TZ 8156:Omer Klein "Rockets On The Balcony"(2010)

 スマートに、かつひとひねりしたクールで熱いピアノ・トリオ。分かりやすく個性を出した。

 オマー・クレインはイスラエル出身のピアニスト。本盤の前に以下のアルバムをリリース、おもむろにTZADIKから本盤を発表に至った。今のところ、これ以外にTZADIKと絡みは無い。

2007 Omer Klein & Haggai Cohen Milo
2007 Introducing Omer Klein
2008 Heart Beats
 
 編成はピアノ・トリオとオーソドックス。ただし曲によりローズを弾き、ベーシストはカリンバ、ドラマーはパーカッションとひとひねりした楽曲編成を持つ。
 リズム隊の二人は、過去のオマーの盤で共演経験あり。同世代の顔見知りミュージシャンらしい。なおベースのHaggai Cohen-Miloは数年後に、リーダー作"Penguin" (2014)をTZADIKからリリースした。こちらにはオマーの参加は無し。

 本盤は変な新機軸を入れない代わりに、曲ごとにアレンジを変えてオムニバスみたいな印象を施した。なお楽曲は全てオマーのオリジナル。

 まず流麗で硬質に響くまっとうなピアノ・トリオの(1)。ジョン・ゾーン流のスピーディーなクレヅマーに通じるノリで、エキゾティックなアラブ風味をうっすら滲ませた。ピアノのアドリブは軽快で手数多い。
 (2)アルコで重厚にベースを響かせ、ドラムセットはパーカッション・セット。酩酊感を演出した。ピアノはどっぷりとアラブの色合いを漂わす。玄妙で濃密なフレーズ使いだ。テーマでピアノとベースがユニゾンな譜割なあたり、まさに中東風味。

 (3)は軽やかなピアノ・トリオに戻る。(1)に似た感触だが、リズムのキメやフレーズのひねり方は、アメリカとはだいぶ離れた。アメリカのジャズを咀嚼したイスラエル味が本曲のテーマではないか。どっか、ちがう。
 テーマの畳み掛けるバスキング風味が、そうさせるのか。むしろ欧州ジャズのほうが近い。

 テンポ落した(4)でローズの登場。フュージョンっぽい軽みより、ぐっと沈み込む粘っこいグルーヴを狙ったか。切なさが滲みつつも、感傷に流れぬ若々しさ有り。アドリブは鍵盤の音数を無闇に増やさず、時にじっくりと音を撫ぜてローズの特質を見事に生かした。
 (5)は再びピアノへ。リズムをいくぶん細切れに畳み掛け、熱っぽさを出した。ただし根本のところではじけず、洗練されたムードを出すのがオマーの特徴か。せっかくドラムとベースが疾走してるのに、ピアノはがっちりと自らのテンポ感を保ってフリーに雪崩れない。

 続く(6)もピアノ。ぐっとファンキーに乗る。一小節の中でぐわんと揺れるノリが心地良い。ベースはランニング気味に音数を絞り、ドラムが手数を増した。16ビートの小刻みなグルーヴの上で、ピアノはのびのびソロを取った。
 フュージョン寄りの楽想は、本盤で特に聴きやすく耳馴染みいい。ただしBGMに向かない。三人の詰まった音数は、つい耳を引き寄せる。 三人のソロ回しも盛大に盛り上がった。

 カリンバ・ソロを静かにフリーなドラムが飾る、不穏なイントロの(7)。
 ピアノはサティのグノシエンヌみたいな浮遊感を出す。ジャズ的なピアノ・トリオと違うベクトルだが、ぼくはこの曲が一番面白かった。
 揺蕩うピアノがたるっと停滞を演出し、リズムは定型を崩し無秩序を出す。カリンバから弓弾きの軋みも混ぜるベーシストが不安げな空気を出した。
 アドリブ場面では混沌が全編を支配する。激しさは無く消えて溶けるインプロ。
 そして静かにピアノのテーマが顔を出し、何事も無かったように世界を強引に戻した。ワルツ風の3拍子で。
 ドラムはスネアだけが淡々と刻み、シンバルが無造作に連打。ベースも正しくランニングして秩序を演出する。だが最後の数秒で、再び不穏へ。ドラマティックで面白い。

 再びローズが登場の(8)。右手はすこし情感を増したフレーズ。左手は和音を粘らせた。リズム隊は素直に鍵盤を盛り立てる。オーソドックスな伴奏のふりして、どんどん音数増やす勇ましさが頼もしい。
 グルーヴィーさではこの曲も良い。明確な定型ビートではないが、強靭な足腰としなやかな筋肉をただよわす。

 アルバム最終曲の(9)はアルコの重厚さから。冒頭に戻る勇ましいピアノを基軸のタイトなピアノ・トリオだ。ピアノ・ソロは拍頭を微妙にずらし、フレーズを溜めながらも次々とフレーズを繰り出しスピードを上げる。
 ドラムとベースも微妙なキメをビシバシ併せつつ、現代基軸のアグレッシブなハード・バップを聴かせた。

 幅広いバラエティさを弾き切る器用さから滲む、個性がオマーの特徴か。

Personnel:
Omer Klein: Piano, Fender Rhodes
Haggai Cohen Milo: Bass, Kalimba
Ziv Ravitz: Drums, Percussion

2015年のライブ映像。


関連記事

コメント

非公開コメント