"Mr. 板谷の思い出"(1999) 明田川荘之

明田川荘之は独立独歩である。このアルバムは思い出深い傑作だ。明田川ピアノの初心者には、本盤を自信持って薦めたい。

初めて聴いた明田川。衝撃的だった。いろんな意味で、価値観の転倒を受けた。
本盤はCD-R。ジャケットはプリンター出力。すさまじくフットワークの軽いリリース形態だ。当時の意気込みはこちらで読める

明田川は自らのライブハウスを持ち、自らのレーベルを持つ。さらに本盤でリリースも、さらに自由度を増そうとした。99年の時、この自力具合は驚異的だった。そのうえ自分一人のためじゃない。
同時発売が"FDS"(原田依幸/鈴木勲)。怒涛のフリージャズをいきなり発表した。なおこのライブはデュオでなく、ユニット編成。顔ぶれが凄まじい。
(原田依幸 (p)、鈴木勲 (b)、中尾勘二(b-tb)、古池寿浩(tb)、吉野繁(as)、時岡秀雄(ts)、 加藤崇之(g)、宅朱美(vo)、小山彰太(ds):1999年5月9日アケタの店ライブ)

ぼくは本盤で初めて明田川を知った。アケタの店は梅津和時の大仕事がらみで名前は聴いたことあったが、行ったことは無し。ピアノ向かった洒落たヒゲ男からロマンティックなピアノ・ジャズが聴けるかと思ったら。

いきなり飛び出すオカリーナ・ソロ。いわゆるニュー・エイジの寛ぎ狙いでなく、思い切りジャズ。さらにピアノの奏でるメロディは情感たっぷりの日本風味。
けれども日本人離れした、左手の猛烈なランニング・グルーヴ。このジャズは何だ、と混乱で頭が揺さぶられた。そして強烈に惹かれた。アケタ盤流の抑えたマスタリングによる、甘い響きも新鮮だった。今聴くと、アケタの店の音だなあと実感するが。

ライナー読むと自分の店の深夜に数人の客前でやったライブをそのまま収録アルバムにまとめた、という。なんでここまで自給自足なんだ、と圧倒されると同時に凄まじく好奇心をくすぐられた。そして実際に明田川のライブへ行き・・・彼の音楽にハマって、今に至る。

本盤は74分とみっちりCD一枚に音を詰め込んだ。たしかに全7曲、深夜ライブの様子が詰まってる。スタンダードを織り交ぜつつ、ロマンティックで静かなピアノ・ジャズ。(6)の終盤で派手にクラスターが決まった。

今の耳で聞くと、ずいぶん整った感じ。なんというか、アルバムとして構成が見事だ。深夜のピアノ・ライブは、時にもっと奔放だから。クラスター連打で終わるときもあれば、テープ演奏をバックにオカリーナでしみじみ締めるときもあった。

何はともあれ、彼の重要作にして代表作の一枚、だと思う。深夜ピアノ・ソロは本盤の前後に色々出てるが、本盤のバラエティに富む「時間を封じ込めた」感は、他の盤では今のところ味わえない。

入手困難な一枚だが、見つけたらぜひ鷲掴みにしてレジへ疾走して欲しい。そして実際に彼のライブを味わって欲しい。すごいから、ほんと。

<収録曲>
1.Mr.板谷の思い出
2.I Love You
3.越後の乳配り
4.Soul Eyes
5.Like Someone in Love
6.コージャク・テンプル
7.つのひろセンチメンタル

Personnel:明田川荘之 (p,ocarina)

録音:1999年6月19日アケタの店深夜ソロ・ライヴ



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