TZ 8018:John Zorn "Mysterium"(2005)

 三部作として編成の異なる室内楽を収めた、現代音楽集。


 ライナーでジョン・ゾーンが宣言のように、本盤収録の音楽は自発的な創作欲で生まれた。05年5月から9月まで断続的に録音を行った。数秘術とオカルト趣味が背後にある、いかにもゾーンらしいモチーフだ。
 複雑な構成や抽象的な響きが頻出するけれど、アルバムを通しての印象は意外と聴きやすい。断片的にメロディや和音がきっちり現れるせいか。

 "Orphée"が最初の作品。fl,va,harpのアンサンブルを軸に、チェレスタとパーカッション、さらにイクエ・モリのエレクトロニクスが加わる。抽象的な変拍子が無秩序に漂う難解な構成で、指揮者をきっちり立てている。
 ライナーに寄ると、ドビュッシーの幻想性をイメージして作曲したらしい。約9分の楽曲は、ストーリー性が極端に跳躍し着地も読めない。ファイルカードっぽい唐突な場面展開が頻出し、奔放に音楽は鳴る。

 イクエ・モリのエレクトロニクスも要素の一つで埋め込まれ、いたずらに強調されはしない。極端にコンセプチュアルな楽曲で、リズムも読めない。奔放にメロディへ振り回され、持っていかれる。
 テクニカルな展開だが、ヴァーチュオーゾ至高主義ってほどでも無いようだ。例えば、本盤3曲目に比べて。
 現代音楽好きなら、むしろ馴染みやすい楽想だと思う。

 続く"Frammenti del Sappho"は、女性五人の無伴奏コーラス。"Filmworks X: In the Mirror of Maya Deren"(2001)と同様に鍵盤の白鍵だけえ作曲した、とゾーンはライナーに記す。
 
 古代ギリシャの女性詩人サッポーのイメージを根底に置いたこの曲は、13分あまり。トラックは一つだが実際は27の組曲で、ミニマルな和音が厳粛かつ荘厳に響く。歌ではあるが、徹底的に器楽的なアプローチ。強靭なピッチと連続する和音の神秘性がエレガントだ。
 本盤ライナーに記載の譜面では、同じ譜割が延々と続くさまが読み取れる。楽曲全体で見た場合、緩やかなメロディが漂いけっして単調では無い。
 古代文明の清廉でシンプルな世界を、複雑な和音の連なりで美しく描いた。
 とてもきれいな一曲だ。ファルセットの強いアタックが、時に耳へきついけれども。

 最後の"Walpurgisnacht"(ワルプルギスの夜)は弦楽三重奏。編成こそVln,Va,vcとオーソドックスだが、響きは猛烈にテクニカルで前衛的だ。
 ワルプルギスの夜とは4月30日から5月1日にかけて。ゲーテ「ファウスト」を筆頭に魔術的なイメージを持つ。もとは古代宗教の記念日らしい。しかしキリスト教文化で異教扱いされたため、どうしても"魔女の夜"みたいなおどろおどろしいイメージが付与されてしまう。

 この楽曲はスピーディな抽象性とウェーベルンの作品を下敷きにした数秘術に満ちているらしい。ポイントは第三楽章。二分足らずの小品だが、微かに始まっていくこの曲が、"Walpurgisnacht"として最初に作曲されたそう。
 きらめきが静かに弦で表現され、ピチカートと弓弾きが混在する。そして静かに消え去ってしまう。印象に残りづらい楽曲ながら、この繊細さが、ゾーンはとても思い入れあるようだ。

Personnel:
Brad Lubman - conductor
Stephen Gosling - celeste, harpsichord
David Shively - percussion
Tara O'Connor - flute
Lois Martin - viola
June Han - harp
Ikue Mori - electronics

Lisa Bielawa - voice
Martha Cluver - voice
Abby Fischer - voice
Kirsten Sollek - voice
Martha Sullivan - voice

Jennifer Choi - violin
Fred Sherry - cello
Richard O'Neill - viola

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