"Bossa Nova 2001"(1993) Pizzicato Five

 "東京は夜の七時"直前、人気がはじける寸前のアルバム・・・かな?


 ピチカート・ファイヴはリアルタイムな割に、さっぱり聴いてこなかった。ノンスタでデビューのころは高校生で、盤を買う金が回らなかった。
 野宮真貴がボーカルに就任、毎月のように発売のころはリリースが多すぎ、どれを買ったらいいかわからず聴きそびれた。そして大流行のころは「流行っている」ことを理由に目をそむけ、わざと聴かなかった。

 まとめて聴いたのは2013年ごろ。あまりの膨大さに呆然となり「リアルタイムで聴いときゃよかった」と後悔して、今に至る。
 今ならピチカート関連盤は値崩れして、けっこう手軽に集められもするのだが。

 野宮時代からは膨大なリリースの収録曲はバージョン違いもあるってイメージで、いまだに曲の整理がついてない。最初に聴いたのは94年の米マタドール盤によるベスト。たぶん98年頃に聴いたと思う。米盤で野宮時代の初期楽曲を印象付けたから、なおさら日本のオリジナル盤との整理がつかない。

 さらに引用も多そう。カバーやサンプリングに加え、既存楽曲とも。例えば"Go Go Dancer"。これって田島貴男時代の"これは恋ではない"と関連曲だよね?
 てなわけで、完全後追い当時の情報なしで本盤を聴いている。ふう、言い訳が長くなった。

 本盤は93年4月に出たシングル"スウィート・ソウル・レビュー"を筆頭のオリジナル・アルバム・・・らしい。公式ディスコグラフィを見ると、本盤の発売が同年6月。さらに翌7月にアルバム"スーヴニール2001"、11月にリミックス版"エキスポ2001"が出てる。こういう膨大なリリースだから、よけい個別認識がしづらい・・・。

 本盤はタイトルに冠したボサノヴァを筆頭に軽快なアレンジ曲の印象が強い。決してリズムはボサノヴァにこだわってはない。この辺は小西康陽とプロデューサーの小山田圭吾、どちらのセンスだろう。なんとなく小西って気もするのだが。

 いわゆるボサノヴァ風のポップス(1)で軽快かつおしゃれに幕を開け、シングル曲の(2)で一気に楽しい気分を盛り上げる。発売当時の93年春はすでにバブルの残滓も消えてた。リアルタイムで聴いてたら、奇妙ななつかしさがあったかもな。ドライなミックスで歌声がぐっと鮮やかに響く。

 野宮のプラスティックで涼やかな歌声を前面に立てつつも、アレンジやミックスは彼女の魅力に頼らず多様なアプローチを施した。
 ここから第二部って感じ。
 一転して(3)は小西とのデュオで、かつボーカルを埋め気味のミックス。さらに蛇笛風の音色アレンジに混ぜ、中東あたりのエキゾティックさを足してる。
 (4)も歌とバックを溶け込ませ、60年代ポップスのせわしない高揚を表現した。この曲、サビの爽やかなムードがきれいだ。ムードを持続させ(5)はインストで前のめりに攻める。

 やはり歌がバックと馴染んだ(6)。この曲もサビ前後のコード進行が明るくて良い。フルートを筆頭に吹きすさぶ風を感じさせるアレンジは、後期スペクターやフィフス・ディメンションを連想した。
 
 意外とドライなミックスで歌を強調した(7)あたりから、本盤の第三部が始まる。オルガンの不穏さが飾り立てつつ危ういポップスの魅力を表現した(8)。くるくると転換するアレンジがDJミックス風だ。
 冒頭のピアノと鍵盤ハーモニカのイントロに既視感を覚える(9)も優雅な野宮の歌声を小粋に聴かせる。このへん、どの曲もメロディが跳ね続けてみずみずしい。

 またもやムードがちょっと暗くなる(10)から第四部のスタート。鍵盤とベースが拍頭をシンプルに叩くアレンジって、60年代ポップスぽいな。そして(11)。60年代の古めかしいゴーゴー・ビートを前面に出しつつ、メロディはキャッチーだ。前述のように"これは恋ではない"とリンクするフレージングに、楽曲のアイデンティティが揺らぎ奇妙な気分を覚えた。

 素朴なSSW風に薄いリバーブと多重ボーカルで、夢見心地な世界をしっとり描いた(12)。(13)は歌謡曲のセンチメンタルさとA&Mポップスの甘いハーモニーを足してリバイバルの香りをぷんぷん漂わす。
 
 (14)のギターかき鳴らしなアレンジは70年代初期?この辺、知識があやふやで自信ない。しかしフレージングよりなにより、空気感として過去のムードを楽曲アレンジへたっぷり注入してる気がしてならない。

 インターミッションの(15)は60年代LPのステレオ・テスト盤のイメージか。最後は甘やかな60年代アイドル・ポップを連想する、ミドル・テンポの綺麗な曲。ストリングスとホーンが分厚くも軽やかに楽曲を飾り、野宮の歌は爽やかで非現実的だ。

 タイトルの"2001"は、2016年の今では既に大幅な過去。しかし本盤発売の93年には近しくも華やかさを期待させる未来、だった。
 やはりリアルタイムで聴くべきだったか。今、改めて聴くと時代の視点が全く定まらず、ピント外れな解釈をしてる気がしてならない。
 
 何も考えず、素直も聴ける。とびきりキュートなポップスが詰まった傑作、でもあるからして。

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