"エアジン・ラプソデー"(1988)明田川荘之&アケタ西荻センチメンタル・フィルハーモニー・オーケストラ

 明田川荘之は、オーケストラである。奔放だがコントロールされている。
 そしてアケタ盤は、思い切り音量を上げて聴きたい。


 1975年にレコード・デビューした明田川は、10枚ほどのアルバムをLPでリリースした。それらは全て未CD化で、LP環境を整えて中古盤を漁らないと聴くことができない。
 今、CDメディアで遡れるのが、本盤からだ。全72分、たぶんCDのみのリリース。当時の収録時間ぎりぎりまで詰め込んだ、全5曲入り。87年11月に逝去した国安良夫(ts)追悼の形を取った。

 収録は87年12月30日、アケタの店にて。今も続くハウス・エンジニア島田正明によるPCM・デジタル録音。時代を考えると意外だ。デジタル録音って普及してたっけ?Wikiでは8ミリビデオで85年、DATが87年(つまり、本盤録音と同年)とある。発売直後から導入か。
 
 収録曲はおそらく、すべてが初音盤化。オーケストラ編成での録音も本盤が初と思われる。CD以降で全てを心機一転、先駆性と独自性に拘る頑固なアケタ流の象徴な盤だ。
 本盤は「自分の店で録音」「ライブ音源」「捧げる、スタンス」「録音ピーク・レベル」など様々な論じる切り口あり。それらはいずれ、他の盤の感想で触れていきたい。

 12月末の録音な点から、年末恒例のオーケストラ・編成ライブと思われる。そのテーマに国安の追悼を上げたようだ。
 当時のスケジュールは知らないが、現在は明田川のオーケストラは年末が定番。あとは開店何十周年、みたいな記念コンサートでのみ聴ける、貴重な編成となっている。
 メンバーはアケタの店では定番な顔ぶれで、榎本、吉野、楠本は今も明田川オケの常連だ。ライナーに寄れば国安も明田川オケでは、当時にセカンド・リーダー的な立場だったという。今の榎本の立場か。

 正直、オーケストラ編成だともどかしい。明田川のピアノをいっぱい聴けないから。
 そして、もう一つの意味で。

 このオーケストラ編成はフロントの管が数人(本盤では4人)、楽器をかぶらせず木管/金管万遍なくを意識してるようだ。それにピアノ・トリオ編成の拡大コンボ。アレンジはテーマから各人のソロへ行くオーソドックスな展開で、あまりカウンター・メロディやフリーな混沌は無い。アケタ流用語の"インテンポ"な流れだ。
 編成多いソロ回しを毎曲で全員に回したら、冗長になりがち。よって各人のソロ時間を長くする一方で、曲ごとにソロを取る人は絞ってる。

 従って、「あの曲で誰々のソロを聴きたい」ってもどかしさが、聴きながら滲み出てくる。全員回しは飽きるのわかってるのに。過剰なようで足るを知る。このへんのバランス感覚も、さりげない魅力だ。

 本盤では不明だが近年にライブ行ったときは、セットリストへソロ順も記入あり、構成はあらかじめ決まっていた。このあたり、奔放にみせてキッチリしたアケタ流だ。音楽では限りなく自由だが、構成や構造は破綻を極力避けている。

 選曲も絶妙だ。国安のオリジナル(1)で20分以上の長尺。明田川の多様なオリジナルを3曲並べ、最後はダウランドの(5)で締めた。
 明田川の代表曲ともいえる名曲、アルバム・タイトル曲(4)はこの後もアルバムでたびたび取り上げられる。ライブで頻繁に聴ける(2)が、本盤以降は"AkETA MEETS Dairo orchestra-Blue-"(2010)まで音盤化無しと、改めて知って意外だった。

 本盤では明田川のセンチメンタリズムと、各人のソロが絶妙に響く。前述のように曲ごとに見せ場のあるアレンジでは無いせいか、明田川オケでのソロは力がこもった熱演が噴き出す。

 明田川の音盤は、あまりレベルのピークを突っ込まない。中域のふくよかさが狙いか。ぱっと聴きはおとなしく聴こえてしまう。他のCDに比べて、明らかに録音の音量レベルを下げているためだ。
 だから、明田川の盤は思い切りボリュームを上げて聴きたい。瑞々しい空気感が伝わってくる。

 明田川のオーケストラ・アレンジは何度聴いても、コンセプトが良くわからない。原曲のボイシングを素直にラッパに振り分け、丁寧に吹いている。たまに崩しは有るが、おっとりとしたもの。明田川が指揮でもない。ソロの何コーラス数を大まかに決め、あとはアドリブの盛り上がりに任せている。
 つまりコンボ・セッションの拡大版だ。けれども自由度を敢えて絞ることで破綻は無い。融通無碍な渋さ知らズ、逆に奏者へ任せる渋谷毅オケともアプローチが異なる。

 自由だが無法ではない。構成は作るが支配はしない。
 アケタの店を仕切り、アケタズ・ディスクを主宰し、アケタ・オカリーナの社長。自分の表現のためにすべてを作り上げた。一国一城の主である貫禄か。

 最後の(5)のアレンジが素晴らしい。わずか2分程度の小品だ。
 オカリーナとトランペットでゆったりとテーマを紡ぎ、やがてホーンが加わる。ほんのりとマーチ風。国安の旅路を力強く称えるかのように。
 ひとわたりメロディーを奏でたところで、アドリブに雪崩れず幕を下ろす。
 潔くもすがすがしい、素敵な演奏だ。

【収録曲】
1.西都
2.アケタズ・グロテスク
3.餃子ブルーズ
4.Airegin Rhapsody
5.今こそ別れ(Now,O Nom I Need Must Part)

Personnel:
明田川荘之(p,ocarina)、吉田哲治(tp)、板谷博(tb)、池田篤(as)、榎本秀一(ts)、吉野弘志(b)、楠本卓司(ds)
 
録音:85年1月13日 アケタの店Live


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