Miles Davis "Move"祭り

残された"Move"のテイクを時系列で聴いて見た。

 リー・コニッツのインタビュー本読んでて、聴きたくなったのがマイルス「クールの誕生」(1954)。"Move"はCDの1曲目で、元はSP盤シングルで発売された。ビバップ時代のドラマー、Denzil Bestの作曲でJohn Lewisのアレンジだ。
  

 "Birth of Cool"の発売経緯は英Wikiに詳しい。若かりしマイルスがギル・エヴァンスとの交流を踏まえ、クロード・ソーンヒル楽団の影響を受けつつ組んだ9人編成のコンボが本盤になる。https://en.wikipedia.org/wiki/Birth_of_the_Cool
 ビバップの次を狙いクラシックの融合を目指した、洒落たジャズ。ビバップの曲芸は踏襲しつつ、白人マーケットも狙う洒落たアレンジで市場拡大を狙った、マイルスの先見の明はさすがだ。
 この曲を録音は49年、昭和元年生まれのマイルスが23歳の時になる。

 LPのディスコグラフィーだけ見てたら、本盤の立ち位置は誤解する。
SPがいつ出たか記載無いが、10インチLPが54年の発売。12インチLPに至っては57年。録音から数年後だ。
 LPのディスコグラフィーから本盤って57年に録音と思ってたらダメだ。マイルスは9人編成コンボをあっというまに解散して、プレスティッジでぶりぶりにモダン・ジャズへ邁進と見えてしまう。

 実際は違う。録音の一年前、48年から本バンドでライブを重ね、49~50年の間で3回の録音セッションを重ねた。ライブも並行して49年まで行った。単なるスタジオ・バンドでは無い。クラブ演奏での地に足の着いた活動だった。

 マイルスのネット・ディスコグラフィーで最も詳しいWeb"Miles Ahead"によれば、"Move"の音源はブートで7テイクが残されてる。


 06年に出た10枚組のライブをまとめたBox、"Live Recordings 1948-1955"(2006)にそれらライブテイクが全部詰まってた。それに改めて気づき、"Move"だけまとめて聴いて見た。だから、"Move"まつり。


 まず"Move"音源の一覧から。
1)1948/ 9/ 4 - NYC Royal Roost
2)1948/ 9/18 - NYC Royal Roost
3)1949/ 1/21 - WOR Studios, New York 【スタジオ録音】
4)1949/12/24 - NYC Carnegie Hall
5)1951/ 2/17 - NYC Birdland
6)1951/ 6/ 2 - NYC Birdland
7)1951/ 9/29 - NYC Birdland
8)1953/ 5/16 - NYC Birdland

 では一曲づつ聴いていこう。メンバーがガラガラ変わってる。
1)1948/ 9/ 4 - NYC Royal Roost

 NYのクラブで演奏。次の2)が同月18日。ずいぶん長い連続公演だ。当時のジャズって、まるでハコバンみたいな公演かな。この当時の興業スタイルが良くわからない。
 本曲のメンバーは、以下の9人編成。
Miles Davis (tpt); Michael Zwerin (tb); Junior Collins (frh); Bill Barber (tuba); Lee Konitz (as); Gerry Mulligan (bs); John Lewis (p); Al McKibbon (b); Max Roach (d)
 
 そうそう、本盤のスタジオ録音は2分半。だがライブ・テイクはどれも、けっこう長い。ソロ回しが多いせいだ。本テイクも3分半の長さ。

 けっこうドタバタながらアップテンポにテーマが奏でられる。録音状態が悪く細かいところは聴き取れないが、分厚い三声ホーンで迫力ある演奏の様子が伺える。
 tb、as、tpとめまぐるしくソロが回っていく。ドラムのブレイクでマイルスが4バーズ・チェンジも。

 マックス・ローチのドラムはシンバルでリズムをきっちりキープしながら、スネアは変なアクセントで叩く。このビート感が新鮮だ。
 とにかくこの曲ではドラムが目立ちまくり。やたら叩きまくってる。途中でブツ切れのテイク、終わり方は良くわからない。

