"メニーナ・モッサ" Aketa Meets Vocal (2009)

 歌伴の明田川荘之にスポットを当てた一枚。さりげなく小粋なアルバム。


 ジャズ・ピアノ奏者と歌伴はしごく馴染の編成なのに。独創さゆえに明田川の歌伴は特にない。CD化は三上寛との競演"御縁"(1994)や"大感情"(2002)くらい。未CD化の初期作"集団生活"(1977)でも歌伴な場面があるけれど。あれはユニゾンっぽいしな。

 本盤は娘の明田川歩と共演で2曲、Lunaと1曲。歩との共演は明田川の自作でなく、スタンダード2曲。特に(1)で、しっかりと軸となるレパートリーを残す、戦略的なアルバム作りがさすがだ。
 歩の歌はあまりフェイクせず、とてもまっすぐな歌い方。のびのびと声を響かせる。

 (1)はウィリー・ネルソンの曲。ぼくの世代だと80年代の爺さんなウィリーがぱっと頭に浮かぶけど。これは61年のヒット曲。全米9位、カントリー・チャート2位まで上がったそう。
 改めてオリジナルを聴いたが、スライド・ギターのイントロはハワイアンかと思った。歌い上げず、呟くような節回し。本バージョンなら確かにカントリーだ。なんともいなたいのどかな風景が広がる。これをジャズ・ボーカルに仕立てたアイディアは良いな。


 Lunaとは吉良インテルサットでのライブ。曲は彼女のオリジナルだ。ぼくは聴きそびれてるものの、アケタの店でも彼女を招き明田川はセッションを重ねてる。
 こちらは艶やかな歌声のジャズ・ボーカル。
 歩とLuna、対比させアルバムの構成をきっちりつけた。

 本盤はさまざまな意味でバランス感覚に優れた盤だ。まず歌モノ。歩とLuna、個性の異なる歌声を並べたのは前述のとおり。さらにカバーとオリジナルって対比、ピアノ・ソロとトリオ編成って対比もある。
 この伴奏の対比は、続く明田川のピアノ・ソロと並び立ち、さらに歌モノとインストの構図でも対比できる。

 アルバム全体としては短めの41分。しかしLPとCD時代って対比も、本盤の曲順で感じた。中盤で軸の(4)。これが13分あるため、LPならA/B面の座りが悪い。収録時間がアンバランスだし、どっちに寄せてもやたら片面が長くなる。たぶんアナログなら(4)がB面1曲、B面が合計25分って切り方と思うが。

 これはすなわち、CD時代ならではのアルバム構成や盛り上げ方をみせた、と思った。ライナーで明田川は「トータル・タイムが短い」と言うが、なんのなんの。アナログLPならむしろ長め。
 もちろんファンとして長尺で聴きたいのはやまやまだが、LPサイズの尺で集中力上げて聴くってのもおつなもの。

 そして後半3曲のインストが素晴らしい。初収の(4)で盛り上げ、(5)と(6)はそれぞれ近作"黒いオルフェ"(2006),"Siciliano"(2007)での再演。演奏そのものに満足ゆえの収録とは思うが、ここでも近作との対比構図を作りたいのでは、と深読みした。

 あとは明田川と共演者の対比、ってのもある。明田川の頼もしいピアノと比較したら、本盤全員の演奏はどこか細い。改めて明田川の強靭さを実感した。

 さらに音質も対比有り。綺羅の音源は少々音が硬い。いっぽう、アケタの音源は島田正明によるしっとりしたピアノ。耳に馴染んだホームグラウンドの音色だ。
 旅先でのはじけたさまと、深夜に地元で密やかに紡ぐ音。それらを聴き比べられる。

 本項で対比と書いた。これを、ドラマと言い換えたい。そう、本盤にはさまざまなドラマが聴き取れる。

<収録曲>
1. クレイジー (Willie Nelson)
2. オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート (D.Fields~J.McHugh)
3. 手をつないで ~Hand in hand~ (LUNA)
4. メニーナ・モッサ (Luiz Antonio)
5. ブラックホール・ダンシング (AKETA)
6. シチリアーノ (G.U.Faure)

Personnel:
明田川荘之(p)

明田川歩(vo on 1,2)
LUNA(vo on 3)
野本謙之(b on 3,4)
野村陽三(ds on 3,4)

録音
1,2 2008年7月19日 アケタの店ライブ
3,4 2009年2月14日 愛知 吉良インテルサット ライブ
5,6 2009年2月28日 アケタの店ライブ

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