TZ 7390:John Zorn "The Satyr's Play / Cerberus"(2011)

 緻密で幻想的な2曲を収録。明確に作曲だが、即興要素のせいか"Archival"枠でリリースだ。

 前半は"The Satyr's Play"(2010)。副題は"Visions of Dionysus"で、ケニーとシロというジョン・ゾーン馴染の二人によるパーカッション・デュオ。酒の神バッカスと農耕の神サートゥルヌスの頽廃的なさまをテーマに作曲したらしい。ディオニュソスはバッカスの別名だ。

 リズムの斬り合いでなく、パーカッションを駆使した最小限編成での雄大なオーケストレーションを味わえる傑作。
 たぶんダビング無しと思うが、すごい音の厚みと穏やかな緊張だ。打楽器による緩やかな音程が紡ぐ旋律の、厳かな美しさが噴出してくる。
 古代ローマの厳粛で素朴な美学を見事に表現した。8楽章の構成と、数分単位で短くまとめたのがゾーンらしい。いたずらに長尺で弛緩せず、きびきびと楽曲全体にスリルを施した。

 帯裏では"File card composition"な他の盤を宣伝しており、もしかしたらこの楽曲もファイルカード式かも。一音一音が譜面じゃないにしても、流れはきっちりとコントロールされている。場面転換の素早さも見事だ。ケニーとシロ、二人の確かなテクニックと即興力あってこその、引き締まった演奏が聴き応えある。
 リズムがしゃっきり立ち、くるくるとタイトに移り変わる場面が素晴らしくかっこいい。

 ジャケットやブックレットの素描は、20世紀中ごろに活躍したイギリスの画家オースティン・オスマン・スパーの作品を採用した。近年のTZADIK盤で見事なデザインを披露するChippyのデザインなデジパックには、この楽曲にちなんだテキストも書かれている。飾り文字で今一つ読めないが、何が書かれてるんだろう。


 後半の作品"Cerberus"(2010)は1楽章構成で10分強の少品。本盤へ収録はタイトルの"ケルベロス"から、ギリシア/ローマ神話の繋がりかもしれない。
 
 tp,tuba,b-tbの三重奏で、おそらくほぼすべてが譜面と思われる。敢えてリズム楽器を入れず、無機質で抽象的なフレーズが頻出する楽曲を、金管三本のはじける硬い響きで逆説的な荒々しさを表現した。
 こういう鋭い表情を出す作曲力が、ゾーンの才能だと思う。鳴らしっぱなしでなく、メリハリつけた空間多い楽想だ。前半"The Satyr's Play"ほどの緊迫感は無いが、このスペースある透明度が、滑らかにアルバムの統一性を出した。

 トラックは10分強で1個のみだが、楽想はしばしば演奏中に寸断して異なる場面に飛ぶ。もしかして、これもファイル・カード式の作曲?メロディの流れは全く脈絡がない。あちらへこちらへ自在に展開する一方で、隅々まで制御されている。ノイズでは無く、常にアンサンブル。けれどもノイジーな吹奏も頻出する面白い曲。

 ちなみに本盤演奏のメンバーで11年12/9にライブ演奏も披露された。

 なお本盤は獣の数字にちなみ666枚だけゾーンがサインしたナンバリング付なバージョンもあり、NYの"Downtown Music Gallery"かサンフランシスコの"Fields Books"のみで販売された。

Personnel:
Cyro Baptista: Percussion
Kenny Wollesen: Percussion

Marcus Rojas: Tuba
David Taylor: Bass Trombone
Peter Evans: Trumpet

関連記事

コメント

非公開コメント