TZ 7325:John Zorn "Taboo & Exile"(1999)

 無垢で残酷な美しい世界を、緻密に描いた。

 そして後年の同種の作品に比べたら、ずいぶんと無邪気で無造作だな、とも思う。ジャズよりプログレ・ファンに聴いて欲しい。
 "Music for Children"(1998)に続く、"ミュージック・ロマンス"三部作の第二弾。
 
 問題作、だった。当時の僕にとって。
 ジョン・ゾーンへ僕の印象は、フラジオを派手に響かせるサックス奏者であり、スラッシュとジャズを混ぜたスピード感と日本文化へ奇妙に馴染みつつも、村社会の価値観をかき回す異物、だった。
 つまりは前衛まっしぐら。だからこそ、本盤で最初の曲が産むエキゾティックで穏やかな世界に戸惑った。なぜこんな、聴きやすいのだろう・・・と。
 そして聴き進むにつれて、こんなタルッとした安寧さが盤のそこかしこから漂うのだろう、と。

 どんなにアレンジが激しくとも、本盤には不安定さが皆無だ。フリーな即興すらも呑み込んで、ここではゾーンの美意識と価値観が充満している。ミュージシャンは個性を出しつつも、ゾーンの音楽を構築する役割を果たしている。
 もちろん当時、ここまで明確に整理は出来なかった。本稿を書きながら当時の違和感を思い出して、ようやく何となく言語化できた。
 
 いまなら、この盤を咀嚼できる。これも、ジョン・ゾーンだと。尖がってパンキッシュなイメージのゾーンだが、実はある種の中産階級に甘んじた破綻せぬ世界観を守る人格が、確かに存在する。ゾーンはどんなに激しいことをしても、破滅的な恐ろしさは無い。どこまでも知性と冷静さがある。だからぼくは、ゾーンに惹かれるのかもしれない。安全地帯を保ちつつ、激しく価値観を揺さぶるスリルを味わえる平和さを求めて。

 ゾーンは音楽の固定観念や枠組みは激しく揺さぶる。だが滅茶苦茶に放り出さず、ルールを決めてその中で最大限、遊ぶ。一連のゲーム・ピースが最たるものだ。ルールを守らねば、単なるフリーだ。ゾーンはそれを良しとせず、即興を枠内に敢えて押し込めることで、即興そのものを操ろうとした。

 さらにゾーンは作曲家だ。全てを譜面化し、小宇宙を創ろうとした。世界の守りを固め、おっとりと音楽を楽しむ方向性。その初期の盤が、これだ。僕は"Music for Children"をリアルタイムで聴かなかったため、本盤の方に異様な違和感と異物感をおぼえた。
 そして恐る恐る、この盤を繰り返し聴いていた。

 本盤の特徴は、多彩なアンサンブルを駆使した小品集。恐ろしく統一感の無い、さまざまな楽曲が詰まった。後年はアイディアごとにアルバムを一枚まとめるが、本盤はオムニバスのように小宇宙をいくつも封じ込めた。
 各種のサントラで聴けた小編成アンサンブルの拡大だ。馴染のミュージシャンを入れ代わり立ち代わりアサインし、端正な演奏をまとめる。Masadaや(むしろBar Kokhbaか?)みたいなユダヤのアイデンティティは強調しない。むしろ小市民的な落ち着きすらある。

 作品の流れで言うと、初期ネイキッド・シティのコントロールされた世界観や、"The Big Gundown" (1985)に通じる、曲を主として、アドリブやソロを従にしたアプローチ。すなわち整った世界を志向した。鋭く跳躍し続ける前衛音楽とバランスを取るかのように、ソファに座って寛いだ夜を過ごす。そんな世界に似合う。
 グロテスクなテーマも、ゾーンにとっては好奇心や知性が先に立つ。決して破壊や偏執した病的さは無い。けれども中産社会の秩序や倫理観を揺さぶり、価値観を擾乱して新たな準拠枠を狙う。そんなパワフルさは、ある。

 本盤でゾーンは演奏をしつつも、演奏がメインでは無い。あくまで作曲家の立ち位置。これは隅々までコントロールする、膨大な作曲やユニット・プロジェクトの始まりとなる盤だ。
 メンバーは曲ごとに違う。同じアレンジや楽想もない。ごった煮で複雑、決して一元化できぬ世界の様相を、ジョン・ゾーンは音楽で端整に描いた。
 着地の瞬間を探るかのように、多層世界を浮遊する不安定さが本盤の根底にある。

Personnel:
Bass – Bill Laswell (tracks: 2, 7, 10), Greg Cohen (tracks: 1, 3, 6, 8, 9)
Cello – Erik Friedlander (tracks: 1, 3, 6, 8, 11)
Drums – Dave Lombardo (tracks: 2, 7, 10)
Guitar – Fred Frith (tracks: 2, 7, 10), Marc Ribot (tracks: 2, 7, 9)
Organ – Jamie Saft (tracks: 1, 9, 11)
Percussion – Cyro Baptista (tracks: 1, 4, 6, 11,12)
Violin – Mark Feldman (tracks: 1, 3, 6, 8)


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