"わっぺ"(1992) 明田川荘之

 明田川荘之の貴重なスタジオ録音である。このあと現在まで、一枚もスタジオ盤は無い。


 ライブ盤ではありえない音像が、そこかしこに聴こえる。だからこそ、の細かな点が聴き取れる興味深い盤だ。

 リアルタイムな日本のジャズをリリースしてた、オーマガトキから発売。
 明田川はそもそもスタジオ録音はごく初期のみ。あとは全てライブ盤を発売してきた。スタジオ録音の経費削減も理由の一つだろうが、ライブならではのダイナミズムを重視のため。自らの店であるアケタの店で昼間に収録、でもない。あくまで観客を入れたライブ録音だ。ジャズの一過性と瞬発力をライブに有り、と評価か。

 そんな明田川が、スタジオ録音した貴重な一枚。解説に油井正一を起用した。いろんな意味でポイントを外さない。なお録音は1991年10月5日、一日で一気に終わらせた。
 どの曲もあまり長く引っ張らず、CD一枚に8曲を詰め込んだ。
 数年前に発表したばかりの"エアジン・ラプソディー"をさっそく再演する、無造作な選曲も興味深い。さらに(1)は3度目の音盤化だそう。最初は極初期の盤"This Here`Is Aketa Vol. 2"(1975)、もう一枚はデータから見つからない。

 録音の編成はオーケストラ。プロデューサーの村上寛(現、国立ノートランクスのオーナー)の趣味か。パーカッションの入った編成が珍しい。5管でギター含むピアノ・カルテットの大所帯だ。
 もっともソロ回しは各曲ごとで絞っており、冗長性は皆無だ。

 (1)はアグレッシブな黒いピアノからテーマへ。いきなり切りこむ、ギターのさりげないフレーズの凄みが、たまらなくかっこいい。軋むざらついたテナーのかけ上がりから、熱っぽいピアノへ。うっすらと明田川の唸り声も収録した。
 さすがのスタジオ録音か、フラットに各楽器が収録されている。アケタの店でライブ録音の時でも、各楽器にマイクを立て分離の良い音像を創ってる。けれどもそこはライブ盤、場の空気というか箱鳴りも感じさせる。

 だがスタジオ録音の本盤は、むしろ場の要素が低い。純粋培養され、中空からマイクを当ててるような涼やかな空気感だ。
 そのため、ひときわ明田川の猛烈なピアノ・クラスターも鮮やかに響く。抑えきれない溢れだすパワーを、冷静に観察してる感じ。なおこの曲、フェイドアウトで強引に終わってしまう。

 (2)はのちのライブで演奏され続ける、代表曲の一つ。明田川の真髄である、"日本のジャズ"を見事に凝縮した名曲。イントロはこれまた情緒あふれるオリジナルの"いかるが桜"。ここでも加藤崇之のギターがシャープに鳴る。
 "いかるが桜"はライブの盛り上がりが、"日本固有ジャズ"ならではの味を出す。それは別盤で聴けるため、後に回そう。

 (2)の"いかるが桜"の終盤で和歌を詠むのは明田川、だと思う。バックの演奏が一気にフェイドアウトし、声をぐっと抽出したスタジオ加工は、むしろあざといが・・・このあとの無数の盤で一切聴けない演出なだけに、希少性が先に立つ。
 "わっぺ"ではエレキギターの滑らかで捻った、すごいスピード感のソロが炸裂した。加藤の天才的なアドリブだ。
 コーダのドラマティックなホーン・アレンジも爽快。

 ロリンズの(3)をオカリーナで演奏する、明田川ならではの独自性が聴ける。この曲も気に入っいるようで、ライブで頻繁に取り上げてきた。ピアノ・トリオに金物パーカッションを加えた、ほんのりラテン風味。他の楽曲と当然ながらレベル感に違いは無い。
 実際のライブだと、オカリーナは音量的に少々小さめ。だが、スタジオ盤ゆえに音圧が変化ない。こういう現実ステージではありえぬ音像に、スタジオ盤ならではのリアリティを感じてしまう。

