TZ 7339:John Zorn "Filmworks XI: Secret Lives" (2002)

 美しくも悲しい弦アンサンブルが聴ける。

 ジョン・ゾーンの映画音楽集、第11弾の本盤は傑作だ。

 Aviva Slesin監督"Secret Lives"の音楽はマサダ・ストリングス・トリオの音楽が施された。ゾーン曰く「ずっと作曲され、時にダビングもある」音楽であり、クリエイティブなトリオよりもむしろ、ジョン・ゾーン作品を演奏する奏者、の立ち位置だが。

 第二次大戦中に非ユダヤ人のコミュニティで、ナチから隠されて育ったユダヤ人の子供たちを描いたドキュメンタリー映画。ゾーンに寄ればMasadaのレパートリー、4曲("Hatzalah","Ba'adinot","Kavana","Motzee")も本盤に挿入された。

 監督らはもともとピアノ演奏をイメージし撮影という。ところがゾーンはストリングスが似合うと提案した。監督らも合意し、当初の予定外な箇所まで彼の音楽を絵につけたとある。
  
 ゾーンは本盤で作曲家としての我は最大限通したが、ストリングス・トリオに拘泥する愚は侵さなかった。あくまで音楽が主、形式は従だ。2曲で聴ける涼やかなヴァネッサ・サフトの滑らかな歌は、どこまでも美しい。ジェイミー・サフトは1曲でピアノを弾いた。そしてストリングス・トリオは時にダビングを行っている。
 ・・・すべては美しく儚い音楽を作るために。

 ミニマルなほどのピチカート、力強いアルコ。ここでの旋律はどこまでもセンチメンタルだが、凛と張りつめた空気を常に保っている。アドリブっぽい場面もある程度は譜面かもしれない。

 音楽はいわゆるメロディだけでなく、ピチカートの連発など前衛的な手法がそこかしこに現れた。あくまで断片や小品の映画音楽である。しかし本盤単独で聴いて、物足りなさは皆無だ。欧州がテーマと思うが、いたずらにユダヤ音楽や欧州クラシックに留まらない。(14)が象徴のように、アメリカンなジャズの要素も取り入れた。

 マサダ・ストリングス・トリオの持つ高い演奏テクニックは、本盤で十二分に発揮された。全てが破綻無く、滑らかだ。それでいて、音が瑞々しい。譜面を弾いただけ、のお仕事的なそっけなさが皆無。

 全てがプロの仕事。隙はどこにもなく、聴き手が思いを寄せるスペースは存分にある。悲しげでロマンティックな音楽には、希望がある。張りつめてゆとりは無くとも、決して下を向かない。

Personnel:
Greg Cohen: Bass
Mark Feldman: Violin
Erik Friedlander: Cello

Jamie Saft: Piano
Vanessa Saft: Voice

決して娯楽映画では無いみたい。でも、この美しい音楽に負けない映画だろうなあ。
  

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