TZ 7629:Ikue Mori "Class Insecta" (2009)

 リズムとビートの混合な電子音楽の大傑作。

 単独/共演の双方で何作も発表しているIkue Moriが2009年に発表した本作は、リズムへとことんこだわった一枚。抽象的なのに奇妙なポップさが漂い。リズミカルだが前衛性を失わない。稀有な視野が見事に昇華された傑作だ。

 本作はイクエ・モリの単独録音で、PCサンプリングを中心のサウンド。生っぽいビートも所々有り、もしかしたら生演奏のダビングが有るのかも。
 リズムのループ、もしくは明確なビートを根底に置きつつ、ランダムもしくは規則性の無いパーカッションを足していく。それが無闇なインプロ志向や、セッションめいた生々しさが無い。無機質で、冷静なスタイルが素晴らしい。

 ともすれば打楽器サンプリングの無造作な遊びで終わりそうなアイディアが、本作では冷徹かつ絶妙なバランス感覚で、奇妙な酩酊感を誘うリズムが一杯だ。
 (9)の一部など、多少オリエンタリズムの色が漂う楽曲もあるけれど、ほとんどの曲に文化もしくは意味性を持たせることは無い。
 けれども前衛テクノや音響派みたいな、音色やコンセプト志向の拘りや頭でっかちさや、もしくはアカデミックな堅苦しさが皆無だ。

 あくまで音を楽しむ涼やかな軽みを漂わせつつ、それでいて独特の飄々としたスピード感が滲む。
 基本的なBPMは、アルバムを通してもほとんど変わらない。脈動のように一定したビートを提起しつつ、アルバムを通して退屈や単調さが皆無だ。
 
 リズミカルなループを軸に聴いたらダンサブルな電子音楽で、味わいとしてパーカッシブな音色が載る。
 上物・・・と言っていいだろう、ランダムな鳴り物を主軸にループを味わいと取ったら、ポリリズミックな妙味と譜割やパターンの実験性が、清々しくもかっこいい。

 複数の味わいや聴き方をいともたやすく受け入れる懐の深さと、安易な分析や解釈を許さぬ複雑さ。さらに聴き手を拒まぬ間口の広さ。まさに自由自在。

 率直な所、ジョン・ゾーンの各種作品でイクエの参加を聴いてても、彼女の存在や立ち位置は分かりにくい。居なくてもいいような場合もある(ような感じでもそれは浅はかであり、じっくり聴いたら希少性と重要さがわかるのだが)。
 しかし本作を聴けばイクエ・モリの印象は大きく変わるはず。彼女の入門編として最適であり、とびきりの傑作だ。

Personel:
Electronics - Ikue Mori

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