2)1948/ 9/18 - NYC Royal Roost

 同じ場所でのセッション。テーマはきっちりまとまってる。連日連夜の演奏で、こなれたか。ただしメンバーのうち、ベースがAl McKibbonからDillon "Curley" Russellに変わった。4分50秒もの長さ。もしかしたら(1)も同じくらいの演奏だったのかも。
 ソロはas、tp、p。当然、前のテイクとソロ回しの順は違う。
 ドラムが暴れるのも同じ。ただしこの録音では、全体にモッサリした音質のため意外とドラムは紳士的に聴こえる。

3)1949/ 1/21 - WOR Studios, New York

 そしてスタジオ録音。この頃って1ポイント録音?今の耳だと音質や分離はボロいが、さらに音質ヒドいライブ・テイクを聴き連ねると、上手いことバランスとったレコーディングだなあと感じ入った。

 ソロはtpからasに繋がり、dsソロへ。前述のとおり二分半と、コンパクトにまとめた。とにかくドラムがカッコいい。そのうえ一糸乱れぬアンサンブルで駆け抜ける、洗練されたテーマのスピード感が堪らない。
 和音もふくよかで上品。アドリブはビバップ譲りの高速フレーズがばら撒かれ、まったく隙がない。

 大幅メンバーチェンジあり、tbがMichael Zwerinから Kai Windingへ。pはこの曲のアレンジャー、John Lewisが消えてAl Haig に変わった。bもまた変わり、Joe Shulmanが弾いている。録音のせいで普通に聴いてるとチューバとtbに埋もれ、ベースってよく聴こえないけれど。
 
 ちなみにYoutubeで、マイルスのソロを採譜した映像があった。なぜか、バックのキーがそれぞれ違う。同じ音源なのに。左がC、右がB♭のキーでコードが振られてる。
 

4)1949/12/24 - NYC Carnegie Hall

 やたら速いテンポで5分半の演奏。(1)や(2)はドラムのイントロからホーン隊が滑り込む。(3)はいきなりホーンがクレッシェンドで盛り上がるアレンジだ。
 ところが本テイクはピアノの高速独奏からホーン隊が畳み掛ける。結構アレンジ変えてるぞ。ソロはtp、bs、as、tb、pと回っていく。

 スピード強調の荒っぽい演奏だ。カーネギー・ホールの大舞台というのに、飾るよりもスリリングな勢いを強調したか。録音バランスのせいで、ドラムがほとんど目立たない。後ろでシンバルの連打感は残ってるし、スネア強打してドラムは結構、暴れてる感じだが。

 終盤でドラムに煽られながら、猛然と疾走するさまも凄まじい。クリスマス・イブのライブだ。
 なおメンバーは、ほぼ全員違う。バド・パウェルをフィーチュアしたクリスマス限定の特別編成?だからこんなにピアノが目立つアレンジなのかも。
 
 具体的にはtbがKai WindingからBennie Greenへ。asもLee Konitzが抜けてしまい、 Sonny Stittになった。英Wikiによると、もともと Sonny Stittが狙いだったらしく、マイルスにとっては本編成が念願だったのかも。
 bsもGerry MulliganからSerge Chaloff、pはAl HaigがEarl "Bud" Powellに。bは(2)の奏者Dillon "Curley" Russellが復帰。tubaとfrhがいない7人編成だ。

5)1951/ 2/17 - NYC Birdland
 
 ちなみに残ってる録音は全てニューヨークでのライブ。この編成でツアーしたのかな?当時のライブ記録見ると、ツアーはチャーリー・パーカーと回ってたようだ。今手元にないが、マイルスの自伝読んだら当時の様子が載ってるかも。
 
 ドラムがイントロをつとめるアレンジに戻った。テンポは速いが、若干抑えてる。ソロはtp、ts、tbと回ってく。

 メンバーは、もはや全然違う。 J.J. Johnson (tb); Sonny Rollins (ts); Kenny Drew (p); Tommy Potter (b); Art Blakey (d);と、誰一人過去のメンバーが残って無い。すでに各和声2人ホーンのコンセプトも消えてる。
 モダン・ジャズの方向性に、マイルスは既に舵を切っていた。だが、演奏曲だけは過去のレパートリーを残し、興行の一貫性は維持したか。

