"いそしぎ" 明田川荘之 (2013)

 震災を踏まえた新譜で、新曲や初録音のオムニバス集。次世代のピアニスト、石田幹雄の紹介盤でもある。


 老人男性のポートレート写真が相当インパクトあるジャケットだ。東日本大震災の津波で店を流された、東北のジャズ・スポット"クイーン"のマスターだそう。メジャー流通からあえて一線を画し続け、独自に日本各地のジャズ喫茶などとネットワークを築いた明田川らしいアプローチかもしれない。
 
 内容は非常に盛りだくさんで、濃い。まず収録曲のすべてが初録音なのが珍しい。しかも(1)と(4)の前半以外は、明田川のオリジナルだ。4日間の音源から抽出しており、すべてが3.11以降の演奏となる。

 (1)はベースに吉野弘志を迎え、しみじみとセンチメンタルにスタンダードを演奏した。数年前に発掘リリースされた片山広明の同曲演奏と、聴き比べるのも興味深い。冒頭からアケタの店で独特な、ずんっと響くピアノの音色だ。
 中盤で噴出する明田川の滴るピアノが美しい傑作。

 今のアケタ・トリオによる(2)は、素朴なメロディが次第に精妙な響きに消化していくドラマティックな曲。タイトルは日立市にあるジャズ・スポット"サムシング"に捧げたタイトルらしい。意味深に見えて、実に素直な曲名だ。
 楠本のドラムがわずかにグルーヴの縦線を揺らしながら、抑えつける。畠山のベースが奔放にメロディを膨らます。そして力強く貫く明田川のピアノ。

 三者の立ち位置は演奏が進むにつれ、揺らいでく。リズムがぐっと溜めた頭になり、ベースが引っ張る。さらにピアノは、その前へ進む。三者三様のリズム感が生み出す、不思議なノリが夢見心地なノリを作り出す。明田川のサウンドが体になじむと、この響きが酩酊感を強く誘発して心底心地よい。

 一曲飛ばして(4)が明田川のスタンスがうかがえる象徴的な録音だ。過去のスガ・ダイローとの共演盤に続き、本作でも次世代のピアニスト石田幹雄との共演。
 たまたま石田が聴きに来て、一曲だけ飛び入り演奏したセッションだそう。(2)と同じ日の音源。

 明田川はオカリーナに立場を譲り、ふんだんに石田へスペースを与えた。この無造作であけっぴろげ、おおらかな視点も明田川の鷹揚で懐深いところだ。本来ならライバルのはずが、新たな才能へは遠慮なくきっかけをつくる。
 一人きりで活動せず、アケタの店を長年経営してジャズ・シーンの活発化を心掛け続けた明田川ならではの収録だと思う。

 本盤では明田川のソロ・ピアノも楽しめる。2曲双方が違う日の深夜ライブだ。
 (3)は数年前からライブで聴いた記憶あり。このころは深夜ライブをずいぶんさぼってたので、(5)は本盤で初めて聴いた。

 しっとりとメロディが浮かんでは沈む、明田川のロマンティシズムが炸裂した傑作の(3)。明るく穏やかな旋律が、着実に心和ませる(5)。どちらも良い曲だ。
 ここ何年も明田川は共演者やライブの日、そのものに着目したアルバムづくりをしてきた。だが"楽曲テイク"にこだわった本盤は、日程をまたいだ彼の名演をしみじみと味わえる。
 ジャケットのインパクトに惑わされず、ぜひ手に取ってほしい傑作だ。

[収録曲]
1.いそしぎ 
2.デイ・スタンド・サムシング(日立サムシング)
3.トュワイライト・ウエーブ・ビフォー・ダーク 
4.A列車で行こう・山田線で行こう
5.福島での若い日々 

Personnel:
明田川荘之(p,オカリーナ)
石田幹雄(p on 4)
吉野弘志(b on 1)
畠山芳幸(b on 2,4)
楠本卓司(ds on 1,2,4)

録音:すべてアケタの店ライブ
1. 2012年3月3日
2,4 2012年6月9日
3, 2012年6月30日
5, 2011年11月12日

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