音楽との距離感

「学校で教えてくれない音楽」大友良英:著(2014:岩波書店)を読む。
非常に示唆に富んだ面白い本だった。

 正直、最初はケッと思った。ただしこれは大友のせいではない。
 帯の「字が大きい岩波新書」でまずムカつく。読みやすいとか、岩波が志向するんじゃないよ、と。他の出版社はいざ知らず、岩波は読みやすさ無視してアカデミック路線を走ってほしい、って思い込みがあるもので。字の大きい岩波文庫とか、もう20年くらい前から路線が変わっており、ぼくが小学生の頃の黒っぽい文庫や新書の岩波ははるか昔の話だ。

 次にワークショップをそのまま本にした構成にムカつく。安易な編集してんじゃねえよ、と。だがこの素直な文字オコシが音楽家らしい本であり、すごく刺激的な内容になっていた。
 この文字オコシこそが、本書の特徴であり面白い点になっている。擬音や場の流れをそのまま文字にしたことで、奇妙な臨場感を味わえる。音程や音色まではさすがに記載も再現もできない。
 しかし読みながら頭の中で音を鳴らすことで、かなりの疑似体験を味わえる。
 その意味で、本書は非常に面白く刺激的だった。

 ちなみに以降の内容も示唆に富んでいる。音楽に対する自分の姿勢や価値観を考えさせる、さまざまな論点を内包していた。
 
 本書の構成は第一章と第二章が2014年に岩波書店の社員食堂で行われたワークショップ。この書籍化を想定した企画か。第三章が鼎談。観客がいる、のかな?良くわからない。第四章が大友の音楽生活を振り返った、簡単なまとめ。

 ここでは「音遊びの会」と最終章の振り返りに関して、考えたことを残しておく。

 大友の活動の一つに「音遊びの会」がある。ライブを見たことは無いし、今後もたぶん行かないと思う。いろいろな理由があるのだが音楽的な観点のみでいうと、ぼくは音楽は憧憬の対象と捉えているからだ。
 今まで言語化したことは無かったが、本書を読みながら考えているうちに気が付いた。

 大友は本書で「音楽的弱者」との表現を使う。引用すると"楽器のスキルが無くても、歌がうまく無くても、音楽は出来ます"が、この定義になろうか。
 確かに大友の言うとおり、だと思う。しかしぼくはたぶん、これまでこの視点が無かった。山のように「音楽的強者」のつくった音楽がある中で、わざわざもう一段階高いスリルを音楽に求める余裕が無かった、と言ってもいい。

 大友の考え方に共感はできる。しかし根本的に違うなあ、とも思った。
 音楽的弱者と強者の立ち位置に大友がこだわったのは、そもそも大友が「西洋音楽の文脈で言う、楽器巧者」の立ち位置と少々ずれたところから活動を続けたのが根底にあると思う。
 たぶん大友が譜面に起こしやすい楽器を、いわゆるハイテクニックで演奏するスタイルならばおそらく本書の視点には至るまい。
 なおぼくは大友がステージで扱う楽器のテクニックは、本当に素晴らしいと思っている。念のため。

 「音遊びの会」では確かに大友の言うスリルに満ちた音楽が産まれているのだろう。だがぼくはまだ、ここまで突き抜けられない。
 観客という、絶対安全圏でしか音楽を聴けていない。
 
 ライブは大まか、二種類に分かれると思っている。再現か、刺激だ。つまり楽譜通りやヒット曲の再現を確認し、共感を得る。ここでは一部のクラシックやポピュラーのステージをイメージし、書いている。
 刺激の場合は、非再現や一過性の構成が多い。予測もつかずスリルと好奇心をくすぐられる。手っ取り早いイメージはインプロの場合。

 このとき観客はどこまで参加や一体感を得ても、安全圏にいる。
 だが「音遊びの会」は構成を超えた偶発性がありそうで、その場にいたらと思うと怖くて聴けない。
 しかし大友が本書で繰り返し滲ませるメッセージは、音楽はそんな安全圏に限定されない。もっと活き活きしたものだ、と言うこと。

 "文脈は一つじゃないし、歴史の見かたもひとつじゃない(中略)どんな「場」が生まれるのか、そんなことをもっともっと考えたほうが、世の中が面白くなるんじゃないかな。"と、大友は最後に言う。
 これはほんとうに、大きな勇気を必要とする。また時間置いて、読み返してみるかな。
 
 最後に余談。拍子木のだんだん早くなるテンポ感は外国の人は苦手、って記述があった(p18)。そうなんだ、知らなかった。こういうのもソウル・ビートなのかな。面白い。
 本書でも言及ある三本締めも、ごく普通に他の人と合う。
 ふと思い返すと三本締めのテンポ感って、これまであまり意識したことない。メトロノームでいくつくらいか知らないが、自分の中に何パターンくらい植わってるんだろう。

 それと本書に言及ある、ジョン・ゾーンのコブラ。上の論旨と全く別の観点で、日本とアメリカのコブラは大きな違いがあると思っている。ジョン・ゾーンがプロンプターするかしないか、でも。
 前から思っていることを、本書を読みながらふっと思い出した。

関連記事

コメント

非公開コメント