TZ 7214:Merzbow "1930"(1998)

 日本が誇るノイズ・ゴッドMerzbowのTzadik初登場盤。シンセを巧みに巻き散し、明るめの音像を作った。

 ゾーンはプレイヤーゆえか比較的、エレクトロノイズ系には冷淡だ。あるていど演奏の肉体性を志向するらしい。とはいえメルツバウだけは無視を控えたかTZDAIKに2枚のみリリースがある。
 秋田昌美のユニットMerzbowはハーシュノイズと呼ばれる、轟音で空間を乱暴に埋め尽くす無機質なノイズを得意とする。リズムを取り入れた盤もあるが、ほとんどはノイズそのものが持つうねりやビート感を好む。その観点はロックで言えばディストーションの効いたギターソロ。もしくはクラシックのオーケストラに近しい音楽性をぼくは感じる。

 ストイックな音楽性だが、少なくとも出音からは数理的なロジックは感じない。むしろ直感かつ体感的なノイズを無造作に溢れさせている。
 録音はMerzbowの個人スタジオZSF Produkt Studioにて。ミックスもメルツバウ自らが行った。

 メルツバウは膨大なリリースを行う中で、微妙にアルバムごとで音楽性を変えてきた。さらに中期的にもくっきりと手法を変化させた。前者で言うと本盤は比較的にコンパクトな音像を志向した。後者の流れ的には金属+シンセノイズからPCラップトップ内の波形ノイズへ移行する寸前の頃合いだ。

 収録曲は5曲。イントロの数分曲から最終曲の21分長尺までバラエティに富んだ構造を持つ。何らかのトータル性を意識た盤かも。タイトルの"1930"が西暦だとしても特に思いつく関連しそうな出来事は無い。

 変貌伸縮するノイズが本盤の愉しみ。剛腕ハーシュで盛り上がったエレクトロノイズは、じわっと脈動するシンセへいつしか変化する。同じパターンのように見せかけて、繰り返しはほとんどない。メタモルフォーゼの刺激がメルツバウの魅力だ。
 さらにノイズ全体のボリュームを上下させるミキシング的なアプローチもあり。意外と珍しい。たいがいはフルボリューム力押しのイメージがある。炸裂とつんざく轟音が、ふくよかなアナログ・シンセのきらめきと混ざり、溶ける。

 しかし個々の音色はくっきり聴き分けられる分離の良さがあり。ミックスで溶かし混沌は狙わない。ピント併せた明晰を残した。

 なおこちらの文章は約9年前にぼくが書いた感想。ついでにリンクを貼っておく。

Personnel:
秋田昌美:Electronics [Noise Electronix], Tape, Synthesizer [EMS Synth-A, EMS VCS 3, Moog The Rogue]

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