 まさに代表曲、(4)の分厚さも良い。アケタの店にこの音盤収録の人数でステージ上がるのは、難しかろう。これもライブで聴けない音像、かもしれない。コンサート・ホールなら可能だろうけど。
 板谷博のトロンボーン・ソロが温かく豪快に響く。ホーン隊とのバック・リフは、奇妙にきれいだ。ダビングじゃなく、リアルタイム録音と思うが。続く右チャンネルのテナー・ソロもロマンティック。榎本と福島、どちらのソロだろう。
 最後は明田川のピアノ・ソロ。カッティングでギターがシャープに刻む。リズム隊やホーン隊のうねりが、まるでダビングのようにきれいに上下するとこが、いっそ幻想的なほど。これもフェイド・アウトで終わるのが惜しい。

 (5)は梅津和時に捧げた曲で、明田川のコミカルな要素が出た一曲。明田川の歌も入ってる。
 トランペットからテナーにつながるソロ回しの清々しさな一方で、奇妙な浮遊っぷりが不思議な味わいだ。ランニングするベースが軸に進むけれど、和音の響きや譜割が、どっか危なっかしいアンサンブルのノリ。ホーン隊のアレンジはきっちりされており、ビッグバンド風味も漂う。
 ラストはピアノの小気味よいソロで締めた。

 猛烈な緊張感が良い(6)も名曲。これはホーン編成のアレンジが素晴らしい。ピアノ・ソロでは出せない厚みとスリルを演出した。
 林が冒頭からひねりまくったソロを吹く。拍頭をあいまいに混沌なグルーヴを爆走させるバックと併せ、抜群のクールな雰囲気を漂わせた。ごっちゃりと音数の多い、ハードボイルド。日本情緒は敢えて消した。NYのジャズメンに聴かせたいサウンドだ。
 中盤のエレキギターをカウンターの、トランペット・ソロもすごい。
 しかしピアノ・ソロへの繋ぎ方やホーン隊のバック・リフに、ダビングっぽい硬質さを感じてしまう。なぜだろ。

 前曲との温度差が凄いな・・・。日本情緒を見事に活写した(7)。これも明田川歩とのセッションでは、歌詞付きバージョン有り。未CD化だから、ライブで聴こう。
 ピアノ・ソロが鮮やかに響く。さりげなくギターが、ここでも涼しげに鳴った。温かく低音を支えるベースに、歯切れ良いがどこかタメるドラムと相まって、奥深いグルーヴを出した。
 明田川の唸り声やパーカッションのバランスも、上手いこと溶け込ませた。ベルは明田川の良く鳴らす音だが、ここではピアノ弾きながらに聴こえない。木村の演奏かな?
 バック・リフでホーン隊は出るものの、演奏はピアノを徹底的にフィーチュアした。

 最後の(8)はアフターアワーズ、とライナーにあり。アンコール的に肩の力抜き、ディキシーを聴かせたってとこか。オカリーナの涼やかなメロディが、ギターを含むリズム隊に乗って、軽やかに鳴った。
 伸びやかなトロンボーン・ソロが彩りを添え、豪華なホーン隊の饗宴が続く。フェイドアウトが、やはり無念。

 改めて聴きかえすと、実に盛りだくさんで様々な要素を詰め込んだアルバムだな、と実感した。物足りなくもあり、コンパクトにあれこれ味わえるとも言える。ある種、明田川は素材な点もあり、プロデューサーの嗜好が出たようにも感じる。
 決して悪くは無いし、入門盤に向いてもいる。しかし真っ先にこれを聴いたら、明田川の魅力を誤解しそうな気も。うーん。難しい盤だ。

<収録曲>
1.Strange Melo
2.いかるが桜~わっぺ
3.St. Thomas
4.Airegin Rhapsody
5.I Like Ume-San
6.Urgency
7.オーヨー百沢
8.On The Sunny Side Of The Street

Personnel:
明田川荘之(p,オカリーナ)
吉田哲治(tp),板谷博(tb),林栄一(as),榎本秀一(ts),福島裕介(ts),加藤崇之(g),山元恭介(b).楠本卓司(ds),木村勝利(per)

録音:
1991年10月5日、東京 キーストン・スタジオ

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