TZ 7073:大友良英 "Anode"(1999)

 "Cathode"(1999)と対をなす大友良英の作曲シリーズで、轟音系だ。


 本盤"Anode"のコンセプトは"Core Anode"(2008)に繋がっていく。音量の面はさておき、ターンテーブルを乱立させる大友のインスタレーション"without records"(2008)にも、本盤と共通するコンセプトを感じた。

 

 "Anode"の英文解題の原文をここで読める。本盤のテーマはそこへ過不足なく書かれている。つまり「他人の音に反応しない」即興演奏だ。大友は両極端のアプローチをしばしば取る。コミュニケーションを大事にするわりに、こういったコミュニケーション不全の音楽へも強い興味があるようだ。聴いて生まれるアンサンブルよりも、まさに日常生活で互いに無関係な音たちが集まり生まれる「ノイズ」が狙いかもしれない。

 数曲でミュージシャンの出入りがあるものの、基本は大編成の轟音もしくは混沌。メンバーは大友の音楽に馴染み深い、前衛ミュージシャンが顔をそろえた。吉祥寺Gok Soundでの録音だがAnnette Krebsの参加が目立つ。たまたま来日中かな?

 くっきりと分離を意識したミックスながら、さすがにスピーカーでは団子になる。きちんと聴くにはヘッドフォンの方が向いている。しかしドラムセット数台に負けず、生楽器の音も聴こえるミックスが驚異的だ。

 (1)はトップスピードの疾走が続き、細かな音の奔流が連続同時発生する痛快さが楽しめる。(2)は密やかなノイズ。生音はともかく、一音づつがゆっくりと現れては消えるため、音像は静謐だ。ストイックだが、どこか趣きある風景が心地良い。
 (3)は(2)とアプローチが似ているが、より音に強度が増えた。聴くときの音量はさておき、轟音の要素が強まっている。

 音像は本来の指示だと、互いに反応していないはず。だが聴いている身としては、そこにドラマを付与し関係性を探ってしまう。実際、なんらかのストーリーがあるかのように、演奏は緩やかに雄大に盛り上がる。起承転結も他人への反応も無いはずなのに。不思議だ。

 大友はこの後も、本盤のコンセプトを明示/暗示に拘りながら音楽を作り上げていく。本盤は活動初期の習作ではない。完成度の高い傑作だ。しかし大友は、さらに音楽の純度を高めていく。よって現在の原型として聴くのも良い。アイディアを付与する前、そもそもの要素を絞っているため、音楽の生々しさは格別だ。

 ちなみに大友の指示は以下のとおり。

全曲に共通する設定は以下の3つ。
a) 他人の音に反応してはいけない
b) 起承転結をつけてはいけない
c) 普段使っている音楽的な語法やリズム、メロディ、クリシェを使ってはいけない

これをもとにAnode 1~3それぞれにさらに異なる制限を設けました。例えば、Anode 1では打楽器奏者に対しては「大きな音量で、余韻が聞こえる前に次の音を出す」という指示を、Anode 2では「自分の出した音の余韻がなくなってから次のアクションを考える」、「毎回出す音は一打のみで、かつ音の種類や音色、音量を毎回変えること」(略)



 (4)は(1)の別テイクとして収録は嬉しいが、正直なとこアルバムの完成度の観点では余剰だ。轟音で(2)と(3)を包む狙いかもしれない。だけど(3)で終わる構成って、味があったと思う。
 轟音で貫かれ、隙間多い音で癒され、新たな世界の(3)に浸る。そんな流れの味が。 

Personnel:
イトケン: Drums, Crotales, Percussion
高良久美子: Tympani, Vibraphone, Percussion
Sachiko M: Contact Microphone, Sine Waves
古田マリ: Crotales, Percussion
植村昌弘: Drums, Percussion
杉本拓: Electric Guitar
秋山徹次: Contact Microphone, Turntable Without Records
芳垣安洋: Drums, Percussion
一楽儀光: Percussion, Drums
西陽子: Prepared 17-string Koto (on 2,3)
大友良英: Electric-feedback Guitar (on 1,4)
Annette Krebs: Electro-acoustic Guitar (on 2,4)

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