TZ 7318:John Zorn "Filmworks VIII 1997"(1998)

 映画音楽とソロ音楽の隔てが薄くなってきた一枚。すなわち作曲から即興の流れだ。

 本盤は2種類の映画音楽を収録した。前半がMasada Strings Trioへギターやピアノを足し、Min Xiaofen閔小芬(pipa:中国琵琶)の加わったアンサンブル。
 もう一本がパーカッション・デュオの幻想的な現代音楽だ。

 前者はJoan GrossmanとPaul Rosdy監督のドキュメンタリー"The Port of Last Resort:Zuflucht in Shanghai"向けの音楽。第二次大戦頃にナチ迫害から上海へ避難したユダヤ難民を描いた。

 映画のテーマから絶好の好機と、ジョン・ゾーンはMin Xiaofenを起用した。本録音の一年前に彼女の独奏を見て惚れ込んだゾーンは、直後にデレク・ベイリーと彼女のデュオを企画したとある。邦AVANの"Viper"(1998)が、それだ。
 
 Min Xiaofenを中国側の音楽象徴にしたゾーンは、さらにひとひねり。ユダヤ人側をマサダ・ストリングス・トリオに、マーク・リボー(g)とアンソニー・コールマン(p)を曲ごとに使い分けた。つまり"Bar Kokhba"(1996)のアプローチ。
 ゾーンはまさに本作で、普段の自らのプロジェクトをごく自然に映画音楽へ投入を始めた。録音は97年11月9日のみ、で手早く録音を完了。

 ライナーに寄れば作曲群も、普段の活動と滑らかにつながってる。
 "Shanghai"、"Or Ne'erav"、"Ruan"が描き下ろし。"Ruan"はギターやピアノのソロとアレンジを変え3曲を投入、本サントラのテーマな位置づけか。
 "Emunim"と"Ahavah"は別目的のリハーサル時のアイディアを膨らませたという。
 そして他の曲、"Teqiah"、"Ebionim"、"Ahavah"、"Livant"、"Shanim"がマサダの未発表レパートリーを投入。なおライナーは「残る4曲」とあるが、1曲余るため本項では5曲と解釈した。

 ちなみに"Emunim"と"Ahavah"の別目的、も興味深い。巻上公一がRichard Foremanの舞台"THE MIND KING"を演出・出演で日本上演の際に、ゾーンが音楽協力をしたのかな。ゾーンがハーモニウム、William Winantがパーカッション演奏が元だ、とライナーに記載あり。
 巻上のエッセイによると、ゾーンはフォアマンの劇団オントロジカル・ヒステリック・シアターで、照明の手伝いも過去にしてたという。マインド・キングへの言及も同じ文章で読める。

 本盤に戻ろう。"Shanghai"、"Shanim"、"Ruan"の1曲で彼女の琵琶をフィーチュアした。残響をうっすらかぶせたが、小刻みなピッキングで切なく軽やかに弦をはじく美しさが見事。ストリング・トリオとの異文化混淆もばっちりハマった。

 他の曲もテーマをまず演奏し、自由な旋律へ明確に入るアレンジがきれいに整った。たぶん、中間部はアドリブだと思う。あくまで楽想を踏まえており、完全なフリーでは無い。けれども譜面メロディのイメージから、ふっとアドリブに入るさまが、まさに映像没入へピッタリではないか。
 「映画を観終わった後、音楽が観客の耳に残ってたら音楽としては失敗だ」と言ったのは誰だっけ。おそらく映像見てて、音楽の冒頭は印象に残る。だがフェイドアウトするように、見ていて音楽は映像を飾る要素に溶けていく。
 そんな流れにテーマからアドリブへのジャズ的楽想は最適ではないか、とふと思った。たぶんゾーンは映像を全く見ずに、録音してるはずだが。

 しかも本盤収録の11曲は、どれも数分単位のきっちりした尺を持つ。すなわち音楽単独でも十二分に楽しめる強度がある。決して映像の添え物では無い。この二面性をも、ゾーンの音楽制作におけるしたたかさだ。

 Youtubeにこんな映像があった。映画の抜粋かな?


 本盤後半のサントラは、Ela Troyano監督のゲイ映画"Latin Boys Go To Hell"向け。
 ほんのりトロピカルで優雅、打楽器の名手のデュオだ。上の音源に先立ち、1997年7月22日に録音された。TZADIKでは馴染の手練れ二人。デュオ演奏は、確かにカップルの交歓に合いそう。特に奇妙なスリリングも感じさせるし。

 ただしゾーンは複雑な思いらしい。ライナー読んでて面白い。
 まず映像を見たゾーンは、20年来の友人の監督エラへ、マーク・リボーのラテン音楽プロジェクトMarc Ribot Y Los Cubanos Postizosを提案した。しかしゾーンへの依頼する監督の意向は変わらず。一週間後にゾーンは打楽器デュオのアイディアを監督へ提案したが、監督はマーク・リボーの起用ってアイディアだけをすっかり気に入っていた。意見が合わず、いったんゾーンは本プロジェクトを放り出したとライナーで語る。
 
 一ヶ月後にプロジェクトが頓挫のままを確認したゾーンは、録音へ一切口出ししない条件で本音源を収録した。ところが監督はさらに発想を変え、最終的に映画へほとんど本音源は使われずじまいだったらしい。

 収録へのあれやこれやは全く横に置き、純粋に音楽を聴けばチャーミングさが伝わる。パーカッション・デュオと言いつつ、いわゆる旋律無しのリズム奔流では無い。エキゾティックなメロディの要素はふんだんにあり。"Triacion"が顕著だ。
 ジャストなテンポの硬質なストイックさと、優雅にリズムを揺らす華やかな魅力。異なる要素が、ごく自然に溶け合った傑作だ。楽曲は、とても素晴らしい。

Personnel:

"The Port Of Last Resort "
Mark Feldman – violin
Marc Ribot – guitars
Erik Friedlander – cello
Min Xiao-Fen – pipa
Greg Cohen – bass
Anthony Coleman – piano

"Latin Boys Go To Hell"
Cyro Baptista – percussion
Kenny Wollesen – drums, vibraphone, percussion

関連記事

コメント

非公開コメント