"集団生活"(1977)明田川荘之3+梅津和時&中村マスコ

 初期の作品。すでに独自の路線を明確に表現してたとわかる。


 本盤は未CD化の音源で、ひょんなことから聴くことができた。明田川が27歳の時の作品になる。タイトルは同年に発売の、梅津和時のバンド"集団疎開"にひっかけたため。明田川のギャグ・センスは若いころから変わっていない。

 ただし梅津との共演は1曲のみ。A面は中村マス子のジャズ・ボーカルをフィーチュアした。全てスタジオ録音かな?アルバム・クレジットは見ること叶わず、委細が分からない。
 梅津と競演が基本コンセプトでは無く、たまたま梅津との音源を収録のためにアルバム・タイトルを引っかけたってほうが正しいかもしれない。

 参加メンバーの、梅津は言わずと知れた名サックス奏者。集団疎開の流れで参加だろう。他のメンバーはおそらく、明田川側の人脈。中村マスコはその後の経歴を検索で見つけられず。斉藤誠は今もライブを続けており、2015/11更新のWebにプロフィールが記載あった。
 宮坂高志は当時、明田川のバンド・メンバーでもあったらしい。経歴は「中央線ジャズ決定版101」で、彼の経歴へ明田川のインタビューも含め言及あり。Google Booksで当該ページが読める。
 梅津と宮坂はサックス・ワークショップでも共演。このバンドはAKETAより3枚組のライブCDが05年に出ており、1982年当時の演奏が聴ける。Amazonで出てこず、既に希少盤かもしれないが。
 宮坂はリーダー作で、"Animal's Garden"(ALM,1979),"Soul Tomato"(AKETA's Disc,1982)の2枚あり。双方未CD化だが、後者はYoutubeで一部が聴ける。フュージョン色ぶりぶりのハード・バップ。和音感が洒落てて、時代を感じさせる。


 さて、本盤。A面の2曲は全編で中村マスコのボーカル入り。"Theme For Yoshida"はたぶん、当時のアケタのスタッフへ捧げた歌と思われる。歌がピアノとユニゾンで行くアレンジが明田川っぽい。歌モノと伴奏想定で無くピアノのメロディに歌を併せたスタイル。コミカルな歌詞も、いかにもアケタだ。
 1分半とごく短い、やけに空白を強調したシンプルな演奏だ。中村のピッチが揺れるけど、あまり深く考えないで収録したっぽい。

 "森山ブルーズ"は森山威男(ds)へ捧げた曲。音盤化は無いが、たまにライブでも聴けるレパートリーだ。テーマから歌入り、野太いスキャットが轟く。ベースとドラムがやけにばらつくリズム感で、明田川のピアノが強靭にスイングする。
 ピアノ・トリオとしては、相当にバタつくが。中村の激しいスキャットも含めて、パワーで聴かせてしまう。

 ピアノが醸し出す漆黒のグルーヴが素晴らしい。左手のランニングを着実に押さえつつ、手数多いフレージングはメロディアスから、フリーなクラスターまで流れる。ジャズを咀嚼し、自らの色へどっぷり染めた。センチメンタルなフレージングは、スマートさと無縁だ。無骨で、下世話な日本の歌謡曲風味。だが、猛烈にジャズである。
 のちの明田川と比べて、ここに無いのは民謡風景のみ。まだ日本人アイデンティティをジャズへ投影しつつ、換骨奪胎までは至っていない。

 ならば海外にこんなジャズがあるか、と問われたら真っ向から否定する。
 たとえばCD化済で本盤の姉妹作(?)な"集団生活"と聴き比べても、明田川の独自性は明らかだ。スイングからフリー、アメリカンジャズから日本風センチメンタル、スマートさからダジャレ満載のギャグまで。無闇に幅広い。

 明田川は多様な世界観をどっぷりと吸収しふんだんにぶちまけた。この雄大で大胆な大物っぷりは、確かに唯一無二だ。
 ぼくが明田川を知ったのは、本盤の約20年後。20代でこの音楽性って・・・確かに天才を自称するだけのことはある。本盤を聴いて、痛感した。

 さて、B面。オカリーナ・ソロでバッハ風に演奏した曲から始まる。タイトルは身も蓋も無く"Bachnise Aketa"。
 この世界観でオカリーナを操る人も他にいない。本盤でのテクニックはむしろ荒削り。一定した音量感でバロック風に滑らかな響きは、既に完成されている。けれども後年の明田川のほうが、もう少し呼吸量が落ち着いて指使いも滑らかだ。
 とはいえ、このときから変わらない価値観だなあ。しみじみする。

 "つのひろセンチメンタル Take 1"がとことん怪作。アコギ弾き語り(!)で明田川が呟き気味に歌う。低い無骨な歌声は、このときから今も変わらない。
 流麗なアルペジオをバックに歌う旋律は、滑らかで美しい。しかし歌詞が何ともギャグまみれ。コミックソングにしか聴こえないが、メロディがきれいという。なんとも評価に困る。もし、これだけを聴かされたら。
 サビで転調し、急に爽やかな風景に変わるところは、このテイクのほうがはっきりわかる。

 続く16分に渡る"つのひろセンチメンタル Take 2"が本盤のクライマックス。つのだ☆ひろ(ds)に捧げられた本曲は、ピアノ・トリオ+asの編成だ。
 この曲は"Mr.板谷の思い出"(1999)にピアノ・ソロで再演が音盤化されてる。ぼくはあまりライブであまり聴いた印象が無い。もちろんほとんどのライブを聴いてないから、実際は分からないが。

 かなり長く、ピアノ・トリオ状態で演奏が進む。滑らかなメロディで切なくソロが紡がれる途中で、ライト・クラシック風に曲調が展開したりと、奔放な世界観の跳躍は既に楽しめる。明田川のうなりも聴こえてきた。若い明田川は何もブレていない。昔から独自の音楽を構築していた。今と比べたら、若干音数が多いかな。

 ピアノのアドリブがフリーなクラスターまみれになり、8分を過ぎたところでサックスが飛び出す。冒頭からいきなりフリーキー。梅津は曲のキーを無視した演奏なのか、やたら調子っぱずれに聴こえる。
 ピアノ・トリオとは別にサックスだけダビングしたかのよう。ピアノ・トリオもサックスのノリとは別次元に、淡々とリフレインを重ねていく。

 このときの梅津は、28歳。サックスを軋ませ、吹き鳴らすさまはいくぶん荒削り。のちの完全にフラジオをコントロールするテクニックは魅せず、若干の荒っぽさを感じた。
 しかし梅津のサックスも奔放で聴き応えあり。フリー一発で押さずにメロディアスな場面も作り、飽きさせない。
 最後にテーマへ戻り、ブルージーかつキャバレーのムード歌謡風に旋律を吹くサックスも楽しい。

 いやはや、濃厚な明田川の世界が広がった怪盤だ。著作権の観点とは別に、若かりしパワーが詰まったゆえに再発を明田川はためらっているのかもしれない。

<収録曲>
A面
1.Theme For Yoshida
2.森山ブルーズ
B面
1.Bachnise Aketa
2.つのひろセンチメンタル Take 1
3.つのひろセンチメンタル Take 2

Personnel;
明田川荘之(ピアノ,オカリナ,歌とギター)
斉藤誠(ベース)
宮坂高志(ドラム)
梅津和時(アルトサックス)
中村マスコ(ボーカル)

なお本盤、"森山ブルーズ"のみYoutubeで聴ける。




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