TZ 7302:John Zorn "Elegy"(1992/1995)

 ファイルカードによるしなやかで抽象的な楽曲。非常に難解なイメージの盤だ。とにかくこの盤の音楽は、歯ごたえがある。なかなか、歯が立たない。


 まず日本のEvaから92年に発売。改めてTZADIKから再発された。2011年には10周年記念の再発も、同じTZADIK番号で行われた。こちらは聴いたことが無く、リマスターなりの新たな工夫施してるかは不明だ。

 フランスの作家ジャン・ジュネにインスパイアされた盤で、ライナーには"泥棒日記"からの文章が引かれてる。ファイルカード・システムを導入と言いつつ、いわゆるスピーディな切り替えは無い。緩やか、しかしきっぱりと唐突な場面展開がファイルカード方式か、と何度も聴いてようやくイメージで来た。

 ジャン・ジュネはさまざまな経験を持つ人生を辿った。楽曲構造的には4曲に分かれるが、それぞれストーリーなり設定が刻まれたカードを元に録音したと思われる。音楽風景は唐突に変わり、一発録りとは思えない。ノイズと弦の世界が交互に顔を出し、ときおりSEめいた具象音が入り、たまにエキゾティックな風景混ざる。

 映画のサントラを聴いてる気分だ。聴きながら細かく場面分析してストーリーをあてはめても、おそらく当たるまい。ゾーンは聴き手に共感でなく、音楽そのものを味わって欲しそうだ。なぜならばこの楽曲は、すごくとっつきづらい。リズムもテンポもフレーズも、およそ共通性や一貫性が無い。これをスピードも喪失させ、淡々とつながるのは異様に辛い。共感できる要素が無く、聴きどころを探すのが一苦労だ。

 通底するのは残忍な美しさ。ハードコアに炸裂せず、強靭な金属質の音で始まる冒頭からも、穏やかでクラシカルな世界をつなげて慰撫と神秘的な緊迫感を付与した。
 NYを拠点とするゾーンだが、本盤はサンフランシスコで録音。敢えて地元から離れ、録音体制そのものも不慣れさを用いたか。漂泊するジュネへ近づくために・・・と、無理やり物語性を付けるのも、なんか不毛だ。単純にたまたま、西海岸にゾーンがその時いただけかも。

 参加したミュージシャンはMr.BungleからTrey Spruance。その後も濃密にセッションし続けるマイク・パットンもこの人脈と言える。TZADIKからのちにアルバムを出す、David SlusserやDavid Sheaの名もあった。他はスタジオ・ミュージシャン的な参加かもしれない。

 聴くたびにこの盤は、なんらかの気づきが脳裏にひらめく。つかみどころ無いだけに解釈が深まる、もしくは誤解が加速する気がする。後年のゾーンが施す、オカルティックな数理性は本盤に感じない。作曲されていながらも、非常に即興っぽい。
 エピソードを連ね、意識したのは逆ドラマティック性。盛り上がりを唐突に切り替えることで、逆に非連続が不思議なストーリーを持ち始める。そんな幻夢さを狙っているかのよう。

Personnel:
Effects [Sound] - David Slusser
Flute [Bass, Alto] - Barbara Chaffe
Guitar - Trey Spruance
Percussion - William Winant
Turntables - David Shea
Viola - David Abel
Vocals - Mike Patton


関連記事

コメント

非公開コメント