"長者の山 明田川荘之・林栄一デュオパートⅡ"(1997)

 明田川荘之はライブ、である。しかも丁寧に記録している。


 本盤は前作に続く、96年11月19日のライブ2ndセットを丸ごとおさめた。2ndセットそのものは43分程度と短め。
 さらに明田川はボートラ扱いで、約一年後にして本盤発売時点で最新な深夜ピアノ・ソロライブから、15分弱の計2曲を追加して本盤をまとめた。

 アケタの店で、明田川のライブは基本的に録音されてる印象あり。昼の部で出演を聴いたときは録音なかったが。これは自らのライブハウスゆえに音響効果も知りつくし、なおかつハウス・エンジニアの島田正明がいるおかげだろう。
 ピアノには数本、各楽器に一本づつ。ドラムも数本、かな。マルチ・マイクで丁寧に録音され、なおかつ機材は随時にアップグレードされてるようだ。

 以前はアケタの店は録音や練習スタジオの機能も想定してたようだ。だが何年も前にその機能は無くなり、ライブハウスしてのみ活動している。たまの明田川によるオカリーナ・レッスン会場や、オカリーナがらみの展示館として利用もあるが、双方ともぼくは参加したこと無くコメントができない。

 ここで何が言いたいかというと、店主としてある意味無限に録音実験できるスペースを確保したにもかかわらず、明田川は常にライブ演奏を発表の軸とした点だ。
 観客がいてこその音楽、が明田川の心情なのかもしれない。ご本人に尋ねたことは無いけれど。

 本盤は2ndセットを丸ごと収録という。編集してベストテイク、では無い。丸ごと、ライブを封じ込めた。もちろん演奏の素晴らしさあってこそだが。
 この後の盤で、明田川は有る一日のライブをそのまま収録の場合と、複数の日から抽出と2パターンのコンセプトを使い分ける。この後の感想で触れるが、それらの使い分けも興味深い。
 貴重なひとときの"記録"と、良い演奏の"抽出"を使い分けてる、と今は整理しておく。
 本盤はその双方がバランス良く収まった。明田川のさまざまな要素を抽出の上で、良い演奏を記録、の双方が聴ける。

 本アルバムの冒頭も数本のオカリーナ持ち替えな、明田川の無伴奏ソロで幕を開けた。小刻みにフレーズを重ねるランニングと、伸びやかな旋律を広げるフレーズが交互に現れる明田川節だ。
 途中から微かに林のサックスが音を重ね、音像の中心を散らし始める。ある意味、大胆な動きだ。明田川のオカリーナ世界は、ともすればそれだけで完結するだけに。
 そしてピアノへ変えた明田川は、小細工せずがっぷりと林の演奏を受け止める。シンセは使わない。

 続くスタンダード(2)は、本当に明田川のお気に入りらしい。ライブでも頻繁に取り上げている。コロコロ弾むグルーヴと、切なさが滲む暖かい雰囲気が気持ちいい曲だ。
 林はまっすぐにメロディを吹いた。アドリブが進むにつれフリー寄りに行くこともあるけれど。あくまでもスイングするオーソドックスなジャズの路線を丁寧にたどった。

 メドレーで続く明田川オリジナル名義の(3)は、むしろ前曲で終わろうとしても終わらせず曲をつなげる、明田川流のエンディング好きを曲に仕立てた趣きだ。
 ピアノの中へ灰皿を入れた"ポスト"プリペアード・ピアノ奏法がいつの間にかはじまり、低音クラスターやランニング。林のサックスもフリーに向かい、探りながら曲ともつかぬ演奏へ。
 
 いったん(2)のテーマへ戻り、スイングからフリーへ。のびのびコミカルに遊んでる。観客が拍手しても明田川は終わらせず、次々に違う曲の断片を弾きだしてしまう。最初は聴きに入ってた林も、最後の方はフリーに吹いて暴れはじめた。明田川はクラスター連発の激しい世界へ。ある意味、非常に馴染み深い風景ではある。特に、ピアノ・ソロライブの時の。 
 これもまた、ライブならではの明田川流だ。堅苦しい(はずの)スタジオ録音では、こうは行くまい。

 さて、ボートラのピアノ・ソロ2曲。カバーの(4)とオリジナル(5)を収録した。剛腕で終わったライブ本編で火照った体を鎮めるような、穏やかなジャズだ。これも、明田川。ピアノ・ソロゆえの自由なタイム感で、たっぷりとメロディを歌わせる。
 (4)は明田川のライブで耳馴染みある曲だった。そうか、この曲か。ぱらぱらぱら、と動くフレーズが美しい。
 ここでのピアノ・ソロはリフレインは控えめに、次々とアドリブ・フレーズが現れて曲が変化し続ける。即興的な作曲を聴いてるかのよう。

 (5)はオカリーナの静かな独奏。(3)の本編ライブはしつこく粘っこく激しく終わらせた。明田川は続く(4)のピアノで穏やかな気持ちに聴き手を落ち着かせ、アルバムの幕を緩やかに閉じていく。
 さらにこのオカリーナでダメ出しだ。とことん、柔らかい印象で着地させた。

 この二重構造に緩やかなエンディング具合の構成が、独創的で素晴らしい。

<収録曲>
1.長者の山
2.アイル・クローズ・マイ・アイズ
3.アイル・オープン・マイ・アイズ
4.アイ・フォール・イン・ラブ・テゥ・イージリー
5.アイ・リメンバー・タカシ

Personnel:明田川荘之(p,ocarina)、林栄一(as)

録音:
1~3 1996年11月19日アケタの店
4~5 1997年11月1日アケタの店深夜ライヴ


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