TZ 7303:John Zorn "Locus Solus"(1983/1997)

 強烈な音の断片が詰まった盤。音楽のとっつきは悪いが、ジョン・ゾーンの先鋭性を象徴する重要な習作だ。単なるデタラメを超えた細密さと、時間を圧縮した突発性を味わう盤。今回、本項書きながら繰り返し聴いてたら、ぐいぐい魅力に引き込まれた。


 ゲーム・ピースらしいが構造やルールは読めない。トリオ編成を基本に唐突な変化と跳躍が無秩序になされる。一方で音構造は一発録音を基調だが、終盤には多重録音も取り入れた。
 実際、ライナーでゾーンは(35)「現時点の最高傑作であり、マルチ・トラックが作曲に役立つと分かった最初の曲だ」と評す。聴いても共感できないのが、困り者。他の曲と違いが分かりづらいうえに、思い切りハードコアなスラッシュでつかみどころ無い。
 
 "ロクス・ソルス"はゾーンによると後のバンド、ペインキラーやスランにトーチャーガーデンなどの原型と言う。歳を取った今だと忘れてしまってるが、若さゆえの破壊衝動や自己特別意識の自我の高まりと、そもそもの音楽才能が融合した傑作、とも取れる。
 頭の回転にすべてがついて行かず、とにかくスピード速くあらゆるものをいっぺんに表現したい。そんな焦りと自負が本盤に詰まってる気がする。

 本盤には5種類のセッションが収録された。
A: 1- 8:83/2 スタジオ:Zorn/Blegvad/Marclay
B: 9-15:83/4 スタジオ:Zorn/Lindsay/Fier
C:16-22:83/4 ライブ :Zorn/Miller/Lindsay
D:23-30:83/5 スタジオ:Zorn/Mori/Horvitz
E:31-38:83/9 スタジオ:Zorn/Kid/Miller

 最初はLP2枚組で録音直後の83年中に発売。91年に再発時はCのアウトテイクで(16),(18),(20),(22)の4曲を追加収録。97年再発のTZADIK盤も91年の構造を踏襲した。
 ライブでリアルタイムの即興だ、と明確にクレジットされている。

 録音の流れから分かるとおり、ゾーンはメンバーでなく楽曲志向だ。メンバーとの親和性を詰めず、次々にメンバーを変化させサウンドを固めようとした。
 演奏面で驚異的なのが、ゾーンのタンギング。テープの早回しかと思った。猛烈な高速で吹きまくる。このテクニックだけで場を作れるし、実際にゾーンはこの後もサックスの技巧をさまざまに使った即興を行う。

 けれどもLocus Solusではゾーン自身の才能も一要素とした。さらにクリスチャン・マークレーのターンテーブル編成を冒頭に行ったことで証明されるが、楽器アンサンブルでなく音の積層そのものを狙ったと伺える。
 短時間で集中し、世界を高速で変えていく。セッションAはその究極で、ゾーンのサックスとタンテの上でブレグバドが朗読するのみ。素早く音を変化させられるマークレイのタンテ技術あってこその音像だ。弛緩しかねない編成を、ループめいた数台のタンテ使いでサウンドに緊張感をマークレイは維持させた。超絶のタンテ技術こそ、このセッションの聴きもの。ほんとうにこれ、一発録音なのか?

 セッションBでゾーンはメンバーを一新、もっと肉体的なアプローチに向かう。Locus Solusのパブリック・イメージは結局、このトリオだ。アイディア先行のギターと、テクニックあるが着実なドラミングに、変てこサックスが乗るかたち。
 リンゼイのパンキッシュな炸裂を楽しめるかで、本セッションの価値は変わる。ぼくはどっちかと言えば、もっとテクニカルなほうが好み。たぶんゾーンはこのとき、非再現性の美学を追求ではないか。後年の作曲作品ではテクニック志向が強まるが。

 セッションCのライブはお気に入りのリンゼイを迎え、ドラムをMillerに変える。この意図は音楽的に聴き分けられていない。もっとパワフルさを狙いか。
 本セッションでは青白く叫ぶ、リンゼイのボーカルのほうに耳が行く。音程もメロディも無視した潔さが、若さゆえ。さらに才能だと思う。

 セッションDでがらりメンツが変わる。DNAつながりでイクエ・モリが起用され、鍵盤はテクニカルなホーヴィッツに。技術と原初性の双方をメンバーそれぞれに託した感あり。 
 ゾーン自身はどちらも自由に飛び回れる。ホーヴィッツは幾層も鍵盤積み重ねてる印象だ。アカデミックさはさほど見せず、軽快なテクノっぽいアプローチで遊んだ。しかしゾーンのサックスが冴えている。同時期のソロ・プロジェクト"The Classic Guide To Strategy"(1983)で昇華する、マウスピースのみのアプローチも存分に投入した。

 最後のセッションEがクセもの。前述のとおりオーバーダブを意識的に取り入れた。メンバーがKidにMillerと変わったのも、偶然ではあるまい。録音とダビングどちらのアイディアが先かは不明だが。ゾーンは奏者の演奏に見切りをつけ、ダビングで音楽の強度を高める方向に向かった気がしてならない。

 ゾーン生誕50歳ライブでのLocus SolusはセッションBの編成。とっ散らかったパワーを、生き延びたキャリアを踏まえた奥行持ったインプロをぶちまけた。
 だが本盤でのメンバーは、だれもが評価を得る前だ。自信の裏付け無く、強烈な自意識と自負と、自らへの確信のみで作り上げた前衛。だからこその青くさいスピードがある。
 その一方で、唯一無二の独自性もある。確かに聴きづらいし聴きどころに困る。けれども繰り返し聴いて音像へ馴染んだ瞬間に、当時の彼らがいかにシャープで新しいことをやっていたか、がわかる。先鋭性とは、こういうものか。

Personnel:
John Zorn:alto and soprano saxophones, game calls, Bb Clarinet

Christian Marclay – turntables (tracks 1–9)
Peter Blegvad – vocals (tracks 1–9)

Arto Lindsay – guitar, vocals (tracks 10–22)
Anton Fier – drums (tracks 10–15)
M. E. Miller – drums (tracks 16–22, 31–38)

Ikue Mori – drums (tracks 23–30)
Wayne Horvitz – keyboards (tracks 23–30)
Whiz Kid – turntables (tracks 31–38)



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