TZ 8307:Pat Metheny "Tap: The Book of Angels vol. 20"(2013)

 思わぬメジャー系ギタリストがTZADIKに登場した。
 

 編成や奏者を変えて、第二期Masadaの316曲を演奏するシリーズ"The Book of Angels"、第20弾はパット・メセニーが起用された。およそジョン・ゾーンと関連がつかめぬ人脈で、発売当時は驚いたっけ。リリースも契約やもろもろの主導権握りの関係か、メセニー側のノンサッチと、TZADIKからと同時リリースに至った。日本盤まで出た。ぼくはこの日本盤で聴いている。

 メセニーと言えばシンセ・ギターや自動機械仕掛けのオーケストリオン。どうせならオーケストリオンでの演奏を聴きたかったが、本盤はセッション仕立て。ただしダビングも多数施してる多重録音だ。
 実際はドラム以外、全てメセニーが演奏してる。クレジットに寄ればメセニーは生とエレキギターに留まらず、ベースも。パーカッションからピアノ、はてはフリューゲルホーンまで多彩な演奏を行った。

 選局面では6曲中、"Mastema"のみ再演。初演はMasada String Trioが"Vol.2:Azazel "で取り上げた。選曲はゾーンだと思うが、メセニー側も未発表曲の演奏に拘ったわけでもないらしい。いや、むしろ1曲だけカバー演奏して、メセニーの独自性をアピールか?

 サウンドは滑らかで整ったムード。熱気や破綻は控え、流麗な演奏ばかりなBook2シリーズでもひときわ、フュージョン寄りの仕上がりだ。ただしメロディの持つ粘っこいセンチメンタリズムを薄める愚を、さすがにメセニーはおかさない。
 切ない雰囲気を時にラテン風味をまぶして、軽やかにアレンジした。

 そう、アレンジが凝っている。手すさびでなく、真剣にメセニーは本アルバムに取り組んだ。
 エッジの立ったリフレインの波打ちで幕を開けた(1)は、シンセ風のギターを多重録音。サスティンの効いたギターを幾本も重ね、厚みを出した。ナイロン弦のふにゅっと揺れる音色を、電気仕立てで強調する。
 硬いドラムが威勢よく入り、メセニーの軽やかなベース・リフも加わって、メカニカルなフレーズをギターがまくしたてた。
 ソロはディストーション効いたエレキ。ワイルドに軋ませつつ、低音をスパッと切った音色で軽やかさを失わない。

 一転して穏やかなスペイン風味の(2)はアコギにて。ここでもリズムとテーマを対比すべく、幾本もギターのダビングあり。ベースも柔らかく鳴る。
 シンバルをスティックでこする音やブラシのドラムは、Antonio Sánchezによるものか。
 アドリブはブライトな音色のエレキギターが努める。フレーズの区切りで、単音ベースのアクセントが効果的だ。
 和音進行の妙味が美しい。浮遊感がたまらなく素敵だ。
 メセニーはバンドネオンをダビングし、ユダヤ風のロマンティックさを表現した。
 
 (3)は(1)に似てるが、もっと重心軽い。伴奏にピアノもダビングし、ゾーンのめまぐるしく上下するフレーズを、明るめなエレキギターでリフレイン。ミニマルに盛り上げたところで、シンセとピアノでブレイクをじっくり作る。
 パーカッションとドラムのコンビネーションも賑やかだ。パーカッションはメセニーかな。

 アドリブはエレクトリック・サックス風のシンセ・ギターで。サスティンどっぷりの柔らかで伸びる音色にて、ふわふわとソロを取った。ドラムはビート提示よりも空間の刻みっぽい。
 ギター・フレーズのオブリでシンバルを柔らかく打ち叩くパターンが、鮮やかに決まった。

 (4)はアラブ風味。シタール・ギターを軸に幾本もギターを重ねた。イントロのリズム隊はシンプルなパーカッション群のみ。
 ドラムが加わったとこでエレキギターに主役が変わり、ワウを薄く載せた泣きのソロを取った。しかもギター・ダビングを重ねて厚み出すことも忘れない。こういうアレンジ技が、凝っている。ギター一本でも成立したが、敢えて多重録音で音の複雑さを強調した。
 最後はディストーション・ギターで抽象的に終わらせる。
 
 (5)は一転してロマンティック狙い。アコギの爪弾きをまず提示、後ろはシンセ風の取り留めないうごめきで、不安感を煽った。クロスフェイドで軋むエレキギターが前に。ただし溌剌さは無く、混沌が延々と続く。
 エレキギターもきれいにクロスフェイド。アコギの爪弾きが再び前に出た。
 満を持して4分過ぎにアコギのソロ。バッキングもダビングを重ね、薄っぺらく思わせない。しかもこの曲、テンポ感はそのままにドラムも入れてスパニッシュ・ギター風のソロに繋がる。ストーリー性あるアレンジで仕立てた。

 最後の(6)はピアノ。そう、ピアノが前面に出た。達者な鍵盤ぶりを魅せつつ、手数の多いドラムや空ギターの掻き毟りでフリーっぽい雰囲気を演出した。
 アドリブでもフリーっぽいめまぐるしいフレーズを。
 アルバムとして、この終わり方は混沌すぎと思うが。そこはエッジの立ったTZADIK流に敬意を表したか。

 ウィロー・メセニーがVoとクレジットあるが、結局どの部分だろう。聴き逃したかなあ。

 アルバムから1曲、は選びにくい。そこまで個性は強くない。長々と書いたが、むしろアルバム全体を組曲として聴いてしまった感あり。このパンチ力不足が、本盤の物足りなさでもある。

Personnel:
Pat Metheny - acoustic guitar, electric guitar, bandoneon, sitar guitar, baritone guitar, orchestra bells, orchestrionic marimba, keyboards, piano, bass, tiples, percussion, electronics, flugelhorn
Antonio Sánchez - drums
Willow Metheny - vocals



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