"Siciliano"(2007)AKETA+翠川敬基+藤川義明

 明田川荘之の数十枚あるリーダー作の中で、今のところ唯一のスキャンダラスさを込めたアルバム。いわゆる「喧嘩セッション」だ。まさに、喧嘩の瞬間が聴ける、奇矯な盤。


 このアルバムは色々と思い出深い。ぼくはライブの現場を目撃していた。感想はこちら。
 翠川敬基と明田川はなんども共演を聴いてきた。04年3月18日(感想はこちら)、05年7月17日(感想はこちら)、06年6月4日(感想はこちら)、と。だいたい一年に一回くらいの共演だった。
 だが藤川義明と明田川の共演は機会が無く、楽しみにしてた。翠川と藤川の相性良さは言うまでも無し。さぞかし面白いセッションだろう、と。まさか、あんなことになるとは。

 翠川敬基と藤川義明は、日本フリージャズの第三世代あたり。明田川と同世代にあたる。明田川は"場"を切り開いた点で、偉大な功績を築いてきた。
 いっぽうの翠川と藤川は、ユーモアをフリーに導入し、インプロの限界を幅広くした点は、功績の一つだと思う。

 しかめっつらで腕組みして見入る、緊張に満ちた真面目なインプロ。そこへ、あらゆる常識や枠を自在に解体し、自由を追求した翠川と藤川の功績は偉大だ。ナウ・ミュージック・アンサンブルからF.M.T。杉並Zクラブなんてユニットもあったらしい。藤川のイースタシア・オーケストラには翠川も参加した。
 二人の偉大さは「日本フリージャズ史」を読むと、良くわかる。


 後に翠川は緑化計画を軸にして、クラシックへも視点を広げた自由な活動を繰り広げた。
 藤川は兼業ミュージシャン(タクシーの運転手だったらしい。アケタの店に制服姿で来た藤川を一度、見かけた記憶ある)ながら、アケタの店にも積極的に出演し、鋭く貫いた即興を行った。
 二人に通底は、「真面目さ」。藤川は真面目にユーモアと対峙し、翠川は諧謔性を全面にだし、まじめさを覆う。真逆のアプローチだが、根底は近しいと思う。
 


 その二人の演奏が、思い切り変な形で出たのが、この夜のライブだった。
 本盤は1stセットを全て収録している。事件が起こったのは中盤。ふざける翠川を、まじめにやれと諌める藤川。数十年の友人関係ゆえの、アングルとも思いたい。
 しかし怒った翠川が、藤川の頬を平手打ち。・・・あれは、怖かった。

 ギャグじゃなく、空気が張り詰めた。明田川がピアノをほとんど弾かなくなり、あのままステージがむちゃくちゃになるかと思った。
 だが気を取り直したか、明田川は次の曲から弾きまくった。藤川も加わって、猛然たる空気に。こんな流れで1stセットは終わり。
 一連の様子を丸ごと封じ込めたのが、本盤だ。

 演奏は予想以上に悪くない。スタンダードで初めて、結果で雰囲気がめちゃくちゃに。切り返した超フリーな展開が、ぐいぐいと盛り上がっていく。
 スキャンダラスな喧嘩のシーンが、本盤の売りではない。あくまで終盤の緊迫感あふれるフリージャズが、最大の聴きものだ。寛いだ2曲目のフリーとの対比が凄い。
 アクシデントを糧に疾走する明田川と、まじめさを一心に高める藤川。ギャグのゆとりを持ち、ひょうひょうとしながらも真摯にフリーへ向かい合う翠川。三者三様の、音楽への向き合い方を味わえる、生きざまを封じ込めたともいえる、記録の盤だ。
 
 たしかにぼくは、1stセットはムチャクチャかと思い込んでた。だがCD-Rを事前に聴く機会あり、予想以上に充実してびっくりしたっけ。まさに三人の底力、だろう。本盤のライナーや写真にも感慨がある。明田川さんにCD-Rを頂いたのは07年6月3日のなってるハウスだった。

 ちなみに本盤のレコ発では、翠川は参加せず(感想はこちら)。その後、三人のセッションって一回くらいアケタで有った気もしたが・・・聴きそびれたまま。また改めて、三人のセッションを聴いて見たいものだ。

<収録曲>
1.アルト試奏
2.アイ・クローズ・マイ・アイズ
3.シチリア・マフィア・ブルース(AKETA)
4.バッハ・アケタ・現代(AKETA)
5.シチリアーノ

Personnel:
明田川荘之(ピアノ、オカリーナ)
藤川義明(アルト・サックス、フルート)
翠川敬基(チェロ)

録音:2007年1月10日、アケタの店ライブ



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