"Neaness of you"(1993) 明田川荘之

 明田川荘之はピアノ・ソロ、である。ずぶずぶ深い魅力あり。

 明田川の真髄はピアノ・ソロだと思う。ロマンティックで奔放。豪放磊落にして繊細。しっとりしたピアノは耳へ滑らかに流れ込む。派手に鍵盤を叩く明田川も良いが、ぼくは本盤で聴けるようなバラードがしみじみ沁みる。

 本盤は月に一回、アケタの店でやってる深夜ライブの音源。1~5まで全てひとつながりの演奏とある。オリジナルを一切入れず、カバーでアルバム一枚分弾き切るのは意外と珍しい気がした。それとも当時の深夜ライブでは、良くある構成だったのか。

 超有名曲を並べながら、味わいは明田川流。どっぷりセンチメンタルで、ときおりエキゾティック。フレーズを重ねながら、じわっと世界を展開していく。もっともこの盤では、さほどリフレイン連発の印象は無い。どんどんとメロディが変化して、めくるめく音楽の世界を広げた。

 曲の途中でいきなり始まった(1)。この盤を聴くたび、マイルスの"On the Corner"冒頭を連想する。なんだなんだと思わせて音世界に入るところが。もっとも本盤はあっというまに、音像へ浸ってるのだが。

 (2)のイントロ終盤で聴ける、ざらりとピアノ線を撫ぜる内部奏法、(3)でのオカリーナの息遣い。ライブの生々しい雰囲気が伝わってくる。拍手の音からして、たぶん観客は数人だと思う。
 
 明田川は弾きながら、強烈に唸る。メロディを口でなぞるのとも違う。タンブーラのように通奏低音狙いか。あくまで興の趣くままに自然な発声と思うが、ときに息切れしながら無理やり唸ってる。こうなると意地か。

 確かに最初、唸りを聴いたらびっくりだろう。滑らかで美しいピアノに、野太くしゃがれた唸りは似合わない、と感じるかもしれない。だが、聴き続けて欲しい。いつしか唸りを心待ちにするはずだ。唸りが出ないと、「なんか調子悪いのかな」と心配になるはずだ。
 そして唸りが出たら、安心して音楽へ没入してしまう。気が付いたら明田川が唸ってるかどうか、記憶にない。そんなものだ。良い音楽を聴いてるときは、自然に耳がさまざまなフィルターを掛けてしまう。

 試しに本盤を最後まで聴いて見るといい。何曲目で、どの部分で明田川が唸ってたか覚えてるだろうか。そんな分析に何の意味があるだろうか。たぶん、唸ってる箇所はきれいに記憶になく、音楽の気持ち良さのみ印象に残ってるはずだ。

 本盤は隅々まで美しい。テンションを落さずに、滑らかなメロディで空気を柔らかく縫っていく。
(5)の前半で、ちょっと緊張が増すかな。左手の強力さを匂わせ、タンバリンを振る。歪んだ音はピアノの中へタンバリンを放り入れ、プリペアード・ピアノ風に弾いてるんだろう。
 クラスター気味に鍵盤を激しく打つ。アケタ節がふんだんに溢れるフリーなイントロだ。そしてブルージーに回復してテーマへ向かった。朗々と、雄大に。

 ぼくが過去に聴いた深夜ライブでは、終盤は必ずと言っていいほどクラスターが炸裂する。時を無理やり切り落とすかのように。しかし本盤は静かに幕を下ろす。もしかしたらこの続きが、更にあったのかもしれない。

 もし一通りの深夜ライブの雰囲気を味わいたければ、"Mr.板谷の思い出"(1999)を聴くといい。それよりなにより、ライブへ実際に足を運べばいいのだが。
 
<収録曲>
1.Over The Rainbow
2.My Favorite Things
3.All Of Me
4.Nearness Of You
5.Sunayama

Personnel;
明田川荘之(p,ocarina,うなり)

録音:93年2月13日 アケタの店Live

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