 ドラムがローチからブレイキーに変わり、切れ目ないシンバルやスネアの瀑布へ。奇妙で荒々しいドラムのプッシュが無くなり、分かりやすくなった。

6)1951/ 6/ 2 - NYC Birdland
 
 前曲の4ヶ月後。ドラムがカットされ、いきなりホーン隊から始まる。とはいえテープ編集の都合で、単に頭が切れてるだけかも。サイドメンは前曲と同じ、6人編成。
 録音の感じで楽曲の印象変わる。このテイクはシンバルがオフ気味。どんどんメンバーでソロが回っていく。

 アップテンポのカッコよさをこの曲は意識しつつ、ビバップの曲芸を象徴させつつ。既にアドリブのソロ回しは、スケール上下から解放された自由なフレージングへの片鱗を感じた。

7)1951/ 9/29 - NYC Birdland
 
 さらに3か月後。まだこの曲は演奏されている。メンバーはブレイキー以外、一新の6人編成だ。サイドメンは、 Eddie "Lockjaw" Davis (ts); George "Big Nick" Nicholas (ts); Billy Taylor (p); Charles Mingus (b); Art Blakey (d)。
 ミンガスのベースもじっくり聴きたいが、ヘッドホンじゃないと聴き取りづらい。もこもこの低音感がだけ響いてる。
 
 ソロはもう自由だ。ロックジョウは奔放にテナーを吹き散らし、のびのびアドリブしてる。続くビッグニックもいくぶんビバップ風味だが、よりファンキーさを強調した。二人のチェイスも、荒々しい黒っぽさが満載だ。
 ピアノが拍頭を中心に叩く隙間の多い緩やかなフレージングが音域を上下に行き交う。そんな鍵盤の弾みっぷりが、強烈にこの曲をグルーヴさせた。
 
 テンポ感も速めだが、ゆとり持った感じ。

8)1953/ 5/16 - NYC Birdland

 この曲で残されたライブ・テイク、最後のもの。(7)から一年半の時が流れた。
 編成は Sahib Shihab [Edmund Gregory] (bs); Wade Legge (p); Lou Hackney (b); Al Jones (d); Candido Camero (cga); と、前曲と全くかぶらぬ6人編成だ。言っちゃあなんだが前曲のメンツよりは、ちょっと地味。ぶっちゃけ、格下。
 
 この曲はライブの1曲目に演奏だ。マイルスのソロを筆頭に、アップテンポの軽快さで、手早くソロ回しのメンバー紹介が狙いなのかも。サヒブ・シハブのバリサク・ソロは、妙に籠った音質で遠慮ぶかげ。とはいえフロント二人のシンプルさで、のびのび吹いている。
 性急なベースのフレージング、指の廻る強打気味のピアノ、せわしなくプッシュするドラム。いわゆるクール・ジャズの洗練さを残しつつ、ビバップの曲芸とは違うスピードだ。
 
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 おまけ。「クールの誕生」プロジェクトは、ジェリー・マリガンが92年にリユニオンした。肝心のマイルスが他界しているが。

"Re-Birth of the Cool" (1992) Gerry Mulligan
 

 メンバーはWallace Roney(tp),Dave Bargeron (tb),John Clark (Frh),Phil Woods (as),Gerry Mulligan (bs),Bill Barber (Tuba) ,John Lewis (p),Dean Johnson (b),Ron Vincent (ds)。
 なぜアルトがリー・コニッツで無い・・・断られたか。オリジナル・メンバーはGerry Mulligan (bs),Bill Barber (Tuba) ,John Lewis (p)の三人のみ。
 
 サウンドももはや、時代を潜り抜けたジャズの響き。当時の勢いやスリルは減じて聴こえてしまう。とにかくバリサクのソロからして、思い切りメロディアス。激しくフレーズを上下する、ビバップの勢いがない。やたらトロいピアノに至っては脱力もの。二人とも、オリジナル・メンバーだろ・・・?

 とはいえ改めて、通して同じ曲を時系列に聴き繋いだら面白かった。マイルスの変化を音聴きながら想像するのも楽しいね。

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