TZ 7412:Kramer "The Brill Building" (2012)

 シミー・ディスク総帥の復活作で、妙に悲痛なムードのオールディーズ・カバー集。

 製作発表から7年。延々と待たされた。シミー・ディスクが破綻し、シミー・マイアミを立ち上げ、セカンド・シミーが現れて。ソロアルバムのリリースで見るならば、"The Greenberg Variations"(2003)から9年ぶりだ。

 シミーにケチが付いたあとのクレイマーは、活動が迷走していた。90年前後の活発なリリースはすっかり影を潜め、少々怪しげなJames Randi教育財団での仕事が漏れ聞こえるくらい。ポップ・カルチャー分野での音楽活動は停滞してた。

 08年には唐突に来日の嬉しい出来事があり、その際に"Things to come"なるプロジェクトに没頭と理解できた。ところが本盤は彼のWebで製作が公表されながらも、一向にリリースされなかった。
 その後にセカンド・シミーが稼働して、リリースの場が整備されて活動感興は元へ戻ってたはずなのに。本盤はいっこうにりりーすされなかった。タイミングはかってたのか、色々とマスターを弄り続けたのか。

 TZADIKの発売予定は延々続いた揚句、ついにリリースされた本盤。聴いてみて、最初は猛烈に戸惑った。あまりに暗く、重たいカバーばかり。もっと夢見心地のポップス集になるとばかり思ってた。

 もともとクレイマーのサイケな趣味はあきらかだった。クレイマーが出した一連のTZADIK盤で聴けた、難解さへ進む誘惑にかられてたことも。またTZADIKのカバー曲コンピに参加したときも、独特の幽玄な世界を披露した。せいぜい、ああいう程度だと思っていた。だがそれは、大きく裏切られた。
 しかしこんなハッピーなポップスを選んで、どぶ色にカバーは無いだろうよ。さっすが、クレイマー。

 テーマはユダヤ人作曲家によるブリル・ビルディング・ポップ。つまりビートルズ前、アメリカを席捲した名曲群が並ぶ。
 ゴフィン=キング、バカラック、バリー=グリーンウィッチ、バリー・マン、ポーマス=シューマン。リーバー=ストーラー。そしてフィル・スペクター。綺羅星ぞろいだ。
 それをここまで、ヒネってカバーするか。

 ちなみにシャングリラスって、クレイマーのセンスに似合うと思うが。選曲は無し。

 演奏は全てクレイマー。録音も、プロデュースも。数曲でちょっとゲストを迎えたのみ。(7)で競演のR. Stevie Mooreは知らなかったが、ナッシュヴィル出身で膨大な自主制作盤をリリースの変人ミュージシャンらしい。面白そうな人だな。
https://en.wikipedia.org/wiki/R._Stevie_Moore

 クレイマーは曲ごとに声を少しづつ変えながら歌う。夢見心地な世界観は、すっかりひしゃげて、別の薬で夢見心地みたいな不健康な香りを漂わす。ハッピーなアメリカン・ドリームは皆無だ。
 これはこれで面白いサイケ・ポップではある。あえてこれらをカバーする必要性は全くないが。

 選曲も凝ってると言えば、凝ってる。(10)を除き60年代のオールディーズ路線へ集中させた。以外とアルバムのキーワードはフィル・スペクターだ。
 オリジナル曲を見ると、(1)(4)(5)(10)が明確にスペクター。(9)はギターでスペクターが参加だそう。(7)も彼の影響がうわさされてるらしい。
 いずれにせよ(4)のベン・E・キングを媒介にドリフターズ(7)(9)を選曲とも取れる。
 なお(6)や(8)は日本だとあまり一般的ではないが、(6)は82年にBow Wow Wowのカバーもあり、アメリカでは馴染み深い曲なのかも。(8)はニール・ダイヤモンド以外、カバー曲は特になさそうだが。

 暴力的な歌詞がテーマなクリスタルズ"He Hit Me"で幕を開け、中間部にスペクターがらみのベン・E・キング"スパニッシュ・ハーレム"をはさむ。最後はロネッツ後期の名曲"パラダイス"で締めた。
 他の曲も有名曲ぞろいだが、本当に派手な曲は注意深く外した。ほんのりと黒人音楽の香りを漂わす並びだ。ただしアレンジにうっすらとカントリーな味わいも。

 沈鬱なムードが漂って、一筋縄ではいかない。一般リスナーには薦めがたい。クレイマーのファンならば、苦笑いしながら夢中で楽しめると思う。ひねり倒したポップ・ミュージックだ。

Track listing:
1 He Hit Me 3:42
2 Do Wah Diddy Diddy 3:34
3 Baby It's You 4:42
4 Spanish Harlem 4:22
5 I Love How You Love Me 4:32
6 I Want Candy 4:22
7 Save The Last Dance For Me 5:05
8 Cherry Cherry 4:20
9 On Broadway 4:40
10 Paradise 4:10

Personnel:
Kramer - vocals, instruments, musical arrangement, production, engineering

Jad Fair - vocals (9)
Mike Jones - piano (9)
R. Stevie Moore - drums (7), guitar (7), vocals (7)
Daniel C. Smith - vocals (10)

15/10/25投稿、18/1/14に大幅改稿

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