TZ 7265:灰野敬二/吉田達也"Uhrfasudhasdd"(2008)

 禁断の製作手法な盤。

 灰野敬二と吉田達也の共演で、色々な意味で変則的な盤だ。灰野と吉田の演奏をPCに取り込み、吉田がズタズタに編集/再構成を施した。セッションをブロックごとに切り貼りでは無く、マルチで個々の演奏を楽器やフレーズ単位で加工した。すなわち一曲の中に複数の灰野や吉田がいて、まったく別の楽器や演奏が重なってる。
 いわば即興のオーバーダビング。しかしサンプリング・ループ的な編集のため、無秩序な混沌では無く、奇妙に整然としたプログレ風の楽曲に仕上がった。

 そもそも灰野とサンプリング・ループって考えが馴染まない。ソロのライブで灰野は即興的にフレーズをループさせ、音を重ねる手法は取っている。だがそれはドローンやミニマル手法の一環であり、決して再構成では無い。
 ましてベテランの域に達し、独自世界を積み重ねた灰野の演奏をズタズタに切り刻む製作手法は、過去に存在しなかった。灰野への畏敬の念も含め、敢えて手を出す人がいなかった、と言っても良い。

 このトリッキーな手法を行えたのも、吉田ならでは。二人の音楽的な信頼関係の表れと言える。さらに本手法が本盤以降に存在しないのも、あくまで実験のあらわれとも言える。懲りたのか、飽きたのか、その辺は良くわからないが。

 灰野/吉田デュオでの共演としては"水が炎を掴むまで"(2002)、TZADIKからの"New Rap"(2006)以来となる。吉田の参加もしくはリーダー・バンド、ムジカ・トランソニックやルインズとの共演や、灰野と吉田にベーシストが加わったバンドKneadやサンヘドリンでの盤を加えたら、もう少し多くなる。
 つまりいがいと灰野と吉田の愛称は良い。二人とも即興巧者であり、開かれたスタンスの音楽を奏でているためだ。

 そして本盤の位置づけも、ちょっとややこしい。まず"Hauenfiomiume"(2008)が吉田のレーベル、磨崖仏からリリース。そして本盤"Uhrfasudhasdd"の発売に至った。だから"Uhrfasudhasdd"が4thデュオ、とも言い難い。どちらも同じセッション/製作手法を取った姉妹版だから。
 これら2枚の共通曲はTZADIK版での(10)、(7)、(16)。1秒単位で曲長が異なるのはマスタリングの都合みたい。微妙に曲名の語尾が違うが、意図があるのか細かく聴くと曲が異なるのかは不明だ。聴き比べた限りでは、この3曲は同じと感じた。

 敢えて曲をかぶらせた理由も不明だ。セッションの曲が足りなかったとは思えないし。一曲もかぶらせずに二枚のアルバムを作り上げたってよかった。
 吉田視点、灰野視点でそれぞれ編集やミックスを施したアプローチってわけでもなさそう。双方とも編集やミックスの主導権は吉田が持っているクレジットだ。
 なおジャケットは2枚とも灰野の手によるイラストだ。

 実際の楽曲群も、2枚でガラリ色彩を変えてるわけでもない。轟音エレクトリックのみならず、アコースティックな色合いも多分に取り入れた。
 もっと2枚の盤を聴きこんでいったら、感想が変わるかな。

 肝心の楽曲は、違和感あって興味深い。灰野の長いフレーズが千切れ、ミニマルにループする。居心地の悪いリフめいた繰り返しに、新たな別の楽器や声が被さっていく。
 むやみにリズム楽器を載せず、灰野の演奏のみで楽曲を仕立てた作品もあり、灰野の音楽だけでなく、音源そのものを吉田が再構築した感がある。
 つまり単純な共演では無く、録音から編集、ミックスへと三段階に時間軸をずらしながら、吉田は灰野の音源と向かい合った。

 クレジットに寄れば、吉田は鍵盤とベースにドラムにボーカルを演奏。灰野はギターやフルート、ボーカルなどを演奏した。
 録音風景が想像できない。前述のとおりセッションをそのまま編集ではなく、灰野のソロ演奏をマルチで録音し、再構成後に吉田が鍵盤やリズムをダビングしたような曲と、デュオのセッションを再加工したような曲が混在してる。

 まどろこしい書き方をしているが、楽曲群は新鮮で面白い。リズミックな変拍子のフレーズがクキクキと流れる一方で、不定型な灰野のフレーズが多数ダビングされ美しく浮遊する曲もある。

 灰野と言う独自性の塊は、どんなに加工されても魅力が変質しないと実感した。
 そして大胆に時間軸を変化させた吉田の、編集による作曲センスにも唸った一枚。
 音楽の価値観を、改めて味わえる傑作。ライブでは不可能な、スタジオ加工の妙味を封じ込めた。本コンセプトの二枚は甲乙つけがたい。双方をぜひ、聴いて欲しい。

Personnel:
灰野敬二:Electric Guitar, Guitar [Classic], Flute, Lute [Soprano], Vocals,Illustration
吉田達也:Drums, Keyboards, Bass, Vocals, Recorded, Edited, Mixed


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