TZ 7122:John Zorn "The Circle Maker"(1998)

 Masada楽曲の端正なアンサンブルを味わえる良盤だ。


 第一期Masadaのサブ・プロジェクト第二弾で"Bar Kokhba"(1996)に続く、小編成アンサンブルでの楽曲集だ。"Bar Kokhba"よりコンセプトをくっきりさせた。
 "Bar Kokhba"は多様なアンサンブル編成を見せることで、Masadaの楽曲がもつ室内楽の美学を追求した。一方で本盤はMasadaとの対比を明確にした。

 Masadaは主旋律を二管で即興演奏し、リズム隊とフロントの二項対比やフロント間での区別がダイナミズムに繋がる。
 だが本盤は弦楽三重奏でメロディと伴奏の役割分担をあいまいにし、後半のコンボ編成でスリリングなアンサンブル全体の整いっぷりと、ラウンジ風の穏やかな風景を描いた。
 Masadaは疾走する二本の蛇みたいなフロントと、荒ぶるリズム隊の持つ重戦車のごときパワフルさ。しかし本盤の二種類のバンドは、端整なムードでエキゾティックさを強調する。いわばジャズ寄りのMasadaに対し、本盤ではユダヤ旋律の美しさを表現に集中した。
 "Bar Kokhba"や本盤で、ジョン・ゾーンは一皮むけた大人しさを前面に出す。ノイジーでフリーキーで突拍子もない若者っぷりから、より洗練された知性をあらわにし始めた。

 採用曲でのMasada正典10作との選曲ぶりも見ておこう。
 "Issachar"と"Zevulun"のサブタイトルがついた2枚組で、前者が97年12月6日、後者が7日のそれぞれ一日で録音された。編成は前者が弦楽三重奏のMasada String Trio、後者がその3人にギターとドラムにパーカッションが加わったthe Bar Kokhba Sextet。
 ジョン・ゾーンのアレンジが冴えわたる、エキゾティックで端整なインスト集となった。

 本盤発売時点での初演曲は数多い。羅列すると15曲もある。曲名は"Aravot","Eitan","Hodaah","Karet","Khebar","Kisofim","Kochot","Lilin","Malkhut","Moshav","Ner Tamid","Shidim","Sippur","Teli","Tevel"。
 さらに加えて5曲、"Mispar","Ratzah","Shidim","Taharah","Yatzah"は本盤のみでしか聴けない。
 なお本盤双方で取り上げたレパートリーに"Idalah-Abal"もあり。異なるアレンジで楽曲が変化するさまを味わせる妙味も、ゾーンは忘れない。
 つまり全29曲、ダブり1曲を引いて28曲。うち20曲が新曲だった。
 本盤はMasadaを補完するユニットとして、意識的に新曲を投入が伺える。

 ジョン・ゾーン(当時の)が持つ「喧しくてメチャクチャでスピード狂」のパブリック・イメージは、本盤で完全に払底された。このあとはむしろ、現代音楽の分野で作曲するときに、パブリック・イメージは投影されていく。
 一方で小編成アンサンブルでは「心地よいBGMに似合う寛ぎ」を、本盤以降で次々にゾーンはリリースしていった。

 本盤を発表後もライブで、いざアルト・サックスを構えたら、もちろんゾーン節ではあるのだが。本盤の辺りからゾーンはじわじわと作曲者として一歩引いた立ち位置を探り始めたように思える。

 本盤は発売当時から、繰り返し聴いた。煙った雰囲気と、異文化をふんぷんとさせる艶めかしいメロディに惹かれた。
 マサダの勇ましさももちろん魅力だが、本盤や"Bar Kokhba"を聴くことでぼくはジョン・ゾーンへ本格的に興味を持ったと思う。

Personnel:
Disc One: Issachar - All tracks performed by the Masada String Trio

Mark Feldman: Violin
Erik Friedlander: Cello
Greg Cohen: Bass

Disc Two: Zevulun - All tracks performed by the Bar Kokhba Sextet

Marc Ribot: Guitar
Cyro Baptista: Percussion
Joey Baron: Drums
Mark Feldman: Violin
Erik Friedlander: Cello
Greg Cohen: Bass



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