FC2ブログ

Yellow Magic Orchestra 「増殖 X∞Multiplies」(1980)

 幸宏がさりげなく存在感を強め、三人が並べば何でもYMOと示した。

 本盤は後付けで聴いた。率直な話、当時にビジネス・モデルが始まった貸レコ屋"友&愛"の棚で初めて知った。83年くらいかな。当時はインターネットなんて便利なものは無い。全貌がつかめないまま直後に出た"X∞Multiplies"(1980)とあまり区別がつかず、戸惑ったものだ。

 スネークマン・ショーも本盤で初めて知った。コントと音楽を合体させた企画盤は当時でも奇矯な企画だった。中学生だったぼくは何が何だかわからず、最初は音楽が少ないから損したと思ったものだ。気が付いたら「だ~れ~?」って下りばかり聴いてる自分がいたけれど。

 当時は英語もさっぱりわからず。時事ネタの予備知識もない。だがあのコントだけは直観的に分かった。
 もっというと音楽も"Solid State Survivor"(1979)から大きく変わっている。わずか1年の間に。YMOは凄く長く活動していた印象が当時にあった。実際にはものすごく濃厚に変化していたわけだ。

 本盤は約半分が音楽。もう半分がスネークマン・ショーのコント。製作時間が無く10インチ盤になったという。実際の製作時期はもう少し後かもしれないが、"磁性紀-開け心-"を収録したり、あと1~2曲のカバーでお茶を濁せばフルアルバムを仕立てることもできたろう。
 それが叶わなかったのは、急ピッチでリリースを求めるレーベル側のプレッシャーとYMO自身に対する圧迫感だったのではないか。

 アルファ・レコードは最初に"Public Pressure= 公的抑圧"(1980)の第二弾を提案という。この盤が良い売れ行きに気を良くしての提案らしいが、あまりに戦略観や企画力、ビジネス・センスがない。
 幸いなことに細野が一蹴、本盤に繋がる。

 いっぽうで当時、YMOがシングル用に準備は"Nice Age"/"Citizens Of Science"だったという。幸宏は歌モノに拘る企画を出していたらしい。
 つまりYMO自身は既に次の音楽性へ向かっていた。"Solid State Survivor"の二番煎じは、ハナから封されていたわけだ。
 "磁性紀-開け心-"を聴いたとき、まだもう少しインスト・テクノなバンドの可能性が残ってると思ったのにな。

 いずれにせよYMOはストレートなLPを作らなかった、もしくは作れなかった。どちらが正解かは知らない。でも、YMOらも作る気が無かったんじゃないかな。
 敢えてサブカルチャー、もしくはひねりを入れることで担った期待にうっちゃりを狙ったのではないか。

 けれども音楽心は全く失っていない。スネークマンショーのネタはかなり時事ネタを含んでいる。ポール・マッカートニー逮捕、林家三平、ウルフマン・ジャック、大平総理とKDD汚職、などなど。80年の世相はよくわからないが、ポール逮捕は80年を筆頭にしてモロにこの時代の話題を突っ込んだみたい。
 だけどぼくが効いたのは83~4年。けっこう古臭かった。だけど、笑えた。

 それはネタそのものよりも、喋りの音程感やリズムなど音楽的な楽しみがあった。だから時を超えた普遍的なギャグになっている。
 この点が完全にコントに徹した"Service"(1983)のSETが持つ、いたたまれなさと違う。もっと具体的に言うと、英語がわからなくてもスネークマンショーのコントは笑えた。たぶん全部が全くぼくの知らない言語で行っていたとしても、そこそこ笑えていると思う。
 口調や繰り返しによるちょっと奇妙な笑いが本盤にはあるからだ。

 そのいわばミニマル的なノリをうっすら漂わせたのが執拗に繰り返される"Tighten Up"の挿入だ。冷たい目で聴くと、本盤のバランスはあまりにも水増し感がある。
 やたら"Tighten Up"で盛り上げつつ、オリジナル曲は"Nice Age"/"Citizens Of Science"のみ。
 にもかかわらず、本盤は面白い。それは贔屓の贔屓倒しだとしても、YMOによるグルーヴ感が本盤には詰まっているからだ。

 シーケンサーを使いながらも、本盤は思い切り肉体感に寄せた。細野弾むベース、跳ねる幸宏のドラム、そしてシンプルだが華やかな坂本のシンセ。
 三人はYMOの売りであるテクノ・ポップをかなり薄めながらも、きっちり成立させた。もちろん三人の技量あってのことだけど、インスト・シンセ曲でなくともYMOであるって幅の広さを本盤で見せつけた。
 
 作曲面では、細野は地味だ。プロデューサーとしてまとめながらも、彼の作品は一曲もない。
 細野はある意味、疲弊しており息抜きに本盤を作ったように思える。笑い飛ばさねばやってられない、とでもいうように。
 そして次なるアルバム"BGM"(1981)で実験性を思い切り追求にて、音楽的な閉塞性を打開にかかった。その代償として坂本がかなりへこんだようだが。

Track list
A1 Snakeman Show
A2 Nice Age
A3 Snakeman Show
A4 Tighten Up
B1 Snakeman Show
B2 Citizens Of Science
B3 Snakeman Show
B4 Multiplies

Personnel
Producer – 細野晴臣
Directed By [Snakeman Show] – Y.M.O.(細野晴臣,坂本龍一,高橋ユキヒロ)
Backing Vocals – Sandi,Chris Mosdell,福井ミカ

Programmed By – 松武秀樹
Electric Guitar – 大村憲司
Snakeman Show – 桑原茂一, Momonai-San(畠山桃内/伊武雅刀), Sakisaka-San(咲坂守/小林克也)

関連記事

コメント

非公開コメント