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Van Morrison 「Back On Top」(1999)

 じわりと老いを、受け入れたかのような盤。

 ヴァン・モリソンの27thアルバムは"The Healing Game"(1997)から2年ぶり。ただしあいだに2枚組の未発表コンピ"The Philosopher's Stone"(1998)が出ており、久しぶり感は全くなかった。
 この盤のとき、ヴァンは50歳初頭。誰にも等しく訪れる老いを、彼がどの時点で意識したかは分からない。だが振り返ると、本盤前後で自らの衰えを意識し始めた気がしてならない。
 
 ヴァンは色んな意味で精力的であり、浮名も様々に流してきた。よぼよぼしてきたって自覚は無かったろう。けれども喉の迫力だけは、いかんともしがたい。
 本盤の時点ならば、彼の歌はそこまで危なっかしくなっていない。けれどシャウトや凄みは丸くなってきている。
 彼はミック・ジャガーとは違う。自分の年齢を否定せず、若さを延命させず。逆に若年寄のごとく受け入れ、逆に自らと音楽そのものを深く遡り掘り進めることで、質の芳醇さを狙っていった。

 この盤でヴァンはバンド・メンバーを前作とあれこれ変更したた。パブ・ロック的な顔ぶれを加えたようだ。ロック的なダイナミズムを取り入れたかったのだろう。
 製作にあたっても、スタジオ・ライブ形式。1~2テイク程度しかテープを回さず、次々に録音して手を加えなかった。ストリングスをあとからかぶせただけ。
 
 つまりスタジオ作業やエフェクタ加工を最小限にして、作りこみと逆行した。98年の製作にしては、アナクロ趣味にすぎる。だがこの純粋さ、肉体的な無垢さこそが狙いだろう。
 飾らず、弄らず、素直に自分をみせることが、なによりの自己表現に繋がると信じたのだろう。まさか、予算かけずサクッと面倒なく作ることが目的ではあるまい。

 潔く、躊躇わない。ヴァンは渋く、のびのびと歌った。声量や勢いは往年に比べるべくもない。しかし美しいメロディとしなやかなグルーヴは、とても心地よい。
 ストリングスのダビングも、それほど派手じゃない。前述のようにパブ・ロック的なメンバーを並べて、荒っぽいパワーも内包させた。
 しかし無闇にアップテンポを選ばない。ごくしっとりと、しなやかに表現した。

 もともとヴァンは老成したイメージで若いころから音楽を作ってきた。この盤あたりで、とうとう肉体年齢が精神年齢に追いついてきたかのよう。そして聴いてるぼく自身も、この時点のヴァンにだいぶ歳が近づいてきた。
 ロックは根本的に若者向けだ。すでに60年越えでロックの歴史が続いており、いろんな観客向けに多様化してるけれど。

 だがヴァンはぶれない。自らの創造力と価値観を素直に表現して、等身大かつ無垢に音楽を作ってきた。
 この盤は発売当時、正直ピンとこなかった。(3)とか、幾つか良い曲はあると思ったけれど。しかし、改めて聴き返すと沁みる。

 本盤で彼は、大人のダンディズムを伸び伸びと描いた。(1)の50年代ブルーズ色濃いアレンジは発売当時、むしろアナクロニズムに思えてしまった。
 今聴き返しても、これを一曲目に置くのはアクが強すぎると思う。それこそこの曲はアルバムの中に埋め込んだ方が、もっとさらり聴けたろう。だがその選択肢は無難な道。あえて一曲目に配置が、ヴァンの自己主張なのだろうけれど。
 実際、この曲が最も彼のアクの強い歌声になってるし。

 雄大な風景を堂々と歌い進む(2)で、本盤は一気にヴァンの世界へ聴き手を引きずり込む。終盤でのハーモニーがとにかく美しい(3)も格別だ。70年代後半から80年初頭に追求した、内省的なしっとりムードが展開した。

 タイトル曲の(4)でヴァンはブカブカとハーモニカを吹き、ブルージーにテンポアップして気分を一新。だが安易に盛り上げず(5)で再び穏やかな地平へ戻った。
 (6)のカントリー風味で明るく照らし、(7)はデュエット的な歌声で主旋律に膨らみを持たせつつ、バラードをジワッとファンキーに描いた。

 ヴァンは決してこの盤を暗くは作らない。(8)はアコギのストロークを持ってきながら、サム・クック"What A Wonderful World"を連想させる曲調で、ソウルフルさを滲ませた。オルガンがゴスペルっぽい味わいを足している。
 (9)で50年代R&Bっぽいアレンジを採用。70年代からヴァンの選んだ志向から繋がってはいるが、本盤はむしろノスタルジックな味がする。敢えて語りっぽく歌うヴァンの喉が似合ってる。鈍重だが小粋さも漂わせた。

 そして最後(10)は、静かなビートによる希望を持たせたミディアムで、スケール感大きくしめた。
 アルバムを見渡すと、BPMが速めの曲は少ない。だが(10)のしなやかな余韻で清々しく終わる。
 力作とか熱気とか若々しいって言葉とは真逆の世界。しかし懐メロや過去の栄光にすがってはいない。新しさとは少し違うが、ヴァンは本盤で堂々と自分をさらけ出してる。

Track list
1 Goin' Down Geneva 4:24
2 Philosophers Stone 6:05
3 In The Midnight 5:07
4 Back On Top 4:23
5 When The Leaves Come Falling Down 5:39
6 High Summer 5:12
7 Reminds Me Of You 5:39
8 New Biography 5:23
9 Precious Time 3:45
10 Golden Autumn Day 6:31

Personnel
Van Morrison - vocals, acoustic guitar, harmonica, producer
Mick Green - acoustic and electric guitars
Pee Wee Ellis - soprano, tenor and baritone saxophones, background vocals
Matt Holland - trumpet
Geraint Watkins - piano, Hammond organ
Fiachra Trench - piano
Ian Jennings - double bass
Liam Bradley - drums, percussion, background vocals
Bobby Irwin - drums
Brian Kennedy - background vocals
Irish Film Orchestra - strings
 

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