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Yellow Magic Orchestra 「Solid State Survivor」(1979)

 唯一無二で歴史を変え、関係性を狂わせた魔性のアルバム。

 YMOの2ndにしてテクノ・ポップの傑作は、隅々までタイトな電子音楽風味と人間臭いグルーヴを保ってる。
 シンセの華やかな響きとジャストなリズムに子供のころは惑わされていたが、何年も聴き重ねるにつれ、とても生々しい勢いもあり。シーケンサーと幸宏のドラミングが素敵に調和してる。

 今に比べればデジタルの分解性能も粗いらしい。そもそもほとんどがアナログなシンセの響きで素朴にして暖かい。硬くエッジが尖るよりも、野太く膨らむイメージだ。

 本盤が魔性と書いたのは、これで三人の関係性が崩れたと思うため。もともと細野晴臣はYMOが自分のバンドと思っていたろう。プロデュース・クレジットは前作だとハリー・細野。本作でも自分一人。
 バンドでありながら主導権を握り、自分のコンセプトを具現化しつつイエスマンではない関係を求めて、坂本龍一と高橋幸宏を招いた。
 そもそもこの当時、残念ながら細野に比べて坂本も高橋も格下だったはず。

 しかし細野は二人の才能を認めた。坂本の多様かつアカデミックさも兼ね備えた幅広さと、幸宏の原石な作曲力とジャストでシンプルなドラミングでグルーヴ使いっぷりに。
 細野は単に二人を引きあげるつもりだったろう。
 けれども、YMOは猛烈に売れた。さらに坂本も幸宏も従順に一歩下がったままのタマではない。特に坂本が。

 いくぶん慎み深かった幸宏とは細野がその後も継続的な関係を築けたが、坂本は凄まじく尖った頭角を現した。
 細野はコントロールを図ったに違いない。音楽的にというより、マウントを取りに行く方向へ。だが売れることで彼らは猛烈に多忙となった。YMOの活動に加え、スタジオ仕事もいっぱい。
 今のWikiは緻密に彼らの活動を追っており、あまりの多作ぶりに呆然とする。

 だから細野は完全に仕切り直しができなかった。そもそも根幹は音楽性の多才さによる個性のぶつかり合いで、誰が一番グラビアの表紙を飾るかって自己顕示欲のぶつかり合いではない・・・と思う。
 従って音楽性の向上は喜ばしいこと。しかし細野の思うようにYMOの製作に携われない。そんなジレンマが、本作以降あったのでないか。

 本作は、魔性だ。販売戦略的には"Solid State Survivor Pt.2"の二番煎じが、もっともやりやすい。本人たちは音楽的に飽きるとしても、聴き手にとっては大歓迎。
 けれどYMOはそんな安易な方向を取らなかった。ライブ盤で一息つき、多忙の合間にミニ・アルバムでお茶を濁し・・・三人の音楽個性のぶつかり合いはますます激しくなった

 結局、YMOは"Solid State Survivor Pt.2"に至ることができず、実験性高い"BGM"(1981),"Technodelic"(1981)に向かってしまう。その後も解散を前提にポップに遊んだり、エレクトロ・ポップを追求したりと方向転換を図る。
 とはいえ関係性を戻すことはできなかった。

 ぼくが本盤を聴いたのは中学生のとき。83年くらい。当然、夢中になった。これを聴きまくる一方で、"他に似たようなのは無いか?"と探す。しかし、無い。1stも聴いたが、本盤ほどポップじゃないと当時は感じた。
 不思議だった。歌謡曲なりニューミュージックなり、当時の販売戦略は"三ヶ月ごとにシングル"、"半年に1枚LP"だ。
 ところがYMOはそんな方法論を取らない。"BGM"(1981)や"Technodelic"も聴いたが、もちろん違う。戸惑った。

 彼ら三人の軌跡やインタビューを読んで、ようやくわかった。これは一期一会な蜜月の証。これが売れたことで、YMOを誰も制御できなくなった。だからこれは魔性の盤。
 一般的にYMOといえば本盤をイメージする。なのに本盤に似たアルバムは、せいぜい1stくらい。
 あとはオリジナル・アルバムを聴き比べても、本盤とは異なるスタイルばかり。

 なのにぼくが最も好きなYMOは本盤だ。賢しらげに他の盤を褒めることはあっても、根本的には"Technopolis"であり"Rydeen"であり"Behind The Mask"だ。
 だけど他に似たような盤は無い。それが何とも残念な一方で、本盤の希少性が際立つ。
 なおこの3曲、坂本もしくは幸宏の曲。細野の曲ではない。
 前作はほとんど細野の色に染まったアルバムだが、本盤は公平性を出した。細野の色はむしろ薄い。提供曲は"Absolute Ego Dance"と"Insomnia"。妙に気落ちしてくたびれた感じすらあり。

 前者は打ち込みの付点位置を変えることで沖縄音楽のビートを表現したアイディアだが、あまり細野は気に入った曲じゃないらしい。
 初めて聴いたときは沖縄音楽なんて知らないから、お囃子みたいなイントロの雰囲気が面白いなって思ってた。

 後者もたるっとしたムードは心地よいが、いささかマニア向け。"Technopolis"、"Rydeen"、"Behind The Mask"のもつ、直感的なポップさには負ける。

 本盤は坂本と幸宏に活躍の場を大胆に与え、YMOは強烈に活性化した。"Day Tripper"のカバーも秀逸。ぼくは本盤を先に聴いたため、中学生のときに遡ってオリジナルを聴き「ニューウェーブの素地をビートルズが作った!」って無邪気に考えたけど。それはもちろん間違い。
 テクノ風味に仕立てたYMOのアレンジこそ、賞賛すべき。
 最後に納められた幸宏作のタイトル曲"Solid State Survivor"も"Day Tripper"に呼応する。テクノとロックをカバーでもオリジナルでも、きちんと表現した。

 本盤はほんとうに隙が無い。アッパーな楽曲をA面は散りばめ、坂本の"Castalia"で幻想的にしめる。
 B面は華やかで未来的なアルペジオの"Behind The Mask"で幕を開けつつ、ニュー・ウェーブの鋭く硬いムードで疾走した。"Insomnia"でメリハリを施して。

 細野は敢えて一歩引き、プロデューサーの視点で本盤をまとめた。その後の苦悩や軋轢は予測できず。けれど細野が我を抑えてくれたおかげで、本盤は唯一無二の傑作となった。

Track list
A1 Technopolis 4:14
A2 Absolute Ego Dance 4:38
A3 Rydeen 4:26
A4 Castalia 3:30
B1 Behind The Mask 3:35
B2 Day Tripper 2:39
B3 Insomnia 4:57
B4 Solid State Survivor 3:55

Personnel
Composed By, Arranged By, Performer, Remix, Design Concept – Yellow Magic Orchestra
Producer,Bass, Keyboards, Voice – 細野晴臣
Drums, Vocals – 高橋幸宏
Keyboards, Voice – 坂本龍一

Voice – Sandi (A2)
Guitar [Electric] – 鮎川誠(B2,B4)

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