けれどもこういう盤聴くと、いいなあ、とは思う。
 
Track listing:
1."The Hounds of Winter" 5:27
2."I Hung My Head" 4:40
3."Let Your Soul Be Your Pilot" 6:41
4."I Was Brought to My Senses" 5:48
5."You Still Touch Me" 3:46
6."I'm So Happy I Can't Stop Crying" 3:56
7."All Four Seasons" 4:28
8."Twenty Five to Midnight" 4:09
9."La Belle Dame Sans Regrets" 5:17
10."Valparaiso" 5:27
11."Lithium Sunset" 2:38

Personnel:
Sting - vocals, bass
Dominic Miller - guitars
Vinnie Colaiuta - drums
Kenny Kirkland - keyboards
Branford Marsalis - saxophone
Andrew Love - saxophone
Gerry Richardson - Hammond organ on "Let Your Soul Be Your Pilot"
Tony Walters - vocals
Lance Ellington - vocals
Shirley Lewis - vocals
East London Gospel Choir - vocals
Kathryn Tickell - Northumbrian pipes, fiddle
B.J. Cole - pedal steel
Wayne Jackson - trumpet

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