TZ 7375:Masada Quintet "Stolas:The Book of Angels Volume 12"(2009)

 アルバムごとに編成や奏者を変えて、第二期Masada"The Book of Angels"の316曲を演奏するシリーズ、第12弾はMasadaの変奏/拡大バンドだ。

 限りなくMasadaに近くて、すごく遠い。ジョン・ゾーンの非凡さが強調され、ちょっとの変化でこんなに違うのか、と痛感の一枚。

 本盤はMasadaからゾーン自身を抜き、オリジナルの三人にユリ・ケイン(p)を追加。さらにジョー・ロヴァノ(ts)を投入した。しかもゾーンは(6)にゲストで参加した。ゾーンと他のメンバー、どっちがMasadaに飽きたのか。もう、Masada本体でいいじゃない。

 とはいえ本盤はまったくMasadaと音楽性が違う。曲ごとにアレンジが大きく変わっており芯が見えづらいのはセッションゆえの不安定さだから仕方ない。だがゾーン不在でスピード感とクレヅマーの切なさがだいぶ減じた。もっとゆとりを感じる。
 寛ぎでも、緊迫感の無さでもいい。ポジティブにもネガティブにも、とれる。それほどゾーンの存在感はデカい。

 なお本盤の演奏曲は他のMasada Book 1や2とレパートリーが被らない。本盤のみの演奏だ。とはいえずぶずぶとMasada臭が漂う。でもMasadaじゃない。ややこしいが、本盤はそんな感じ。
 楽曲のもつクレヅマー特有の情感はある。しかしテーマへ性急に絡むゾーンのサックスが無く、お行儀よく回されるソロに余裕を感じた。ピアノのせいか、ラテン風味の色合いも感じる。Masadaがライブハウスの薄暗さと不穏さに例えたら、本盤はジャズクラブの落ち着きとバラエティさだ。

 テナーを吹くラヴァノはオハイオ出身。1952年生まれだからゾーンの一つ年上だ。"Tones, Shapes & Colors"(1985)を皮切りにリーダーアルバムも数多い。ぼくは彼をロクに聴いたことないが、ジョン・スコフィールドのバンドで名を上げ始め、ポール・モチアンと多くの共演をしている。主流派ではないが、フリーに行き切らず。硬質にちょっと尖った音楽。そんなイメージ。
 TZADIKとの接点は、どうやら本盤だけらしい。いかにもゲスト扱いだ。

 ゾーンとラヴァノは対極。だからこそ本盤での意外な音楽風景に繋がる。デイブ・ダグラスが尖ったら別かもしれないが、あんがい彼は空気を読んでしまう。本盤はそれこそラヴァノが前面に立ち、ダグラスは一歩引いた印象だ。
 それはコーエンとバロンも同じ。歯がゆくもある。どうせならMasada色でラヴァノを発奮させろよ、と。だけどみんな大人だ。するっと落ち着いたアンサンブルを構築した。
 バロンの賑やかなドラミングのみ、若干Masadaっぽい。

 ならばゾーンの加わった(6)で一気にMasada化するかというと、違うところが面白い。冒頭のサックス・デュオでは左のゾーンにつられて若干の加速がラヴァノに見える。
 一気にバンドが加わってのテーマも、ゾーンの擾乱がアンサンブルに緊迫感を与えた。しかし、どこか大人しい。でもコーエンのベースラインがちょっと派手になり、バロンのドラムもベタッと重心を下げる。この二人のデュオだけ聴くと、Masadaそのものだ。

 不思議なもんだ。なぜこんなに場面ごとで色合いが違って聞こえるのだろう。

Personnel:
Joey Baron: Drums
Uri Caine: Piano
Greg Cohen: Bass
Dave Douglas: Trumpet
Joe Lovano: Tenor Saxophone

John Zorn: Alto Sax on 6


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